追放エースは女子サッカーコーチから成り上がる 【旧題】:サッカー界から追放された俺、女子サッカー部を成長させる……って、なんでハーレムが出来ている!?
第63話 山岳高校(with 豆芝)VS沢江蕨高校 ハーフタイム
第63話 山岳高校(with 豆芝)VS沢江蕨高校 ハーフタイム
「まさか前半を勝ち越せるなんてな……」
「いやぁ~~中々やれますね! 私たち!!」
岸神と須王が楽しそうにベンチ前で笑いあう姿を見つめながら、俺はベンチに座り給水を行っていた。激しい競り合いをしてないため体力の減り具合は小さいが後半戦ともなるとより強度が増す可能性が高い。故に、前半よりも入念にストレッチを行い怪我を防止するべきだ。
そう考えた俺は一早く給水を終えた後、入念なストレッチを行う。しっかりと己の体をほぐした後、俺はゆっくりとボールを触る。サッカーボールを足裏で撫でつつ、右足、左足の甲でボールを下側から叩く。ポンポンとボールを跳ねさせていると後ろから声がかけられた。
「上手いですね! もしかして、どこかでサッカーされていたんですか!?」
リフティングしながら声の主を見る。両目を輝かせながらうずうずとしている霧原さんの姿がそこにあった。
「まぁそうですね。それなりに強いチームでサッカーしていましたよ。現在はコーチとして活動していますけどね」
「へぇ~~そうなんですか。なんというか、私と似ていますね!」
「似ている……!」
「はい、そうです! 実は……私、私立帝王三国学園ってチームに行こうと思っていたんです」
私立帝王三国学園という名前を聞いた俺は背筋をピクリと動かした。
私立帝国山王学園は、女子サッカー界で斉京学園と匹敵すると言われている強豪校の一つである。その要因として、サッカー部のセレクションがあげられる。各地方で上位の実力を持った選手から、日本代表出身まで数多くの選手が受けるのだ。
そして今年は、
「……で、君はその試験に落ちたってわけか」
「えぇ、はい……お恥ずかしながら……落ちちゃいました」
「そっか。落ちた要因ってのは分析出来ているの?」
「私が落ちた原因としては、FWとしての我が足りなかったからだと思っています。荒畑さんみたいにチャンスを貰っても決めきるという力が、当時は備わっていませんでしたから。それを考えると……荒畑さんと出会えた私は幸せ者ですよ。だってあの人の指導を受けながら――私は選手として大成する道を手にしようとしているんですから」
右頬を恥ずかしそうに右手の人差し指で擦る彼女を見ながら俺は問いかける。
「……君、マネージャーなのに選手を目指しているの?」
「はい!」
「へぇ……なんというか、凄いことやってるね。その、他の高校進学とかは、考えていなかったの?」
それを聞かれた霧原さんは「う”っ!」と苦虫を噛んだ声を出した。
「――ちょっと話変えようか」
「は、はい。お願いします」
「それじゃあ、普段の練習について教えてもらってもいいかな?」
俺が霧原さんに問いかけると説明してくれた。沢江蕨高校は荒畑さんがFリーガー時代の時に行っていた練習を多く行っているらしい。特にオフサイドありの小コートフットサルは個で状況を解決する技術を身に着ける際に有効らしい。
(本当に有効なのか……?)
少しだけ思ったが、荒畑さんが有効だと言っているのだから有効なのだろう。
「……霧原さんのチームは今年どこまで目指すの?」
「今の所全国ベスト4ですね。斉京学園がいることを考えると、優勝は難しいかもしれないとのことです。まぁ、荒畑さんから直接聞いているのは私だけなので、他の方は知らないですけどね」
「なるほどねぇ」
「豆芝さんの所は今年どこまで目指すんですか?」
「勿論、優勝だよ」
「ゆ、ゆゆ優勝!? 本気で言っているんですか!?」
「本気も本気、大マジだよ。それに……俺は今年一年しか無いからね」
Mr.Jの言うことを誠に受けるなら、男女混合サッカー大会が行われるのは今年中の可能性が高いだろう。それを考えたら、あいつらといられるのは今年中と考えるのが妥当だ。
「今年一年って……辞めちゃうんですか?」
「辞任ってわけじゃないけど……まぁ、契約関係だしね」
「なるほどです。うぅ……そういわれたら、荒畑さんがいつかいなくなるかもしれないって思って胃がキリキリしてきた……」
「ハハハッ、そんな心配しなくても大丈夫だよ。あの人は君にぞっこんだから」
「えぇ~~? 本当ですかぁ?」
霧原さんはニマニマ笑いながら首をかしげる。なんか嬉しそうだなと思いつつ彼女を見つめていると――選手たちがやってきた。
そろそろ試合が始まるなと思った俺はヒールでボールを浮かせたあと、右足を軸に回転しボレーシュートを放った。放ったボレーシュートがゴールネット右上にガコンと音を鳴らすと、隣に立っていた霧原さんがびっくりした様子を見せる。
「す、すごい……そんなシュート、うてるなんてすごい!!」
「いやいや。俺は選手だけだよ。まだまだ、成長段階さ」
「えぇ~~~~! いや、マジですごいですよぉ!」
「照れるなぁ。ハハハッ」
おだててくれる霧原さんに微笑みながら後頭部を擦っていると――
突如、背後から俺の脇腹に手刀が放たれた。
「豆芝さん……私という存在がいるのに、やけにその方と仲が良いですね♠」
「なっ……須王! べ、別に俺が誰と話してようと――いて、いててっ!」
「ダメですダメですダメですっ! 私を一番に見てくださいっ!!」
「えぇ……でもお前DFじゃん」
俺はストレートに思ったことを伝えた。
そもそも近いポジションに入っている選手と話すことなんて当たり前だろう。
それの何が悪いんだと思いつつ、彼女を見つめていると――
「――この……馬鹿ッ!」
須王はぷんぷんと頬を膨らませながら罵倒してきた。
意味が分からない。これが女心ってやつなのか。
「一体……どういう事なんだ?」
俺が困惑していると、近くにいた霧原さんが口をひらく。
「多分、私と同じ感じでサッカーについて語り合いたいんじゃないですかね?」
「なるほど……確かに須王とそこまで話したことはなかったかも。ありがとう、霧原さん。後で須王に話しかけてみるよ」
「お役に立てたようでよかったです! それじゃ、後半戦もよろしくお願いします!」
そんな風にお互いのやり取りを交わしていると――後半の笛が鳴った。
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