第49話 控え組強化練習

 佐久高校女子サッカー部との練習試合一週間前。


 俺はベンチに座りながら体力増強練習に取り組む部員を眺めていた。一月前と比較すると、部員の体力は格段に向上している。ボールの扱い方もそれなりに良く大きなミスをしている場面はほとんど見られなくなった。


 それを理解したうえで俺は少し悩んでいた。


 今回の練習試合に出場させる選手を誰にするかという点だ。


 固定メンバーばかり出場させると、故障した際に戦術が回らなくなる。サッカーで戦術が回せないのはすなわち、負けに直結するといっても過言ではないだろう。

 

 かといって、勝利できないのも不味いといえる。

 どうやって結果を残しながら控えに試合経験をさせるか。それが重要だ。


(とりあえずこんなフォーメーションが良いかなぁ)


 俺は脳内でフォーメーションを想像する。


二子石のフォーメーション:

攻撃時:3-5-2


センターフォワード:南沢

セカンドフォワード:菅原

トップ下:三好 竜馬(キャプテン)

     三好 志保

右サイドハーフ:半田

左サイドハーフ:森川

セントラルミッドフィルダー:月桃

センターバック:島石、武田、田中

ゴールキーパー:栗林


守備時:3-2-3-2


センターフォワード:南沢

セカンドフォワード:菅原

トップ下:三好 竜馬(キャプテン)

右サイドハーフ:半田

左サイドハーフ:森川

ボランチ:月桃

     三好 志保

センターバック:島石、武田、田中

ゴールキーパー:栗林


 フォーメーションが3-5-2とFWの枚数を増やした形だ。3CBの実力が少しばかり心もとないのはそうではあるが、仮に志満先輩が出られないことを考慮したらメンバーはこのようになると考えられる。


 守備時のボランチに関しては月桃と三好妹を起用する。三好妹はプラスワンの動きをすることが得意なため相手の攻撃を邪魔する動きをするだろう。


 対し、月桃に関しては初めての試合だ。それなりのミスは許容するとしよう。


 右サイドハーフにはどんな状況でも八割ほどの結果を残せる半田を起用した。半田は主力を除いたポジションに置こうと考えていたところ、右サイドしかあかなかったためそこに置いた。彼女自身器用なのでまぁなんとかするだろう。


 左サイドハーフには初心者の森川を起用した。

 左サイドを縦横無尽に駆け回る彼女には少し期待している。願わくば、チャンスメイクしてほしいがまぁ高望みはしないでおこう。


 セカンドフォワードには足が速くボールへのコンタクトが上手い菅原を起用する。以前の山岳戦でも浮き球をきれいに処理して見せた彼女は素早いアンダークロスに対してもうまく合わせられるのではないかと考えた。それゆえに前線に配置したというわけだ。


 そして、問題児の南沢はセンターフォワードに配置した。正直ファウルしないかが一番の心配だが、それ以上に身体能力が高いのが魅力的だ。前回の試合では水越とのマッチアップを任せたが勝てなかったこともあり前線配置するかという流れになったのは事実だが、それでも期待したくなるほど体に恵まれているといえるだろう。


(とりあえずフォーメーションは構築できた。後は練習方法だな。控え組と主力組が対戦したほうが力にできるだろうから、五体八にするか。)


 攻撃側は自由に攻め方を決めれる五枚、守備側はGK1枚、CB3枚、ボランチ2枚、サイドハーフ2枚という形にする。攻撃側が数的不利ではあるが、正直数的不利でも作らない限り守備側には勝ち目がないだろう。


 それほどに主力組とそれ以外の選手には格差が広がっているのである。


 何せ、オフェンスには桜木、相馬、水木、長島、志満先輩が入るのだ。

 何か一つに突出しているやつらばかりが集まっているのだから、練習相手としては最適といえるだろう。と言っても、オフェンスも鍛えないとこの練習は意味がない。


 つまり、先ほど述べた五人に加え三好姉、南沢、菅原を加えたローテーションで回し続ける形式になるだろう。攻撃側の負担はそれなりに大きくなるだろうが、負荷をかけないと練習としては成り立たない。


 仕方ないって奴だろう。


(よし、とりあえずこれで練習を組むとしよう)


 俺はうなずきながら話す内容を脳内でまとめる。

 そして、スタミナセブンターンを終え給水に向かってきた選手たちにこう伝えた。


「今日から一週間後に佐久高校女子サッカー部と練習試合を組むことになりました。それに伴い、事前に出場選手を伝えます」


 俺はそのように伝えてから一気に出場選手を名指しする。「以上」と言い終えると目の前に立っていたメンバーの数人が感情を爆発させる。

 そのメンバーの多くは、控え選手たちだ。


 今まで何のために努力しているかわからない選手からしてみれば、チャンスを貰えたのは歓喜以外の何物でもない。だが、ここで喜んで試合で空回りされたらダメだ。


「わかっていると思うが、結果を残すことが目的だからな。チームが勝てるために、自分がどのように貢献できるのか、どうやって活躍すればよいのか。それを理解して一週間後の試合には是非是非臨んでほしい。いいな?」

「はいっ!!」

「よしっ。それじゃあ今日の練習を発表する」


 俺は今日の練習内容を発表した。走り込みでもない練習だが、負荷が結構かかることを理解している選手たちからすれば正直忌避したい内容だろう。けど、サブチームを組める人数がいないうちではこの練習が一番最大効率を出せるのだ。


「よ~~し、頑張るぞぉ~~!」

「頑張って桜木さんたちにかっちゃるぜ!」

「おっ、言うねぇ~~! なら、私も頑張っちゃおうかな!」


 チームのムードはそれなりに良い。控え組も主力組も互いに一本の線となって目的に取り組んでいこうという意思が見て取れた。


 俺は一週間後に行われる試合を楽しみにしつつ、練習開始の笛を鳴らすのだった。

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