第1話(2) エースとして
小学部・中学部同日に行われる一軍男女混合チーム対二軍戦。
互いの気迫が激しくぶつかり合う中、スコア差は6対0。
一軍に圧倒的な実力差をつけられていた。
ここまでの格差が広がる理由は、一軍に上手い選手が集まっているからという理由だけではない。彼らは確固たる理念を持っているのだ。
選手として我を出してチームを決して壊さず、結果を残すために最善を取る。
それを真の意味で理解し、プレーしているのだ。
そして何より、練度が違っていた。
パススピードも、視野の広さも、エゴの捨て方も。
チームとしての出来具合が、二軍の我だけが強いカスとは違っていた。
特にあの二選手は突出していると俺目線で感じた。
一人は、斉京ビルダーズFCでキャプテンを務めている
奴の前では二軍の選手たちはペナルティエリアへ入る前に尽く潰されていた。その姿はまるで子供対大人といえるほどだ。俺でも正直勝てるかわからない相手なので、前半に出場してくれたのは正直ほっとした。
もう一人は、斉京ビルダーズFC女子グループのエース、
斉京の娘であるためコネではないかと少しだけ疑っていたが、試合を見ると彼女が相当努力して這い上がってきた人間であると理解できた。
(あの二人は大成しそうだな)
そんなことを思いつつ軽くアップしていると、前半終了の笛が鳴る。
うなだれながらピッチから戻る前線の選手数名は涙を浮かべたり悔しそうに地団太を踏むバカもいる。チームのムードを悪くするゴミを誰がとってくれるんだよ、最低でもチームの雰囲気を悪くしないことは心掛けろやこのボケナスビと思いつつ、俺は後半戦のメンバーを聞く。
どうやら俺はツートップの一角として出ることになったようだ。
トップなら得点を奪うことが出来るだろう。そんな期待感を持ちつつ俺はピッチに入る。一軍ベンチには既に神門と琴音が下がっている。あの二人と対決できないのは少しばかり残念だと思いつつ、後半戦の笛音を聞いた。
俺は後半早々、斉京で学んだサッカー理論に則るポジショニングを取る。相手CBを俺に注目させることで、自由に動かしにくくすることが目的だ。
「へい、パス!」
俺が味方が見えやすい位置を確保しつつパスを要求する。
だが、二軍の奴らは性根が腐っていた。チャンスになりそうな場面で仲が良いやつを使うのだ。しかも、相手が守りやすい場面で行うのである。
「馬鹿が! 豆芝がフリーだったろ!」
「すいやせん! 気が付きませんでした!!」
二軍監督からお叱りの声が上がっても奴らはプレーを変えようとしない。結果、あっという間に三分が過ぎる。このままだと埒があかねぇと思った俺はプレースタイルを特定に絞ることにした。
それは、セカンドボール回収だった。
GKのパントキック、コーナーキックでクリアされたボール、スローインでクリアしたボールを俺は確実に収め、味方に渡した。これによって、味方に対してある考えを生み出させる。
それは、俺たちよりも豆芝のほうが上手いという考え方だ。
斉京の二軍どもは強いやつにこびへつらう習性がある。それを上手く利用すれば、俺にチャンスが渡るようになるというわけだ。
「おらっ!」
俺は味方にチャンスボールを出す。
必死に鍛えた足を持ちいた、シュートを打ちやすいパスだ。
ペナルティアぎりぎり外に転がるパスは、FWなら決めて当然だった。
「だーくそっ!!」
だが、二軍の奴は宇宙開発して外しやがった。
馬鹿じゃねぇの、なんでバウンドしたボールをパントキックみたいに蹴るんだよ。
そりゃ上に行くだろ。一軍なら全部決めるぞ、そんなもん。
そんな毒を吐きたくなるが、奴らを利用するのはもう少しの我慢だ。
俺はそう思いながら、必死に自我を殺してパスを出し続ける。
そんな風に後半八分を回ったころ――予想通りのことが起きた。
「豆芝!」
味方の左ウィングが俺にパスを出してきたのだ。
同時に、内角に入りパスを要求する。
俺がパスを出してくれると信じて、というよりも。
自分の評価を上げるために利用してやろうと思ったのだろう。
二軍のニタニタ顔から、それが簡単に想像できた。
「馬鹿が。パスなんて出さなくても一人でやれるんだよ」
俺は、個人技でドリブルを仕掛ける。
ダブルタッチで一人。
シザースを含めたクライフターンで一人。
高速ルーレットで一人。
合計三人を一人で抜いた俺は、GKと一対一の状況に持ち込む。
俺の対戦相手は、入部時に勝負を行ったあいつだった。
現在控えGKになっており今回の試合結果が奴の未来を左右するらしい。
俺は容赦なく奴にシュートを放つように見せかける。
顔面狙いのシュートだと予測した奴が後ろ重心になった直後――
俺は鋭いドリブルで奴を抜き去った。
すれ違う間際、無茶苦茶絶望した顔を見せる。
(……可哀そうだけど、これも勝負だ)
俺はそう思いながら、インサイドキックで流し込む。
奴の顔からは既に、生気が無くなっていた。
GKに覇気が無くなれば、後はイージーゲームだ。
俺はチャンスを貰うたび、ゴールを蹂躙していった。
結果、試合は六対六の引き分けに終わった。
個人成績は、三ゴール二アシスト。
一軍に呼ばれるのは当然と言える結果だった。
こうしてレギュラーを確保した俺は、次々と実績を重ねた。
二桁アシスト、二桁得点。チームの前線としては最高の結果だ。
「豆芝君、教えてくれよ! どうやったらうまくなるんだ!」
「俺も、君みたいにサッカーをうまくなりたい!」
「貧乏から成りあがって活躍するなんて、かっこいい!」
実績を重ねることで、俺を嫌悪していたやつらはすり寄ろうとする。
けれどわかっていた。
奴らは俺が好きなのではなく、俺の技術が盗みたいだけだ。
自らの技術を身に着けるより、他者の産物を使ったほうが早い、当然の理だ。
だからこそ――俺はそいつらに対して、こういった。
「もっと、努力すればよいんじゃない?」
悪口ではなく、正論で奴らに対して返したのだった。
※
斉京グループ主催、男女混合日本クラブユースサッカー選手権(U-15)決勝戦。
プロスペクトと呼ばれるエリートたちがしのぎを削りあった末に残った二チームの試合は、性差による身体能力の違いを超越した試合だった。
(残り三分、ワンチャンスを決めきれるかどうかで試合は決まる)
FWとして出場していた俺は冷静に分析する。
マークについてきている相手はガタイの良い四番と五番。
両者ともにU-15日本代表候補として名を連ねており、守備陣を支える屋台骨としての役割が期待されている。
(強い敵だけど……彼らはそこまで成熟していない。A代表のCBのような我慢強さが、全然備わっていない。故に、利用できる)
俺はそう思いながら、スローインのボールを目で追う。俺の足元に流れてきたボールに対し、守備陣二人が体を乗り出してくる。俺がターンできないようにしつつ、前にいる味方へパスする算段だろう。
守備陣が手薄なこちらがカウンターを食らえば、一気に敗勢になる。
(勝ったと思っているんだろうけど……これ、狙い通りなんだよね)
俺はボールをトラップする振りをして、右足のアウトサイドでフリックさせた。
トラップしてくると予測していた守備陣二人の足が止まる中、俺は間を抜ける。
GKと一対一。簡単に言えば、ゴールを狙える場面である。
そんな状況で、じゃじゃ馬が入ってくる。トップ下に入っていた味方だ。ファー側に入ってきた味方のせいで、カーブさせてシュートを放つことが出来ない。
GKも、ファーを警戒しつつこちらに詰め寄ってくる。
(面倒くせぇなぁ、シュートコース一か所しかねぇじゃん)
GKとゴールポストの間に形成されたゴール左隅に向かうコース。
姿勢が低く足元が細かに動いている状況なら、一番有効となりえるコースだ。
(難しいコース残しやがって……)
俺は悪態をつきながら、視線誘導で味方を視認する。
上手く視線誘導やった気でいたが、GKはつられなかった。
俺がパスしない選手であると理解しているからだ。
(上手いGKだ。きっと将来は大成するんだろうな。けれど……今回は俺の勝ちだ)
俺は右足を勢いよく降りぬく。
七年間研ぎ澄まし続けた大砲のようなシュートが、ゴールの左隅に突き刺さる。
数秒の間があった後――審判の長い笛が鳴る。
試合終了の笛を聞いた俺は――
大会優勝と得点王という、二つの実績を手にしたのだった。
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