サッカー界から追放された俺、女子サッカー部を成長させる……って、なんでハーレムが出来ている!?
チャーハン
第1話 恋の始まり
物心ついたときに、俺はひとつのことを理解した。
自分は普通のことが出来ない、劣等側であると。
他の子供みたいに友好関係を築けない。
他の子どもと違って、興味がないことに集中できない。
きっと、この事実は変わらない。
ずっと、俺は劣等側で生きていくのだろう。
俺、
そうして、八歳になったころ。
俺は運命的な出会いを果たした。
スラム街から自分一人で成り上がったサッカー選手の紹介だった。
男は、俺と同じようにできないことが多かったらしい。
けれど、好きなサッカーだけは誰にも負けたくなかったようだ。
男はひたすら努力した。
太陽が昇ってから沈むまで、ずっと練習を続けた。
その結果――プロになるという道を手にしたのである。
「すごい……」
俺にとって、男の人生はそういうほかなかった。
たとえ劣等側だとしても、突き詰めれば上手くなる。
それが何よりも――俺の興味を惹いた。
「俺もやってみようかな、サッカー」
そんな興味本位で、俺のサッカー人生は始まった。
※
他の奴らが遊ぶ中、俺はボールを使って遊んでいた。
時には浮かせたり時には強く蹴ったりすると、思った通りに動く。
自分の想像と同じ動きをする球が面白くて、ずっと遊んでいた。
けれど悲しいかな、スカウトは全く来る気配はなかった。
今考えれば当然だ、こんな小学校で活動している児童に声をかけるなんて、入校証を持っている保護者以外ありえない。
でも、そんなことを理解できるようなおつむは俺にはなかった。
俺的にはむしろ、こう思った。練習が足りないからだと。
その日、俺は一つのボールを木の中に隠した。
そして誰もいないことを確認してから――夜の学校で練習を開始した。
ナイターの光一つない暗い中、グラウンドを回ったりシュートを放つ。
九時まで練習したら家に帰り、また翌日も同じ時間まで練習する。
日に日にボールに体重を乗せる感覚や軸足の重要性を自分で理解するのは、とても楽しかった。そんな風に練習を二年ほど続けていたころ。
転機が訪れた。
練習を見ていた斉京ビルダーズFCスカウトから声をかけられたのだ。
「君のシュートセンスは目を見張るものがある。うちのチームに入らないかい?」
「ユニフォーム代とか選手登録代をすべて免除してくれるからいいですよ」
「……ほぅ。中々、ビックマウスだねぇ」
「俺は大きなネズミじゃないよ」
「そういう意味じゃないんだが……まぁいい。入団テストに合格したら交渉してみよう」
こうして俺は、入団テストを受けることが決まった。
数日後、トレーニングシューズをはいた俺は人工芝のグラウンドに立っていた。
ふさふさと音が鳴る人工芝の初めての感触に足をなじませていると、おっさんが声をかけてくる。
「
「ふぅん……おっさん的には、俺の実力はどうなの?」
「さぁね。人工芝でやったことがない以上、どうとは言えないな」
「そっか」
俺は短いやり取りをしてからGKをみる。
奴の顔が少しこわばっているように感じられた。
俺は肩を回しながら距離を取り、体重がしっかりと乗ったインステップシュートを放った。破裂音を鳴らしたボールは、GKの意表を突きゴール左隅に叩き込まれる。
「はっ……はぁっ……?」
GKの動揺する声が、俺の勝利を表していた。
※
その日から俺は、斉京ビルダーズFCで学ぶことになった。
新しい場所でのサッカーは、俺にいろいろな変化をもたらす――
というわけではなかった。
友達が一人もできなかったからだ。
周りの人間たちは、俺と異なりボンボンばかり。
皆、中学受験がどうだのゲームがどうだの、違う事ばかりだ。
中にはサッカーのことを語る奴もいたが、そんな奴らは皆、俺をこう言った。
「PK戦でたまたま入れただけの、貧乏野郎」
どうやら俺の所属経緯が流出していたらしい。
俺がその真実を知ったのは、所属して一月たったころだった。
得点を決められたGKが腹いせに俺の
おっさんは結構酒が好きらしく、それでコロッと買われたらしい。お詫びとして、ファミレスで好きな飯を頼んでよいと言われたが代価としては安すぎる。
「おっさん。もし俺のためを思うなら……一つ、交渉してよ」
「交渉って何をだ?」
「決まってるじゃん。二軍と一軍の昇格戦に俺を出場させるようにだよ」
「ばっ……馬鹿言うなっ! 上層部が俺に目つけてんのに、いえるわけ……」
俺はおっさんが言う前に、親父に買ってもらったガラケーを見せる。
「もし断るなら、この情報を上層部に売るよ。殴ったり追放してもいいけど……俺を追放したら、スカウトしたおっさんの評価下がるからできないよね?」
「ぐぎぎぎぎぎぎぎっ……クソガキがっ……! あーわかったよ! 二軍監督に交渉して出場させるようにしてやるよ!」
「ありがとう、おっさん」
きれいなやり方じゃないのは、俺自身理解していた。けれど――プロになれるならどんな手を使ってでもなったほうがいい。そうじゃなきゃ、一人でのし上がれない。
俺は十歳ながら、そんな考えをいだくようになっていた。
そして時は流れ、一軍対二軍戦。
いつも通り六対〇と完膚なきまでの大差を前半でつけられている中、俺は後半早々に出場機会を得た。ツートップの一角を担うことになった俺は斉京で学んだサッカー理論に則ったポジショニングを取る。
勿論、二軍の奴らは俺にパスを出さなかった。
味方のミスを必要以上に責め、精神を病ませてくる奴らばかりなんだから、当然と言えた。だからこそ――俺はパスを貰わないプレーに重点を置いた。
それは、セカンドボール回収だ。
GKの弾いたボール、コーナーキックでクリアされたボールを俺は全部回収した。それと同時に鋭いパスを味方へ供給し、チャンスを創出する。
他人を攻めるしか能の無い奴らを従順にするには、成果だけだ。
「豆芝!」
味方の左ウィングが俺にパスを出す。同時に、内角に入りパスを要求してきた。パスを出せばチャンスを創出できるが、多分狙いはそうじゃない。単純に、俺がドリブルしづらいようにする狙いだ。
(あめぇんだよ、二流。そんなん俺にはない壁だぜ)
俺は、個人技でドリブルを仕掛ける。
ダブルタッチで一人、シザースを含めたクライフターンで一人、高速ルーレットで一人。合計三人を一人で抜いた俺は、GKと一対一の状況に持ち込む。
俺の対戦相手は、俺の
俺は容赦なく奴にシュートを放つように見せかける。顔面狙いのシュートだと予測した奴が後ろ重心になった直後、俺は鋭いドリブルで奴を抜き去った。
俺は誰もいないゴールにインサイドキックで軽く流し込む。ゴールラインを割ったボールを持ち上げ回収してから、俺はGKの横を通り過ぎる。奴の顔からは生気が無くなっていた。
シュートを取れなかったのではなく、そもそも躱されて決められたのだから一軍を降ろされるのは決定的だと思ったのだろう。
GKに覇気が無くなれば、後はイージーゲームだ。
俺はチャンスを貰うたび、ゴールを蹂躙していった。
結果、試合は六対六の引き分けに終わった。
個人成績は、三ゴール二アシスト。
連覇を果たし続けている一軍に呼ばれるのは当然と言える結果だった。
こうしてレギュラーを確保した俺は、次々と実績を重ねた。
実績を重ねることで、俺を嫌悪していたやつらはすり寄ろうとする。
けれどわかっていた。
奴らは俺が好きなのではなく、俺の技術が盗みたいだけだ。
自らの技術を身に着けるより、他者の産物を使ったほうが早い、当然の理だ。
だからこそ、俺は孤高を貫き通すことにした。
友も、競い合うライバルも、一人もいらない。
孤高のエースとして、俺は強くなる。
そう決意していたのだった。
※
斉京グループ主催、男女混合日本クラブユースサッカー選手権(U-15)決勝戦。
プロスペクトと呼ばれるエリートたちがしのぎを削りあった末に残った二チームの試合は、性差による身体能力の違いを超越した試合だった。
技術と熱、そして互いの夢がぶつかり合う試合は、満員の場内に歓声を巻き起こす。
(残り三分、ワンチャンスを決めきれるかどうかで試合は決まる)
FWとして出場していた俺は冷静に分析する。
マークについてきている相手はガタイの良い四番と五番。
両者ともにU-15日本代表候補として名を連ねており、守備陣を支える屋台骨としての役割が期待されている。
(強い敵だけど……彼らはそこまで成熟していない。A代表のCBのような我慢強さが、全然備わっていない。故に、利用できる)
俺はそう思いながら、スローインのボールを目で追う。俺の足元に流れてきたボールに対し、守備陣二人が体を乗り出してくる。俺がターンできないようにしつつ、前にいる味方へパスする算段だろう。
守備陣が手薄なこちらがカウンターを食らえば、一気に敗勢になる。
(勝ったと思っているんだろうけど……これ、狙い通りなんだよね)
俺はボールをトラップする振りをして、右足のアウトサイドでフリックさせた。
トラップしてくると予測していた守備陣二人の足が止まる中、俺は間を抜ける。
GKと一対一。簡単に言えば、ゴールを狙える場面である。
そんな状況で、じゃじゃ馬が入ってくる。トップ下に入っていた味方だ。ファー側に入ってきた味方のせいで、カーブさせてシュートを放つことが出来ない。
GKも、ファーを警戒しつつこちらに詰め寄ってくる。
(面倒くせぇなぁ、シュートコース一か所しかねぇじゃん)
GKとゴールポストの間に形成されたゴール左隅に向かうコース。
姿勢が低く足元が細かに動いている状況なら、一番有効となりえるコースだ。
(難しいコース残しやがって……)
俺は悪態をつきながら、視線誘導で味方を視認する。
上手く視線誘導やった気でいたが、GKはつられなかった。
俺がパスしない選手であると理解しているからだ。
(上手いGKだ。きっと将来は大成するんだろうな。けれど……今回は俺の勝ちだ)
俺は右足を勢いよく降りぬく。
七年間研ぎ澄まし続けた大砲のようなシュートが、ゴールの左隅に突き刺さる。
数秒の間があった後――審判の長い笛が鳴る。
それは、俺が二年連続得点王を獲得したことを示していた。
※
現在のサッカー界は、斉京グループによって動かされている。
日本代表選手の多くが斉京関係者と言われるほど、彼らの権力は強い。
そんな彼らの運営する学校、斉京学園はサッカー名門として有名だ。
スタメンを取ればプロ入り・強豪大学進学が決まったものだと言われる一方で、問題点がある。
その問題とは、学費だ。
助成金ありの推薦で百二十万、一般で二百万。
貧乏人は商売対象じゃないと、はなから言っているようなものだ。
「結局……世の中金かよ。銭ゲバ集団がよ」
俺はいらいらしながらシュート練習を行っていた。
「お前だけだよ、俺の話を聞いてくれるのは……」
俺は跳ね返ってきたボールを右足でトラップする。
ズキンと右足が痛むが、問題はない。
痛みは練習強度があるという証拠であり、成長できている意味だ。
現に、俺の練習量は誰もマネしていない。
俺みたいに努力せず金を使って遊んでいる奴らばっかだ。
「遊んでるやつらには負けられねぇな……よしっ、後千本シュート練習するぞ!」
「そんな無茶な練習していたら、怪我するよ」
俺が意気揚々と準備する中、聞きなれた声が響く。
視線の先には斉京ビルダーズFCと書かれたジャージを着ている少女が立っている。
百五十センチ後半の容姿端麗な少女、
「斉京グループトップの一人娘がこんな俺に何の用だ?」
「サッカー選手としてあり得ない前時代的な練習してるからよ」
「でも、俺は不動のレギュラーだぞ?」
「レギュラー取れたって、怪我するような馬鹿を誰が取ろうとするのよ」
俺を睨みつけてくることねに対し苛立ちを感じた。
俺にない学力も、友人も、お金も、全て手にしている。
そんな彼女が眩しくて、羨ましくて、憎かった。
「……ほっとけよ。俺が怪我したほうが、お前も得だろ? レギュラーになれるだろうし、推薦だって引く手あまただ。美人のサッカー選手っていや、メディア映えは確実だろうしな。ハハッ」
俺は彼女を見つめながら笑い飛ばした。彼女が実力者であると理解しているのに、客寄せパンダ程度の勝ちしかないって口にしているんだから。
(……これじゃ二軍の奴らと同じだな)
俺だってしょせん、二軍の奴らと同じだってわけだ。
二軍の奴らみたいに他人を見下していないとやっていられない、そんな弱者なのだ。
「とにかく、てめぇは帰れ。邪魔なんだよ」
ダサい発言をしながらボールに向かう。
そんな俺に――予想外の行動を琴音は行ってきた。
琴音が俺の腕をつかんできたのだ。
「……いいから、足見せろ」
彼女は俺の心配をしてきたのだ。正直、ありえないと思った。
こんなクズ、ほおっておけばよいのに……なんで助けるような真似をするんだ。
「……わかったよ。ただし、見たら離れろよ」
俺はため息をつきながらグラウンドのベンチへ向かった。
ソックスを下げて足を見せるが、特に炎症は起きていない。
ほらな、と言いたげな顔で見つめてやると、奴が不機嫌な表情に変わる。
「……ソックス全て脱いで。原因は足首だと思うから」
俺は琴音に文句を言わずに脱いだ。直後、赤色に染まった足が露わになる。
家に帰宅した頃には普通だったのに、明らかに異常な色を示している。
「本当に、炎症していやがった……」
もし彼女の言うことを無視していたら、故障していただろう。
そうなれば、プロになる道なんて不可能だ。
「琴音、なんで俺の足が炎症しているってわかった?」
俺が問いかけると、琴音は返事を返す。
「……こう見えて、サッカーライセンスとるための勉強しているの。サッカー選手として飯を食えるほどの技術を身に着けても、将来を見据えなきゃ困るから」
「そうなのか……」
俺は空を眺めながら自らの浅はかさを呪った。
琴音は俺が思っていた以上に努力していた。
そんな彼女を――無知な俺は、馬鹿にしていたのだ。
あぁ、なんと情けないバカなんだろうか。俺は。
「ありがとう、琴音。俺を止めてくれて」
「別にいいよ、お礼なんて。氷持ってくるから少し待っててね」
彼女はクラブから氷袋を持ってきて俺の足を冷やす。
痛みに苦悶の表情を浮かべていると、琴音がふふっと笑った。
「豆芝も、痛みには弱いんだね」
意地悪に笑う琴音を見つめながら、少し胸が熱くなる。
彼女が可愛らしいと思ったからだ。
「うるせぇやい」
不器用な俺がそっぽを向いていると、琴音が問いかけてくる。
「豆芝って、何の目的でサッカーやってるの?」
「楽しいから、って理由だとだめか?」
「いい理由だね。好きって原動力は、上手くなるのに大切だからね」
簡単なやり取りを交わしながら、一緒のベンチに座る。
ひんやりした足の熱に顔の熱が渡らないだろうか。
そんなことを思いながら、俺は琴音に伝える。
「なぁ、琴音。そろそろ帰っていいぞ。俺一人で何とかするから」
「ダメ。帰らない。何かがあったら困るから」
「何か何かって……お前は俺の恋人か何かかよ?」
「……そう、なれたらよいけれどさ」
(―――――は? こいつ今なんて言った?)
瞬きしながらさっき聞いた言葉を思い出そうとしていると、追撃を放ってくる。
「私、あなたが壊れてしまわないか心配なの。だって、好きだから」
突然の告白だった。突然の告白は女子の特権って言葉を中学の誰かが言っている言葉を耳にしたことはあったが、ここまで唐突なのは聞いたことがない。
「俺を……好き?」
「えぇ、そうよ。あなたみたいに技術がありながら、ひたむきに研鑽できる人間は、めったにいないわ。あなたみたいな一流の精神を持った人間といたら私がさらに成長できそうだしね」
恋人、というよりは切磋琢磨できる相棒なのだろうか。
俺がそんな風に解釈していると――
「はっ!? お、お前何して――」
「私の胸の鼓動、速いでしょ?」
彼女が俺の右手をつかみ、胸元へ押し当てた。柔らかな感触に驚いているととくんとくんと柔らかなリズムが聞こえてくる。
「あなたみたいな人間なら、大人になったときにこの身をささげても構わない。そう思えるほどにあなたは魅力に溢れた人間よ。だから――付き合って」
「……本当に俺なんかでいいのか? 貧乏だし、顔も冴えてないのに」
「うん。豆芝だから、好きなの」
俺は嬉しかった。
無償の愛を異性から向けられたのが、生まれて初めてだったからだ。
だからこそ、俺は再度質問した。
彼女が本当に俺なんかでいいのか、心配になったからだ。
「本当に、俺なんかでいいのか?」
「二度も言わせないでよ、恥ずかしいから……」
彼女は顔を赤らめながらそっぽを向く。
頬を少しだけ膨らませる彼女がとても可愛らしくて、いとおしく感じた。
「ありがとう、琴音……こんな不器用な俺でいいなら……よろしくな」
不器用な俺は、琴音からの告白に対したどたどしい返事を返すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます