第8話 斉京への宣戦布告、そして家特定
「助成金の打ち切り……ですか!?」
PTA会長の言葉へ真っ先に反応したのは女性顧問だった。
「えぇ。そういっておりますわ」
「待ってくださいよ……私サッカー部の顧問になって一年目ですよ!? それなのに日高さんからのご支援が無くなったら……賄うの難しいですよ!」
動揺しながら声を荒げる女性顧問に対し、お茶を啜ってから日高は答える。
「慈善事業で行っていると勘違いされていたら困りますので、先にお伝えいたしますね。助成金を出している理由は、あくまで結果が出せているからですわ。結果の出る部活にお金を出すのは、当然のことではありませんの?」
「ぐ……うぅっ……」
女性顧問は苦い表情で俯いた。
俺は静寂に包まれた間を用いて、手を上げる。
「日高様、一点ご質問してもよろしいでしょうか?」
「あなたは一体誰でしょうか?」
「本日から女子サッカー部外部コーチとして活動することになった者です」
「ふぅん……そうですか。で、何か聞きたいことがあるの?」
「助成金のルールというか、出す基準を教えてください」
俺はまっすぐと見つめながらルールについて教えてもらおうとした。
日高は眼鏡のズレを直してから、俺に顔を向ける。
「私が出すルールはたった一つ。全国に出場経験があるか否かです。時々、サッカー部の様に新しく出来た部活なら出す予定でしたが……結果が出なさすぎますわ。それだとお金をかけるだけ無駄になる。当然でしょう?」
(一理あるな。お金をかけて利益がないことに精を出すのは俺も馬鹿だと思うしな)
「ルールはわかりましたけど、厳しすぎませんか?」
「厳しい、と言いますと?」
「部活動を用いて全国出場を目指すのはいいですが、その前提となる基盤づくりをないがしろにしていないかという事です。グラウンドだって半コートしか使えない状況で強く成れというのは、難しいと思うんですよ。それに、お金ばかりに意識を向けさせる方針だと、助成金を貰いに来る主将たちの締め付けが強くなって部内に不和が生まれると思うんですよ」
「長い弁論ですね……もっと短くまとめてください」
(くそBBAが……黙ってろぶち殺すぞ)
「つまり、環境を変えるべきという事です。全コートを使える日を作るとかすれば、練習量を大幅に増加できると思いませんか?」
「私はそう思いませんわ。そんなの理想論でしかありませんし」
(……面倒くせぇなぁ。仕方ねぇ、最終手段つかうか)
俺は「そうですか」と一旦話を区切ってから、使いたくなかったカードを切る。
「なら……そちらが用意した対戦校に勝利して見せればよいんですね?」
「……は?」
日高が俺の発言に間抜けな声を出す。
こればかりは予想外だっただろう。
「考えても見てください。弱小サッカー部が、全国に出場したチームと練習試合して勝つ姿を。もしそうなれば……融資していた日高さんの社会的価値が上昇すると思うんです。悪い話じゃないと思うんですけど……気は変わりませんか?」
俺の話を聞いた日高は相槌を打ってから、
「面白い提案ですわね。勝っても負けても、私にも得がありますしね」
「なら、交渉成立ということでいいですか? 引き分け以上に持ち込んだら、部活の助成金を出してくれますよね?」
「それは断りますわ。あくまで、勝ちなさい」
(けっ、だまされねぇか。まぁ、引き分け以上なら戦術で持ち込めるだろ)
「わかりました! それじゃあ、試合の日を楽しみにしております!」
「ふん……」
俺とのやり取りを終えた日高はえらく不機嫌だ。昭和美人のババぁかと思ったが、ただの銭ゲバ女って感じだし正直好くタイプではない。
(……さて、最後の一押し行くか)
俺は悪感情を表情に出さないようにすべく俯いて表情を作る。
「日高さん。提案があります。今度のGWに対戦するというのはいかがですか?」
「GW……一か月猶予がありますわね。その間に、鍛え上げるというのですか?」
「私の手腕でこのチームを強くして見せます。日高様が多くの資金を融資していただけるよう、全力を尽くしますので……試合相手をちゃんと選定してくださいね」
俺は、そういって日高との交渉を終えたのだった。
※
「いや~~今日は大変だったなぁ……」
「ボーイ、それにしてはにやけてるねぇ」
「し、仕方ねぇだろ! 女子にまみれて大変だったんだよ!」
自分の部屋に戻った俺はMr.Jにビデオ通話で近況を伝えていた。
「そういや、今日は日高っていうPTA会長に練習試合申し込んだよ」
「……マメシバボーイ、名前を伝えてはないよなぁ?」
「伝えてないけど……どうしたんだ?」
少しばかり沈黙が流れた後、Mr.Jはとんでもないことを伝えてきた。
「PTA会長、日高は斉京グループの役員だぁ」
「………………は?」
Mr.Jの言ったことは俺を動揺させるには十分すぎた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。斉京の人間がいるって聞いてねぇぞ?」
「俺も今知ったぁ。PTAまで調べていなかったからなぁ……」
「マジかよ……名前言ってたら、行動を怪しまれるとこだったぞ……」
「まぁ、知ってる可能性高いだろうがなぁ」
「へぇ!?」
いったいどこから情報を仕入れるというんだ。ネットで検索するってことはあるかもしれないが、名前を知らなきゃできないだろ。
そんなことを考えていたとき、俺はあることを思い出した。
学校に入る際にじぃさんとやり取りしたとき、名字を知られていたからだ。
「……いや、さすがにじぃさんから名前とか聞かないんじゃねぇか? 聞いたとしても、何に使うんだって話だし」
「それもそうだなぁ……ま、注意して動くべきだろぅぅ」
(……注意しろも何も、てめぇが登録ミスったんだろうが)
「はぁ……わかったよ。とりあえず、名前を無暗に出さないようにするよ」
「そうしてもらえると助かるぅ。では、また明日」
Mr.Jとのビデオ通話が切れる。
静寂が流れるなか、俺は夜飯を作るべく立ち上がろうとする。
そんな時だった。突如インターホンが鳴る。
(……誰だ、こんな時間に?)
俺は後頭部を擦りながらインターホンの画面に映る人物を確認する。
そして――俺はしりもちをついた。
そこにいた人物は――まさかの、桜木だったからだ。
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