『見えない自販機』(お題「異世界への扉」)
町の中央の公園に「見えない自動販売機」があることはK地区の小学生の中で知らない者はいないほど有名だった。その自販機は見ることも触ることもできないが、硬貨投入口(と思われる位置)に100円を入れ、ボタン(があると推察される場所)に手を触れると、「ごとごと!」という音とともに見えないジュースが出てくる。投入した硬貨はそのまま地面に落ちるが、もう一度見えない自販機に投入しても使うことはできなかった。硬貨そのものがなくなるわけではないのでコンビニでお菓子を買ってジュースと合わせて楽しむのが子供たちの楽しみだった。
子供たちは見えない自販機を利用しつつも、不気味さを感じていた。見えない自販機のジュースを飲むとのどは潤うし、甘さや炭酸の刺激を感じることはできるが、腹は膨れない。はじめのうちは実質ただで手に入るジュースと物珍しさから地域中の子供が利用してたが、あまりの怪しさに使われなくなっていった。
少し月日がたち、当時の小学生は高校に通うようになった。大学受験に向けて塾に通うようになり、その帰りには仲のいい三人組で集まって、コンビニでホットスナックと飲み物を買って愚痴を言いながら駐車場にたむろしていた。
「最近さ、マックでもコンビニでもさ。なんでも高くね?」
「ジュース一本で140円。チキンも買ったらプラスで200円だろ?うちの高校バイト禁止だし、俺もうずーっと金欠よ?」
「そういや、俺らがガキの頃、見えない自販機ってあったじゃん?あれまだあるかな?」
「なつかしいな~。あの時の値段のままならジュース100円だし、金使いまわせるし、ちょっと行ってみようぜ」
3人は公園の見えない自販機のもとに向かった。
「確かこの辺に金入れるんだよな…。」
リーダー格の少年が100円玉を見えない硬貨投入口に入れて、ボタンを押した。しかし、当時聞こえたジュースが取り出し口に落ちてくる音は聞こえなかった。どうやら値上げしたらしく、追加で硬貨を入れると前のようにごとごとと音を立ててジュースが出てきた。
別に効果を消費していないのだから、損したわけでもないのだが「俺たちの」「不思議な」「思い出の」自販機まで値上げされていることに少年はふつふつと怒りを覚えた。少年は怒りのままに見えない自販機を蹴りつけた。
ごとごと!
自販機のばねが壊れたらしい。ジュースが落ちてきた。少年はなおも蹴りつけた。ジュースが欲しいのではなく、怒りのままに。
ごとごとごとごとごとごとごとごとごとごとごとどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど…
取り出し口から見えないジュースが大量にあふれ出てきた。
翌朝、公園に圧死した3人の少年の遺体が見つかった。
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