『俺の仕事』(お題「時間旅行のパラドックス」)

 仕事で5000年後の未来、西暦12000年へ出張に行くことになった。

未来への渡航は過去以上に厳しく監視されている。未来の技術は現在へ持ち込ませないことを徹底しており、時間の移動も200年単位でしか行えない。200年ごとにタイムマシンの乗り換えと時間移動監視委員との面談がある。

 都合25回の乗り換えを終え、ようやっと5000年後までたどり着いた。業務実施の申請をすますと密室に通された。時間旅行者はこの部屋から出ることができず、部屋の中から端末を操作して必要な情報をやり取りする。今回この時代まで来た理由は、この時代出身の時空犯罪者がタイムマシンの不正利用を行った痕跡を私の時代でキャッチしたため、彼が事を起こす前に確保するためだ。

 私は犯人のデータを警察に渡した。すでにこの時代の警察に目をつけられていたらしく、思いのほかスムーズに確保に動き出してくれることとなった。私の仕事はここまで。ここから先は完全に警察の仕事となってしまう。これ以上この時代の情報を取得できないよう。端末の電源は落とされ、部屋の明かりまで消されてしまった。

 犯人確保までの時間は基本的に時代が進めば進むほどテクノロジーの進歩によって短くなる。この時代なら2時間程度と見積もられている。

 特にすることもなく真っ暗な部屋で待っていた。


 彼はハッっと目覚めると時間を確認した。AM7:00。仕事へ行く支度をしているとメールが届いていることに気づいた。

 「出張ご苦労。今日は休暇とする。」

 彼の仕事は時間を行き来し、起きてしまった事件を未然に防ぐことだ。彼の仕事が完了することは事件が発生しないことを意味する。しかるに、彼が仕事をする必然性も彼が仕事をしたという事実も消え去ってしまうのだ。

 精神に身に覚えのない疲労を覚えた彼は、二度寝をしにベッドへもぐった。

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