『親善大使』(お題「異星人との共存」)

 西暦1200年ごろから現住の地球人に紛れるように異星人の移住が進み始めていた。出身惑星は様々あるものの、押しなべて地球の文明と比べてはるかに進んだ科学力を持つ彼らは地球人に変装し決して正体を明かさず地球文明の発達を見守っていた。2024年現在では、約2000万人ほどの異星人が地球に住んでいる。

来る2030年から、異星人たちは少しずつその正体を明かすことが決まっている。影響の大きさを鑑み、まずは1人の大使が地球人に正体を明かす。異星人たちの地球移住を管理する委員会はその大使の選定を進めていた。

 「第一にわれわれは地球人に対して友好の意志を持っていることを伝えたい。親しみの持てる姿を持つものがよかろう。」

 「しかし親しみやすすぎて舐められてはいかん。これからも地球への移住は進めるし、交渉を有利に進めたい。」

 「本当の姿など見せなければ、これまで通りのやりかたで地球に住み続けられるのではないか。」

 「お前はもともと地球人に似た姿だが、我々のような大きな体を持つ者にとっては窮屈な変装を続けるのは大きな負担になる。本当の姿のままでの地球移住を進めたい。」

 議論は連日遅くまで続くが遅々として進まなかった。

 とはいえ関係各所とも調整を進めねばならいなことを考えれば早く検討は終わらせなければならない。しかたなしに2000万人、400種族の移住異星人リストを上から順番に一つ一つ確認していくと、800年前の移住した最古参の一人に当たった。

 「彼なら親しみやすく、しかしどこか厳かな雰囲気をもっていて大使に適任だ。」

 「こんな大昔の移住者がまだ地球に住んでいるのか?」

 「彼は石のような性質を持っていて、決まったところに長く定住してほとんど動かない。先日TV番組に映り込んでいるのを見たよ。名簿の連絡先の更新も今世紀中だし、連絡してみよう。」

 大使に選ばれた異星人は急な抜擢に驚きつつも快諾した。


 2030年某日、異星人の大使は地球の米国の大統領の前に現れ正体を現した。彼の優し気な、それでいてどこか厳かな雰囲気は交渉を有利に進め、すでに移り住んでいる異星人たちの正体も段階を踏んで明かしていくこと、異星人の新規の移住を米国内において認めることを合意した。

 同日、三重県のある老人が毎日手を合わせている地蔵が消えていることに気づき、交番へ向かった。

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