第4話 乙女とフェイスレス
押入れからヴァルキューレをひっぱり出し、襟首を掴む。
これまでの事を具体的に聞く為、そして……。
「な・ん・で! 服が変わってんだよおい!」
ヴァルキューレが姿を変えていた。
上は妹の制服、その下は……白いスク水になってやがる!
「制服とスク水ってどんな組み合わせだよ! つーか白スクって実在しねーもん出してくんな!」
「し、しかしマスター」
「焼却する前に聞いてやる」
「連続で同じコスチュームは使えません、休ませないと防御力の低下、最悪破れたりします」
「だからってそのチョイスはねぇだろそのチョイスは!」
「これはマスターの脳内から取り出した姿で……見覚えありませんか?」
いやこんな過激な姿、一回でも見たら……。
「あーーーっ!!」
そうだ、ツイッポー上での俺のライバル。
みぃ@男の娘が最近着てたわ!
男である以上、絶対にスク水は着られないって思ってたら常識を破壊してきたアレだわ!
「スク水制服……俺もやろうと思ったけど出来なかった。でもそれをやってのけたアイツのスク水の色違いじゃねぇか」
制服が妹のなのは俺が一番記憶に残っている制服が、妹の女物のって事らしい。
「今お前を着て自撮りすればアイツに追いつける。……いや、アイツは男なのに男が好きみたいな事言ってたし、俺がやるのとアイツがやるのじゃ全く価値が違う」
男に好かれたい男。
ガチな男の娘っての? よくわかんねぇけど、俺はあくまで趣味でやってる女の子が大好きな健全青年。
ガチな奴に趣味程度で勝つ、これはすなわち完全勝利!
「よし、その姿のままいろよ!」
「了解しました、マスター」
早速スク水制服を着てカメラを起動する。
とある一部分が窮屈だが、ピッチリと張り付くようなこのスク水の感覚が何とも言えない……ハマりそ。
この男が着る用にはつくられてない服を着るときの何とも言えない感覚とゾクゾクがたまらない。
「ではこの間に様々な事についての説明をいたします。質問にもお答えしますので分からなければお聞き下さい」
「ありがと。じゃあさ、あののっぺらぼうは妖怪か何かか?」
カメラを起動し、角度を調整。
そしてここからが大切なんだ。
目線。
これ一つで自撮りの良し悪しが分かれるって言っても過言じゃないぐらい大事なんだよな。
まずは一枚。
「先程も説明しましたが、あれはフェイスレスです」
「フェイスレス? 顔無し……やっぱのっぺらぼうじゃん」
「そう言われましても、正式名称はフェイスレスです」
カメラ目線だと……微妙か?
ここは少し目線を下げて……。
「んじゃ次、変身って何だよ。ほら、妹が言ってたやつ」
「変身とはフェイスレスと戦う為に人体を強化するコスチューム、美装を纏う事です。美装は私のような服で、人体を強化、保護し、ある程度までならフェイスレスの攻撃を防いでくれます」
やっぱりカメラ目線のがいいか、ここは斜め上からの上目遣い、これなら!
……完璧。
今世界で一番俺が可愛い。
「そのある程度を過ぎたらどうなるんだ? もしかして死んだりしてな、あーっはっはっは! あんなの突撃してたんだから、流石にそりゃねぇか」
自撮りを加工し、ツイッポーに投稿だ。
これでみぃの野郎には負けねぇ。
「普通に死にます」
「だよなー! あーっはっは……は?」
「耐久値を上回る攻撃は肉体への直接的なダメージとなり、人体はそれに耐えられる程強くはありません」
送信を押してから俺の身体は固まった。
あの戦いで死んでいたかもしれないって事か?
「いえ、ノーマルフェイスレスの攻撃でやられる程私は旧式でもポンコツでもありませんから、さっきの戦いで死ぬ事はありえませんでした」
いやいや、そうだとしても、してもだ。
妹も変身していた。
つまり……。
「ヴァルキューレ、妹は何で巻き込まれてんだよ、ええ!? 命を落とすかもしれないって戦いにアイツが関わる必要はねぇだろ!」
「ですから、少しでもそのリスクを減らす為、拡張強化パーツとして唯一無二の最新式である私が送られてきました。しかし、初期登録はゆいにゃん様ではなく……ゆいゆい様になってしまいまして」
それを俺が勝手に開けて、可愛いって勝手に着て、それで……。
本来守るはずだった妹をヴァルキューレは守れずにいる。
「登録解除だ! 俺はいいから妹を」
「できません。もうゆいゆい様の装備として登録された以上、破壊されてもゆいにゃん様の装備にはできません」
「……そもそも何でアイツが戦いに巻き込まれてんだよ」
妹が何故? その質問にだけはヴァルキューレは答えず。
「その情報にアクセスできません」
機械のように、冷たくそう言った。
「よし分かった、妹を戦いに巻き込んだ奴は何処にいる?」
こうなりゃ話ができそうな奴に直接会いに行く。
そこで妹を巻き込むなって言ってやる!
そんでもってヴァルキューレも妹の美装だっけ、とにかく変身出来る物を全部叩き返してやる。
「司令であれば、現在は本部乙女にいます」
「本部乙女?」
本部乙女が分からないが、司令ってのは分かる。
多分、妹に変身できる服を押し付けて戦わせようとした張本人だろ。
「本部乙女は私達、変身可能な者達にサポートや指示を出す場所です」
「そこなら話できる人が、司令とやらがいるんだな?」
「はい」
「じゃそこに行くぞ……って、この服じゃまず」
「了解しました。空間を繋げます」
「いよな、とにかく着替えるか……ら……え?」
和室だ。
結構広い和室。
辺りを見回しても木造? っぽい作りだって事、そして前と後にドアがある事しか分からない。
さっきまで俺の部屋にいたってのに、いきなり……テレポートでもした?
「ここが本部乙女の作戦待機所になります。ここで装備等を整えたり最終確認をします、それが完了すれば後ろのドアをくぐると乙女指定のレッドゾーン、つまり戦いの場に到着する事になります」
……自慢じゃないけど俺は頭が良くない。
だから、コイツが言ってる事が半分ぐらいしか分からない。
「つまり、前に進めばいいんだな?」
「その通りです、マスター」
しかし……弱ったな。
白いスク水の上に妹の制服(上半身だけ)って姿で人に会うのは避けたい。
こんな格好で人に会えば……その、下半身の膨らみで男だって一目でバレるし、女装して人に会った事がないから怖い。
「やっぱ……一回帰るぞ」
「マスター、後ろの扉から人が来ます」
え、ちょ、ま!
「いてて……ちょっと無茶しすぎたかな」
ボロいタキシード? を着ているその女性には見覚えがあった。
輝く銀色の髪はセミロングの丁度いい長さ。
髪色が少し違うがはっきりと分かる。
身長は俺よりも高く、劇場であれば綺麗な服を着て主役をやってるだろう。
そして。
「あ……しずくねぇ」
「え……ゆいと?」
「「えぇー!?」」
こいつは俺に女装を教えた女だ。
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