第3話 対特殊生命体用強化装備"ヴァルキューレ"


 

 のっぺらぼうを倒せって言ってはみたけど、どうやって倒すんだろ。

ビームとか撃ったり、まさか超能力が使えたりすんのかn

 

「オートバトルモードを起動します。では、行きます!」

 

「行くって……えちょまうぇ!」

 

俺は今、目の前の敵めがけて一直線に走っている。もちろん自分の意志じゃないよ? 俺の体は自動的に動いている、いや動かされている。

 

「ヴァルキューレ・パンチ!」

 

「いや名前! つーかほぼ素手なんですけどぉ!」

 

のっぺらぼうはこっちに気づき、俺の拳を掴もうとしてきたが、俺の身体はそれを躱すように動き、頬にヒットさせる。

手応えは十分にあった、いやありすぎてのっぺらぼうの頭と体をバイバイさせていた。

手から感じる感覚が最悪だよ、クソ。

 

「目標沈黙です、予想より弱かったです。……未成熟個体にしては成長していますし、大きさから考えるとあまりに……ま、とにかく余裕ですね」

 

「ですねじゃねーよ、俺何も聞いてないからね? いや聞いてたけど何も知らないからね?」


ケーキ屋を見ると……ああ、見なきゃ良かった。

 

「ママ! あのお姉ちゃんが助けてくれたよ!」

 

そう、子供はいいんだよ。

しっかり勉強しろよな。

 

「ありがとう、若い人」

 

ご年配の方もいい。

長生きしてくれよな。

 

「……お、おにぃ?」

 

妹と、目があってしまった。

やっべぇ、バレた? 流石にバレたか?

 

店から次々と人が出てくる。

みんなは家に帰るのかな? 

そんな中、妹だけはこっちにまっすぐ、一直線に歩いてくる。

 

「あ、あの! 助けてくれてありがとう。名前とか……聞いてもいいですか?」

 

「お、俺は……じゃねぇ、わ、私は……」

 

な、何て答えればいいんだよ!

おいヴァルキューレ、正解は何、なんて言えばいい!

 

『こう答えて下さい』

 

こいつ……脳内に直接……ッ!

これでいいんだな? いいんだよな?  

 

『大丈夫です、オートバトルモードなので任せて下さい』

 

「私のコールサインはゆいゆいだよぉ、今日からこのエリアの担当になったの、よっろしくぅ♡」

 

何か手でハートマーク作ってるし、変なポーズしてるんですけど!?

つーか俺は喋るつもり無かったのに、勝手に口が動いてるしぃ!

おい、見ろよヴァルキューレ。

あの妹の目。

 

「あ……そ、そうですか……」

 

引いてるよ、ドン引きだよ!

 

「……その、実は俺」「コールサイン似てますね!」

 

はい?

何いってんだコイツ。

もしかしてアレか、恐怖で頭がポンコツになったとか?

 

「はじめまして! 私のコールサインはゆいにゃんです、よろしくお願いします」

 

目の前の見慣れた私服の妹の服が、いきなり学校の制服に変化した。


「私も変身したかったんですけど、人が多すぎて……ほら、変身する時に現れる空間が美装を持ってない人には有害だから引きつけてから変身しようとしたんですけど、思ったより人がお店に逃げ込んできたからタイミング逃しちゃったんです」

 

「そ、そうなんだ」

 

いや話が入ってこねぇよ。

美装? 

変身?

空間?

それよりも、それよりも……今大切なのは。

俺がゆいとであるとバレてないかどうか、だ。

 

「さっきさ、お……わ、私を見て何か言わなかった? おにぃ……だっけ?」

 

妹が俺の手を強く握りしめた。

これは……バレてるな。

きっとこれから絶縁だとか言われるのだ。

我が生涯はここで潰えるのか……。

 

「そうなんです! 私のおにぃに似てるんです!」

 

「……え?」

 

「私のおにぃって、あ、お兄ちゃんね?」

 

「わ、わかるけど」

 

「すっごい可愛いの! あ、男みたいって言ってる訳じゃないよ? 本当に可愛いんだから!」

 

妹はポンコツだと思ってたけど、ここまでポンコツ節穴だったとは……普通俺だと気づかれそうなもんだけど。


「そ、そっか。そんなに似てるなら会ってみたいなぁ……あははは」

 

「これからは一緒に戦うんだし、機会はあると思うけど……あんまり会わせたくないかも」

 

しまった、終わったと思って適当に喋ってたら余計な事、会ってみたいとか言ったら雰囲気変わったんですけど。

 

「お、おにぃは……私の服の匂い嗅いで興奮するぐらいシスコンだから、私以外の人にあんまり………そのままのおにぃでいてほしいから」


まてまてまてまて、待って、いや待って。

俺そんな事してないよ?

 

「おにぃは今頃、私の使用済みの服を血眼になって探したり、私のベッドで私の匂いに包まれているの! さっきも昨日私が使ってた服を抱えて部屋で……もー、本当にシスコンすぎ!」

 

「俺そんな事しねぇから!」

 

「えっと……ゆいゆいさんの事じゃなくて、私のおにぃの事なんだけど……本当にびっくり、話し方までそっくりだもん!」

 

やっべ、素が出てきちまった。

にしてもさ、俺そんな事してねぇよ!

お前のベッドなんて座った事もないわ!

服は認めるけど……。

 

「あ、いけない、ケーキ買っておにぃと食べるんだった! じゃあ私は帰るね、おんなじエリア担当の人が増えて嬉しいな!」

 

ケーキの箱を揺らさないぐらいのスピードで、妹は帰っていった。

……とにかく、あれだな。

 

「今日、俺は何も見てないし、聞いてない!」

 

妹からあんな風に思われてたなんて……これはマズい。

 

このままだと……。

 

『パパ、ママ! おにぃが私を性的対象として見ていて耐えられない!』

 

とか言いそうだ。

絶対に家から追い出され……絶縁される!


「マスター、よろしいのですか?」

 

「よろしくねぇよ、だから対策を考えてんだ」

 

「いえ、ゆいにゃん様からのイメージの事ではなくて、彼女は家でお兄さんとケーキを食べると言っていました。そしてマスターはお兄さんに非常に似ている、家に兄がいない……となると」

 

俺=ゆいゆいだとバレるって事だ!

 

「急いで帰るぞ、全速力で家に戻れ!」

 

「了解しました」

 

とんでもないスピードで空を飛び、部屋の窓から転がりこみ帰宅した。

妹はまだ帰ってきてない。

 

「服着替えないと」

 

「変身の解除ですね、では上着を脱いで下さい。変身する時にはまたその服を着て下さい、まだマスター専用のアクセサリーは制作途中なので、しばらくはこの服をお使い下さい」

 

「よくわかんねぇけど分かった!」

 

さっき脱げなかった服と同じとは思えない程簡単に脱いで、自分の服に着替える。

ヴァルキューレが入っていたダンボールは……押し入れに入れておこう。

 

……つーかよ、このヴァルキューレを着れば変身できる。

妹は元々変身できる。

つまりあれは……妹の新衣装だった、もしくはそれに近い何かって可能性が高い!

 

『お兄ちゃんが着てました、てへ☆』

 

『やっぱりゆいゆいさんって……おにぃなんだ、キモ……もう近づかないで』

 

俺が着ていたとバレたらこうなるのは必至。

証拠隠滅の為、ダンボール君は後でバラバラにしておこう。

 

「たっだいまー!」

 

妹の元気な声が、一階から聞こえてきた。

さっきは出迎えがないって文句言ってたし、今回は行ってやるか。

 

「おかえり」

 

「お、今回は出迎えに来た! いいね〜、妹の好感度が上がってるよ〜」

 

いや好感度って、妹の稼いでも仕方ないだろ。

それよりも……さっきの事を言われたらどうしよう。

ヴァルキューレの事、ゆいゆいの事、俺が妹の使用済みの服を持って部屋にいた事。

どれを言われてもアウト、ストライクとかじゃない、一撃アウト!


「あはは、ちなみにそれをMAXまで上げると何があるんだ?」 


「そ、それは……もぉ! おにぃのバカ! アホ! 生クリームを喉に詰まらせて死ね!」

 

ケーキを机に置き、妹は部屋に戻っていった。

良くわからん奴だが、何とか生き残った、生き残ったぞ!


落ち着いた俺はケーキをありがたくいただき、妹の好きなミルクティーを淹れ、部屋の前にケーキと一緒に置いておく。


「ケーキセット置いとくぞ」


「ミルクティー?」

 

「砂糖多めのな」

 

「ん、ありがと」

 

中からお礼が聞こえてきたので、明日になればいつもの妹に戻ってる。

昔から、ずっとこうだ。

 

さて、ヴァルキューレに話でも聞くか。

妹と俺は何に巻き込まれてんのか、あののっぺらぼうは何なのか。

そして、何故お前が家に送られてきたのかをな。

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