ιδέα《イデア》

巳波 叶居

ιδέα



浴槽の抜けゆく水の波間にも詩情見出す眼を潰した日


十八の僕が仕舞ったパレットで花になれぬままバーミリオンは


意味、意味、意味、意味を求めて戸を叩く厭わしきパレードの終演


(星さえもこの手で生めると知っていた 金の羽根降る 銀の羽根降る)


大空を駆ける翼を欲せども背骨に絡むはイバラばかりで


いつからか忘れてしまった野の草の揺らめきさえも心震えた


あじさいやきのふのまことけふのうそ 永遠とわなど望むべくもなき世で


(うつくしいものに囲まれそのかざにむせ返るように死んでゆきたい)


美も真もイデアであるとプラトンの正しさは皮膚をぢりりと焼いて


絵も歌も扉でしかないその先に束の間明滅するもののための


(月光虫、架空の世界に住まう虫 それはほんとにどこにもいないの)


忘却レーテーの淵に身を投げ沈めれば生まれるなにかの予感だけがあり


おそらくは引き換えであろううつくしいものを見出すまなこと 命は


(やめときなこっちにしろよとお前らが差し出す「幸福」ぜんぶ要らない)


おそらくは人が求める意味なんて星が光る意味を問う程度で


あらまほしき顔を手を集め完璧な美女ヘレネを描いた画家も正しい


神々も星も歌わぬ世の愚者です 僕には僕の筆の握り方


なにひとつほんものなどないうつし世でにせものでないものをさがす眼


ふくよかなる白あじさいに朝焼けのバーミリオンのしずくがつたう


(うつくしいものに囲まれそのかざにむせ返りながら生きて死ねれば)

















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ιδέα《イデア》 巳波 叶居 @minamika

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