風呂
昼の政務を終えたオクタヴィウスの夜の日程は概ねの時をクレオパトラと過ごすことになっている。
「ふぃー」
だが、それよりも前にオクタヴィウスはまず先にお風呂へと入るのを習慣としていた。
「こうして毎日、湯船に浸かれていることが僕の特別さを毎日痛感させられるぅー」
アレクサンドリアにあるファラオのための宮殿。
そこの一角にクレオパトラの命で作られた奴隷専用の湯船……宮殿内にいる奴隷がオクタヴィウスしかいないことを考えると彼の為にあると言える風呂の中でオクタヴィウスは一日の疲れをとっていく。
「ふんふんふーん」
石鹸で洗い終えた全身を大きな湯船に浸け、自身の陰部を手で扇風機のように回しながら鼻歌を歌う。
これ以上ないほどにオクタヴィウスは風呂の時間を満喫していた。
「少しお邪魔するわよー」
「……っ!?」
そんな中で、一人の少女の声が響いてくると共に風呂場と脱衣所を繋ぐ仕切りが開かれる。
「な、何故貴方がここにいるのですか?アルシノエ様。貴方は奴隷じゃないでしょう?」
仕切りを開けてオクタヴィウスの入っているお風呂へと入ってきた少女、それはクレオパトラの妹であるアルシノエであった。
「別に良いじゃない。奴隷専用なんてのは所詮建前に過ぎないでしょう?別に貴方を奴隷として扱っている者なんてこの宮殿内にいないわ」
「……で、ですが」
オクタヴィウスは自身のいちもつを隠せるように足を組みながら口をどもらせる。
「何よ?文句があるっていうの?」
「……いえ、そういうわけではございませんが」
「安心しなさいな。私はあの女と違って同性を愛するような趣味なんてないから。別に、一緒の風呂に入ったところで情欲の視線を向けたりはしないわよ」
「……そ、そこを心配しているわけじゃないのですが」
オクタヴィウスが心配しているのは自身が男だということがバレることである。
「まぁ、顔は憎たらしいくらい整っていることには同意するけどね」
「……っ」
そんなことを考えるオクタヴィウスの両頬を片手で掴んで持ち上げて視線を合わせるアルシノエの視線に嫉妬の色が混ざったのを受けて体を強張らせる。
「そんな怖がらなくていいのよ?」
だが、アルシノエもすぐにその色を心の奥深くへと鎮め、そのままオクタヴィウスの両頬から手を離す。
「ふふん。むしろ、私は君のことを評価しているのよ?あの、忌々しく傲慢だった姉を完全に腑抜けにしてしまったのだもの。愉快で仕方ないわっ!」
「(……女の嫉妬って怖いなぁ)」
そして、その後。
愉快げにクレオパトラへのほの暗い嫉妬を隠そうともせずに高笑いを始めるアルシノエに引きながらオクタヴィウスはこの場から逃れる方法を考えていくのだった。
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