メイク

 奴隷という身でありながら宮殿を自由に歩くどころか、クレオパトラの寝室にまで入る権利を与えられているオクタヴィウス。

 そんな彼はいつものようにクレオパトラを朝に起こした後、そのまま彼女のメイクまで行おうとしていた。


「それでは失礼いたしますね」


「え、えぇ……いつものようにメイクをしてちょうだい」


「お任せください」


 オクタヴィウスはまず、クレオパトラの肌に触れて日焼け止めのためにごま油を塗っていく。

 そして、マラカイトを砕いて目の周りに塗り、アイシャドーとしていく。


「……いつも、思っているけどあなたはメイクとかをしないのね」


「自分はメイク無しですよ。宝石などを買うのは流石に奴隷の自分ではキツイので。それに、僕はそのようなものをしなくとも圧倒的な美少女ですから」


「そ、それもぉ……そうだね」


「でしょう?」


「で、でも……私がしてもらっているアイシャドーには魔除けや日焼け止めとしても重要で……ひ、必要なら私の方でごにょごにょ……」


「自分なら虫を追い払うから大丈夫ですっ!魔だって、僕の美しさを前にしては立ちすくんで何も出来なくなっちゃいますよ。クレオパトラ様もそう思いません?」


「そ、そうね……わ、私が魔とかなら……君に近づいて、害したりとかはぁ……そうね。む、難しかったりするかもぉ……」


 魔法によって作られた水鏡の前で、これまた魔法によって作られた風の椅子に座っているクレオパトラと、そんな彼女のメイクを行っているオクタヴィウスはほんわかした雰囲気で雑談を繰り広げる。


「はい、完成しました」


 しばらくして、オクタヴィウスがクレオパトラのメイクを終える。


「それでは本日も政務がございますから。一緒に向かいますか」


「え、えぇ……行きましょう」


 メイクを終えた後は政務の為、部屋から出ることになる。

 クレオパトラは自分の前に差し出されたオクタヴィウスの手を取って風の椅子から降りる。

 それと共にオクタヴィウスは魔法を解除し、水鏡も風の椅子も消してしまう。


「本日も頑張りましょうね」


「えぇ、頑張りましょぅ……」


「(あー、今日もおべっかばかりの生活とかだりぃ。つか、普通にこちらへの性的欲求のこもった視線を向けてきているくせいに、近づいたりすると恥ずかしくなってもじもじしだすところ。普通にキモくて無理なんだよなぁ。女王になるっていうんならもう少し堂々としてりゃいいって話だわな)」


 表では笑顔を浮かべながら、裏で不満たらたらなことを思うオクタヴィウスはクレオパトラと共に部屋を出るのだった。

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