クレオパトラ
アグリッパのいる家から出たオクタヴィウスは自分よりも幾ばくか若い、6歳ほどの子供たちが楽し気に全裸で走り回って遊びまわっている道を仕事へと向かうために進んでいく。
「……」
歩くことしばし。
楽し気に行き交う全裸の子供たちの体に多くの装飾物が見られるようになった頃、オクタヴィウスは足を止める。
「……」
足を止めたオクタヴィウスの前にあるのは大きな建造物であり、そこの前に立つ彼は少しばかり息を整え、己のメンタルを整えていく。
「……よし」
しっかりと息を整え終えたオクタヴィウスは迷いのない足取りで大きな建造物、次代の女王と目されるプトレマイオス朝のクレオパトラが生活を行う宮殿の内部へと入っていく。
「おはようございます、オクタ」
「はい、おはようございます」
奴隷という身分。
この世界の最下層に位置する奴隷の身分であるはずのオクタヴィウスはそれでも、宮殿内部をごく自然な足取りで進んでいき、あまつさえ宮殿内部で働く官僚とも気軽に言葉を交わしていく。
そんな彼が宮殿を歩き、たどり着いたのは一つの大きな部屋に入るための、これまた大きな扉。
「失礼します」
そんな扉をオクタヴィウスはゆっくりと開け、部屋の中へと入っていく。
「光あれ」
カーテンによって窓を閉ざされ、明かりも一切ついていない真っ暗な部屋の中。
オクタヴィウスは魔法によって大きな光源を作り出す。
それによって灯されたこの部屋の内装。
それは豪華絢爛と呼ぶにふさわしいようなものであった。
そんな部屋の中心部に置かれた一つの大きな天蓋つきのベッド。そこに横たわる一人の少女がオクタヴィウスの光に反応して僅かに体を動かす。
「クレオパトラ様、朝ですよ」
そんな少女の元に近づいたオクタヴィウスはそっと、彼女の頭へと触れながら耳元で言葉をささやく。
奴隷がプトレマイオス朝の王女であり、いずれは共同統治者としてエジプトの頂点に立つ女傑に対して行うにはあまりにも不敬すぎる行為。
「……ぁ」
だが、そんな行いによって目を覚ましたクレオパトラはその瞳にオクタヴィウスを映すなりすぐ、恥ずかしそうに、また恍惚な表情で顔を赤らめるばかり。
決して叱責などは行わない。
「……う、ぅん。えぇ、おはよう。オクタ。今日もいい朝ね」
そして、さっさと手である程度崩れた自分の髪を一瞬で見られる程度にまで戻したクレオパトラがほんのわずかにオクタヴィウスとの視線を外しながら笑顔でおはようの挨拶を告げる。
「えぇ、実に心地よい朝でしたよ」
それに対して、オクタヴィウスはあえてクレオパトラとの視線を合わせに行きながら笑顔で言葉を返すのだった。
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