奴隷の二人
今よりはるか昔。
未だ神と魔、人が別たれておらず、共に恵みある大地へと芽吹ていた時代。
天より落ちてきた一筋の涙によって世界は大きく変貌した。
世界に新たなる文明である魔法が芽吹くと共に、天より落ちた涙を争う戦いが行われたのだ。
力なき人類が見守っている間、激しく争い続けた神と魔。
その争いは天地を分かち、人々の文明に言語も分かつ。まさに世界を変えるもの激しなものとなった。
神と魔よりもありとあらゆる面で劣る人類は辛く、厳しい時代を送った……。
だが、その争いの中で最終的に勝者となったのは人類であった。
神と魔を恵みある大地から追い出し、神を天界に、魔を魔界へと追いやった人類はその大地でもって新しく文明を築き始めたのだ。
……。
…………。
それより時は進んで神誕前53年。
かつては新しきものであった魔法もごく自然とある当たり前のものとなり、人々が魔法を使って生活するようになっていた頃。
現在において最も栄える都市のひとつ。
アレクサンドリアの湾岸都市の一角にある奴隷のためにこしらえられた家々の一つで。
「やばーい、前髪がバッチリと決まってくれなぁーい」
魔法によって作られた水鏡の前に座ったこの世界で最も美しき見た目をもった美少女のような少年、オクタヴィウスが前髪を手で弄りながら不満げに声を上げていた。
「もうそろそろ家を出ないといけない時間帯に全然時間ないんだけどぉー」
「その無駄に長い髪型を変えたらもう少しは朝の準備時間もマシになるんじゃないかしら?」
大慌ての声をあげながら、それでも前髪のセットを辞める気ないオクタヴィウスへと同じ家の中にいる一人の少女、パンを焼くために小麦を製粉している最中のアグリッパが呆れながら声をあげる。
「はぁー?この白の髪も僕の大事な商売道具なんですぅー。あえてあまり見ない髪型にすることで周りから目を引いているんだから!」
そんなアグリッパの声へとオクタヴィウスは不満げな言葉を返す。
「よし!おっけ、前髪のセット終わり!えっと……あとはスキンケアぁ」
そんなオクタヴィウスは次に、慌てただしくスキンケアのための道具を探し始める。
「あーん、ゴマ油ない?僕の大事な白い肌を焼きたくないんだけどぉー」
「……すごいわよねぇ、艷やかな赤銅色の肌を誇りとするこのエジプトで真っ白な肌をもって周りを魅了させ続けているの」
「どんな美的センスを持っていようと、僕という存在を見るだけで相手を魅了させる文字通り神に愛された子が僕だよ?これくらい当然に決まっているじゃん!よし、あった」
しっかりと身だしなみを整え終えたオクタヴィウスは最後に日焼け対策として植物性の油を塗っていく。
「よし!おっけ、完璧!それじゃあ、今日もお務め行ってくるよ」
「はい、いってっらしゃい」
外に出るため、全裸の状態から麻布のワンピースを纏ったオクタヴィウスが奴隷のための簡素な家を出るのだった。
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