第13話  最後の楽しみ

黄金色に輝く空。

広がる地平線。

いつもより小さく見える帝国。

ここまで休まずに走ってきたのだろうか。肺は大きく動き、足は地面に引っ付いているように動かなかった。


ハァッ…ハァッ…


呼吸を整え、再びゆっくりと歩き始める。

そうだ。

この場所を知っている。

最初に…''彼''と出会った場所だ。


「おい…!」


足が本能的に動いた。

無意識に…そして頭が、逃げなければと感じていた。


バンッッ!!!


――――――――――――――――――


ガバッ!


「…っ!はぁ…はぁっ…」


小さい頃から怖い夢や息が詰まる夢はよく現れた。

その都度兄さんに隣で寝てもらってたっけ…。


「怖い夢だってすぐ忘れちゃうよ…今日の僕は…どんな夢をみてたのかな…。」 


普段より激しく動く心臓の音を聞きながら少しの間余韻に浸っていた。


息を整え、何事もなかったかのように部屋を出た。




夢というものは実に不思議なものだ。

それが正夢だったとしてもそれを未来まで覚えていられることは稀である。


たとえその正夢が少年の生死を暗示しているものだとしても―


階段を降りてリビングにつくとナギが新聞を開いてソファに寝転がっていた。


「ナギが新聞読んでるなんて…どういう心境の変化なんだい?」


―――――――――――――――――――


街についた当日―


「やぁ兄ちゃんたち!新聞はどうだい?1部につき銀貨1枚だよ〜!」


新聞か…今の帝国の状況を知るためにも貰っといたほうがいいんだけど…


ナギの方を横目でチラッと覗く


「俺は新聞なんて興味ねーし読まねーから読みてぇなら買っとけよ」


「うーん…でも資金は貴重だし…生活が安定してきたら買うことにしようか。ナギもちゃんと読まなきゃだめだよ?」



―――――――――――――――――――


「ルルアが朝早くにここに置いてったんだよ。」


ルルアさんが…わざわざ申し訳ないなぁ。


「それと、また夜に物資届けに来るってよ。」

「うん…わかった。ありがとう。」


部屋の中が見えない程度に窓を開け、キッチンに立った。


「朝ご飯は何がいい?ナギ。」

「いらねぇ…」


意外な返答だった。


「どうしたの?ナギ。どこか調子悪いの?」


再びナギのところへ駆け寄ってソファを覗き込む。


「今日出かけるんだろ。昼いっぱい食うから…温存する…」


束の間の沈黙が続いたあと、


「ぷっ…あっははは!ナギってちょっと可愛いとこあるよね。」


「…っ!なんだよ…わ、わらうなよ!」


顔は新聞で隠れていてわからなかったが、耳は少し赤らんでいたように見えた。


「ごめんごめん。もう笑わないから…ね?」

「……おう。」


開いた窓からそよ風が入り込み、カーテンを揺らし、部屋に流れる。


「んで…今日はどこ行くんだよ。」


「どこ行く…って言われたって僕は帝国の人じゃないからわかんないよ。」


はぁ…

呆れたようにナギがため息をつくと、ソファから起き上がって新聞を置いた。


「あんまりあいつとは会いたくなかったんだがな…決戦前日なんだろ。今日ぐらいはおまえに楽しんでほしい。」


トウマは驚いたように目を丸くしていた。


「ほら、用意できたら行くぞ。」


「あ、うん!…楽しみだなぁ〜どこ連れて行ってくれるのかな〜。」


ドンッ!

「そういうのいいから…さっさと用意しろっての!」


ナギに肩を押されながら階段へ向かった。


「んじゃその間俺は洗濯物干すから用意出来たら言えよな。」

「わかってるってば。」


ガチャン―

そうしてトウマは自室に戻った。


ナギってなんやかんや言ってるけど家事手伝ってくれてるんだよなぁ。

別に僕1人でやるって言ってるんだけどね…やっぱりナギには助けられてばっかりだな。

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