第10話 この一刻が

コンコンッ


「トウマ。」


僕はペンを置いてドアに駆け寄る。


ガチャッ


「おはようナギ。朝ご飯は僕が作るよ。」


と言ってもナギはドアの前から離れない。


「えーっと…ナギ?」


「お前、夜出かけてたろ。どこ行ってたんだよ。」


「外の空気を吸いに行ってたんだよ。…もしかして心配してくれたのかい?」


「はぁ…心配したに決まってんだろ。何か残してから出ろっつーの。」


ふわぁぁとあくびをしながらドアの前から離れて階段を降りていった。


やっぱりナギは優しいや。


ナギは優しいから、昨日の夜に家族に会ったなんて言ったら―


きっと僕を置いてって1人で行ってしまう。


僕はまだ…それが怖いんだ。


「ナギ〜!散らかってるの片付けるからちょっと待っててね!!」


「わーってるよ!」


「ぜっっったいに料理しちゃだめだからね!」


「やったことねーからできねーよ!」


ガチャンッ


「はぁ。」


自室の扉を閉めて僕は静寂に包まれる。


ナギって誰にでもあんな感じなのかな…?


僕がそばにいる間になおしといたほうがいいのかな?


それにしても…


やっぱナギといると楽しいなぁ。


これが家族って感じなんだろうなぁ…


束の間の幸せに嬉しさがこみ上げる。


机の上の手紙をバレないように引き出しにしまって部屋を出る。


階段を降りると、ナギが退屈そうに椅子に座っていた。


「ごめんね、ナギ。遅くなっちゃって。」


「いいってそーゆーの。もう何も知らねぇ他人でもねーのに。」


「ふふっ。そうだね。」


僕はキッチンに入る。フライパンに鍋におたま…塩に胡椒に砂糖…料理に使うものは粗方揃っていた。


「ナギは何食べたい?」


「俺あんま料理知らねぇから、お前の好きなやつで。」


「…じゃあナギが好きそうなやつにしようか。」


トントントン―

野菜を切って…


ソーセージも入れようかな…


オリーブオイルをひいてにんにくを一かけ。


そこに切った野菜とソーセージを入れて炒める。


水と調味料を加えて煮込み始める。


よしっ…ここで一区切りできそうだね。


「何作ってんだよ?」

匂いに釣られたのか、興味津々そうだった。


「残念!…できるまでのお楽しみだよ。」


ナギは不服そうにぷくーっと頬を膨らませた。


コンコンッ

玄関のドアからノックの音が響く。


「2人とも、私だ。ルルアだ。」


ルルアさん…!

来てくれたんだ…


「ちょっと待ってください。今開けます!」


「俺が行く。」


ガチャッ

「おや。ナギか〜!久しぶりだな。元気してたか?」


「あぁ。こっちは特になんにも。とにかく入れよ。」


「じゃ、お邪魔するよ。」


ルルアさんは前にあったときと変わらず高めのポニーテールを揺らしながらよっ!と声をかけてくれた。


「いらっしゃいルルアさん。」

僕も軽く手を振り返す。


ちらっと僕は鍋の方に目を向けた。

頃合いかな…?


昨日買ってきたトマト缶を鍋に入れて煮る。


グツグツ―

鍋が沸騰し始めた。


「随分といい匂いだな。朝ご飯にしては豪華じゃないか。」

しれっとルルアさんはナギの横に座っていた。


「おい、勝手に座んなよ。」


「ナギは失礼だなぁ。私だってトウマの作った料理を食べてみたいんだよ。」


ナギは少し嫌そうな顔をしながらも、それ以上は言わなかった。


「大丈夫ですよ。ルルアさん。僕の作ったものでよければ食べていってください。」


「トウマはナギと違って優しいな。」


ルルアさんがナギの方をちらっと横目でみるとナギも睨みながらチッと舌打ちをする。


「そういやなんで連絡も無く急に来たんだよ。」


「そりゃ用事があるからに決まってるじゃないか。」


あはは…だんだん空気重くなってきたなぁ…


「用事ってなんのですか?」


「…まあまあそういうのはまず食べてからにしようか。みんなお腹空いてると話も入ってこないだろ?」


「急ぎじゃないなら大丈夫ですけど…」


僕はできたスープを器に取り分ける。


ロールパンを平たいお皿にのせて1つずつテーブルに運ぶ。


「はい、2人とも。」


「…うまそう。」

「トウマ、料理上手いんだな。今度うちの病院食も作りに来て欲しいくらいだよ。」


よかった…喜んでもらえて。


僕の顔は自然と笑顔で溢れていた。

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