第8話 蘇る記憶

何度か転ばされそうになったが、どうやら目的地には着いたらしく…


「ほら、ここだ。」


真夜中で月に雲がかかっているからだろうか、真っ暗で何があるのかはよく見えない。


ヒュゥゥゥと一筋の風が抜ける。

建物の劣化が激しい。廃墟なんだろうか。


「ここは…?」


男はコートのポケットから煙草とライターを取り出して吸い始めた。


煙草を一服吸うと、

「知らねぇよ。お前に会いたいって言ってる奴がここだって言ってんだよ。」

と吐き捨てた。


僕に…会いたい…人?

僕が帝国を出たのは11のときだ。

家族もいなければ知り合いもいない。


「もうそろそろ来る頃だな。」


ギィィィィ―


苔むした扉がゆっくりと開かれた。


1つの人影がこちらへ向かう。


コツッ コツッ コツッ


徐々に月にかかっていた雲が抜け、月が顔をだした。


僕に会いたい人―その人物の顔が月明かりに照らされる。


金色の髪が月明かりによって輝き、メガネのレンズ越しでもわかるほどの―夜空のような綺麗な藍色の瞳。


この人が、僕に会いたい人…?


「は、はじめまして…?僕ら、会ったこと…ありましたか。」


僕がそう言うと、その人はふふっと柔らかく笑った。


「では―」


「この見た目なら、気づいてくれますか?」


チェーンの付いたメガネを外し、僕の目を見つめる。


「…!」

あぁ…知ってる人だ…なんで気づかなかったんだろう。


僕が帝国を出る前、ずっと一緒にいてくれた家族のような存在だったのに。


だんだん視界がぼやけていく。


「イヴ…ッ!」

僕は一心に駆け寄った。


「トウマ…帰ってきてくれて、ありがとう。」 

イヴは昔と同じように僕の目に溢れた涙を拭ってくれた。


「覚えてる?トウマ。ここは僕たちがずっと過ごした教会だよ。」


「うん…覚えてるよ…全部…。」


「父上に連れられて初めての教会に来た時、君があまりにも怖がるものだから…僕が''お兄ちゃん''になって守らないとって思ったんだ。」


帝国では貴族が孤児を拾って育てることは法律で禁止されている。そんな中、伯爵であるイヴの父を含むイヴの家族はみんな僕を受け入れてくれた。


幼い僕はそれがただ嬉しかった。


「ねぇトウマ。僕と一緒に逃げよう。」

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