第7話 一時の休息

「そろそろナギが痺れを切らしてる頃だろうな。呼んでこようか。」


そう言ってルルアさんはテントの外へ出た。

多分僕に一人の時間をくれたんだと思う。やっぱり優しい人だ。


しばらくするとちょっと機嫌の悪そうなナギがルルアさんの後ろを歩いてきた。


「戦争が再開するまでまだ時間がある。だから、逃げるなら今のうちだな。」


「今のうち…って軍から2人いなくなったら探しに来るんじゃねーの?」


「それなら問題ない。私の病院に搬送された、とでも言っとくよ。」


「はぁ…そういやお前んとこの病院は特例だったな。わりぃな。巻き込んで。」


申し訳無さそうに頭をかく。


ルルアの持つ病院は先代院長の頃、見舞いを装った兵士が大暴れして死傷者を出したとか。みたいな事件があったらしく、軍の関係者は簡単に入ることは許されなくなった。

―この事件も軍が隠蔽しているものの1つだ。


その行動に不信感を抱いたルルアは表向きには従いつつも心の内では俺らと同じ思いだった。


―――――――――――――――――


「んじゃあな、ルルア。助かった。」


その夜、俺たち2人はルルアのもとを後にして、静かに街へ戻った。


なんとか軍の検問を乗り越えて俺たちは無事街へ戻ることが出来た。

街の商店街は戦場とは大違いで、賑やかだった。


「どうやらここ…みたいだけど…ナギ。ほんとにここ?」


商店街から少し奥に入った路地裏の一角。ルルアが借りている家があるらしく、去り際にメモを渡された。


『ここは対して使ってないし、誰も来ないから安心しな。暇があったら私も行くよ。』


「あぁ、ここで合ってるらしい。」


ルルアから預かった鍵で重いドアを開けた。


外見とは裏腹に、中は案外綺麗だった。


「食べ物はさっき買ってきたし、数日はここで隠れてても大丈夫そうだね。」


「そうだな。…まぁ今日はもう遅いし、俺は寝るわ。お前も早めに寝ろよ。」


そう言ってナギは自室(仮)に入っていった。


「さて、僕は昼間に起きたばかりだしなぁ。なにをしようか。」


ガチャッ―


僕は家のドアを開けて外に出た。外の空気も吸いたかったし、自分の生まれた故郷がどんな風になっているのか見てみたかった。


「…っていっても、たいして記憶は残ってないんだけどね。」


そうして表通りに出ようと一歩踏み出そうとした時、


カチャッ―


僕の背中に冷たい金属があてられた。


「ここまでだ。トウマ・スピネル。」


「…。一体いつから僕の正体がわかってたのかな…?」


背を向けたまま相手の動向を伺う。

少し振り向くと相手の姿は一瞬見えたが、フードを深く被っているようで顔は見えなかった。


「お前、軍の人間1人殺したろ。そんな兵士になりたての奴が殺せる相手じゃあなかった。それで調べようと思ったんだが、お前に関しての資料が1つも見つからなかった。これは…そういうこったろ?」


僕の後ろ髪を男は靡かせる。


何かあると感じた僕は無言で手をあげた。


「おいおい。別にこっちは打つきなんてねぇって。ただお前に足を止めてもらえるようにって出しただけだ。」


足を止めてもらう…ねぇ。僕をすぐに殺して上層部に突きつければ一瞬で上流階級に上がれるのに。変わり者もいるもんだな。


「要件は?」


「その前に場所を変えようぜ。なぁ?」


男は銃を下ろし、少し乱暴さが目立つ手つきで僕の背中を押した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る