第6話 覚悟

あの一件があってから、帝国は戦場に出る軍人の総入れ替えや軍隊の再軍備のための期間として2週間の休戦協定を申し出た。



また公国軍も前線軍隊の大幅な減少により協定を受諾せざるを得なかった。



両軍の生き残った前線部隊は後方部隊と合流したようで、俺たち3人は一時的な休息を与えられた。



「公国は………前線で………はや…治療……して…れ」



その声で僕は重い瞼を開いた。


「んっ……」

しばらく眠っていたからか、隙間から刺す光が眩しかった。


「…!トウマ…!気がついたのか!」


さっきの声の主はナギだったようだ。


「大丈夫か。痛むところはないか?」

僕は首を横にふる。


「そうか。んじゃ俺はお前の意識が戻ったって伝えてくるよ。」


ナギはすぐにその場を離れた。



僕は何日眠ってたんだ…ここは多分後方部隊だろうけど…こんな遠い距離をどうやって…



グウゥゥゥゥ

…お腹すいたな。ナギに頼めばよかったかな…


少し待っているとナギが救護班を連れてきた。


「はじめましてトウマ。私は帝国軍の軍医、ルルアだ。」


「あっ…はじめまして…トウマです。よろしくお願いします。」


長めの赤い髪をポニーテールに結った背の高い女性だった。



可愛いとか綺麗みたいな言葉より、かっこいいとか美しいが似合う人に見えた。


「それじゃあとりあえず診察しようか。」

 

服を脱がされたり舌引っ張られたりで大変だったけどなんとか数分で診察は終わった。


「ナギ。」


「ん?どうした?ルルア」


「ちょっと、席を外してくれるかい?」


診察…ではなさそうな雰囲気だった。


「なんでだよ。お前そーいう趣味じゃねーだろ」


「トウマと2人で話がしたいんだ。すぐ終わるから大丈夫だ。」


「…わかったよ。トウマ。こいつは俺が信頼してる奴の一人だ。警戒はしなくていい。」


ナギが信頼するほどの人…情報収集のためにもいい印象は持たれていたほうが良いよね…


僕は首を縦に振った。


それを見て安心したのか、ナギはなにも言わずどこかへ行ってしまった。




「さて…私が聞きたいことは一つだけなんだ。」


「なん…でしょう…」


「君さ…帝国軍じゃないんだろ?」


「っ…!」



終わりだ。



このまま本部に連絡されて

僕は殺されるんだ。


僕は顔をみられないように下を向いた。

無意味なのはわかっている。

でも最後の抵抗として― 


「当たりでも外れでも返答はいらないよ。」


「…なんで…ですか?」



僕は少し声を震わせながら聞いた。


「別にうちの軍に潜入されて暴れ回られたってこっちにさえ来てくれなきゃ関係ないよ。むしろ暴れまわって上の奴らが慌てる顔を拝みたいぐらいだ。」


もしかして…ナギもこんな感じだし…一応味方…なのかな?


信頼してるって言ってたし…言っても―


「あの…」


「なんだ?」



自分の中の恐怖心を押し殺す。堂々と、胸を張る。


「実は…僕は、公国からのスパイなんです。」




そうして僕は全てをルルアさんに話した。

ナギと最初に出会った日のこと、自分が帝国からの脱走兵だということ。全て。



その間、ルルアさんはずっと静かに聞いてくれていた。


「だから…もし…本部へ連れて行くなら連れて行っても構いません。これが、僕に関する全てです。」


ルルアさんは少し考えた様子で目を閉じた。


「結論から言うと、は君を本部へ差し出すつもりは微塵もないよ。だから安心しな。全部話してくれてありがとう。」


ルルアさんはにこりと微笑んだ。


「…っありがとうございます…」


「こちらこそ、ナギと一緒にいてくれてありがとう。」


ルルアさんは続けてまた口を開いた。


「ナギの両親は軍で働いててさ、ちょうどナギが小さい頃も今みたいに戦時中で、ナギは親にされるはずの当たり前をされずに一人になったんだ。親の愛情も十分に受けられず…ね。」



「ナギが…」


僕は今の自分の気持ちに合う言葉が出てこなかった。

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