第4話 俺たちのスタートライン


「僕がこの任務を終わらせて公国に戻るとき…ナギも一緒に行こう」

戦場に一筋の風が吹く。俺の背中を押しているように。 


「…考えとくよ。」


トウマはまた表情を崩した。




「おーいお前らー!なに休憩してんだ!」



「…ッ!すみません!すぐ持ち場に戻ります!」



俺たちは重い腰を上げて歩み始める。


―――――――――――――――――――――――


1人で国と戦ってきた少年は全てを共にする仲間を見つけ



敵国の少年は己を犠牲に国民を救いにきた。




俺たちの始まりは、この黄昏時の国境だ。



―――――――――――――――――――――――



「…ここ…前線だよな?」


「うん…ベルガーさん?がそう言ってた…けど…これはどういう…」


俺たちは呆気に取られた。



それもそのはずだった。



公国軍が―ほとんどいなかった。


いなかったと言えば嘘になる。



''いなかった''んじゃない、



''もう誰も生きていない''が正しかったんだ―




状況が整理できなかった…俺たちの目の前で起こっていることが…理解できなかった。


「アッハハハハハ!!」


ザシュッ―グサッ―



うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!助けて!!助け―



兵士たちの叫び声。


嫌だ…死にたくな―


グサッ…



俺の頬に冷たい汗が落ちる。


「やはりこんな役立たず!この神聖なる帝国軍には必要ない!」


役立たず…だと。


その男は確かにそう言った。


「俺が軍曹になって正解だった!こんな形でゴミ共を始末できるなんて!!」


その戦場に覇気はなく、ただただ絶叫と血の匂いが立ち込める地獄と化していた。



トウマの方を見る余裕などなかった。だがトウマも同じ気持ちだっただろう。



怒り―


ただそれだけだった。


この感情しか生まれてこなかった。



殺された兵士たちを見ると帝国軍の青色の服を着ていた。



そして剣を振り回している男もまた、同じ服を着ていた。



男の装飾品からするに、階級は軍曹。



やはり狂っている。この男も。こんな仲間を殺すような男を軍曹まで昇級させた帝国も―



「ナギ…!!ナギ!逃げろ!ここには来るな…!」


リンヤ?!なんでここに…!


……! そういえば俺とリンヤの部隊はこいつの管轄下だったな…!


「っ!!リンヤ!」



リンヤの背後に剣が迫る。



ダメだ待ってくれ…リンヤ!


俺を…!置いていかないでくれ…!


頼むよ…|




体が勝手に動いた。



気づけば俺はリンヤに覆いかぶさっていた。



「ナギ…!おまえは逃げろって言ったろ!」



お前を置いて逃げれるわけないだろ…


お前は俺にとって…


俺にとって―



振り下ろされた剣だんだん近づいてくる。



あぁ…悪い、トウマ。


俺はここで死ぬ。


ごめんな。


死を覚悟した時―


カキンッ!


鉄と鉄がぶつかる音が響いた。


「ありがとうナギ。」


柔らかくて優しい声が聞こえた。


あぁ…お前は…お前ってやつは…


どこまでお人好しなんだよ。


「トウマ…っ」


トウマは振り向いてにこりと笑った。


「大丈夫。」


「あとは僕に任せて。」

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