第3話 はじめの一歩



「なぁ、トウマ。」

来た道を戻りながら俺は話しかける。

「ん?どうかしたのかい?」

こんなこと聞いてもいいのだろうか。聞けばこいつの、トウマの実力を疑うことになる。でも――


「もし、バレたら、おまえはどうするんだ?」


俺が恐る恐る聞いたのが面白おかしかったのか、トウマはふふっと少し笑ったあと、

「僕が見つかるとでも思ってるのかい?」

「あ、いや…別におまえの実力を疑ってるわけじゃない。もしもの話だ。」

俺は慌てて訂正する。

「でもね、正直なところ…不安なんだ。100%見つからない保証なんてどこにもない。」

そう言うとトウマは笑った。

「見つかったら最後、国全体から追われるだろうね。しかも帝国と公国の両方にね。」

「追われたらどうするんだ?もっと遠いところまで逃げるか?」

「それはわからないなぁ。でも、たとえそうなったとしても、ナギが一緒について行ってくれるなら…あっいや、ごめん。なんでもない…」

トウマは口をつぐんだ。

「ほら、もうすぐだ。ナギ、悪いけど僕の身分を証明してほしいんだ。帝国軍は前線にいる兵士を完全に把握できていない。帝国は昔っからそうなんだ。だから帝国軍の生き残りを見つけたーとか適当な理由つけて軍に入れてほしいんだ。」

「……はぁ、わかったよ。」


だいぶ面倒な奴に会ってしまったと今は少し後悔している。だがその後悔を上回るほどの期待もある。そして誰一人見捨てないのが俺、ナギ・クロンフェルムであり、帝国にできる唯一の抵抗だ。





「おい、そこのお前!何者だ!」

大きな罵声が草原に響く。声の主は上層部の総司令官。ベルガーだ。堅物で帝国の思想に染まりきってる奴の一人だ。できれば会いたくなかったんだけどな。

「俺は帝国軍第1部隊、前線指揮官のナギだ。」

前線指揮官、なんて肩書は嘘っぱちだ。ついさっき思いついて使わせてもらった。

「ふむ…前線指揮官か。前線にいるはずの人間がなぜここにいる?」

やっぱり疑われるか。だが今のところは想定内―

「私が前線で指揮を取っていたところ、この兵士が公国側に異変を感じたそうで。一刻も早く伝えねばとここに来た次第です。」

「わかった。この戦争で公国ごときに負けることなどあってはならんからな。作戦本部に伝令をいれて調査を要求する。詳しく聞かせろ。」

トウマは俺にすべてを任せるつもりなんだろうが、そう簡単にやすやすと潜り込まれてたまるかって話だ。俺は逃げんのやめて連れてきてるんだぞ。

なんでもいいからそれっぽい作戦の内容伝えとけと言わんばかりにトウマを横目で見る。

まさか自分が言う羽目になるとは流石に予想外だったようで、トウマは少し慌てた様子で総司令官に敬礼した。


「私は第2分隊に所属しているものです。先程我々の隊が公国軍と交戦中、近くの林に数名の人影を目撃しご報告に参りました。」

帝国と公国の国境には大きな林が広がっている。この混乱した戦況を打開するためには林を利用するだろうと誰もが思いつくはずだ。帝国軍もいくつかの部隊がその作戦をとっている。

「では後方に待機している兵士を向かわせよう。詳しい位置を頼む」

ベルガーは作業台の引き出しから地図を取り出して広げはじめた。

「位置はだいたいこの辺りだと記憶しております。」

トウマは地図中の国境付近を指さした。

「おまえたちは持ち場に戻れ。あとはこちらで処理しよう。」

「「はっ!では失礼致します。」」

そうして俺らは本部をあとにした。

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