第2話 この出会いが凶と出るか吉と出るか
鉄同士が交わる音、乾いた玉の音。前線に行けば誰の声も届かない。社会にも、誰にも縛られず自分自身が自由でいられる唯一の場所。そんな戦場が、俺は好きだった。
「まだ対して激化してないな。見たところこちら側が優勢…これなら俺だけ前に出ても大丈夫そうだ。」
同じ部隊の仲間を差し置いて一人足を進める。
その時俺はこの戦争にのっかってこの国を出れるかもしれないと思った。
少し進んだところで俺は足を止めた。1つの影が見えた。よく見たところ同じブリスタン帝国の軍服だったが、俺よりも先に進んでいるやつがいるとは思わず、少し驚いた。
呆気に取られていると、向こうがこちらに駆け寄ってきた。
「君っ!どうしてこんな先まで来てるんだい?軍隊からはぐれたのかい?」
グレーの髪に綺麗な黒の瞳…端正な顔立ちの、俺と同じぐらいの歳の青年だった。
「お前こそ、なんでこんなところにいるんだ。まだ軍はここまできてないぞ。」
相手は少し返答に困っているようだった。
「…君、もしかして脱走兵?」
「だったらなんだよ。」
青年の瞳孔がほんの少しだけ開かれた。
「…やっぱりそうなんだね。まだバレてなかったらでいいんだけど…僕…基地に戻りたいんだけど一緒に行ってくれないかな?」
「俺に戻れって行ってるのか?ていうかここまでこれたなら一人で帰れるだろ。……おまえまさか――」
言いかけた瞬間、鋭い視線が向けられた。
「だったらどうする?僕に殺されたいのかい?」
俺はそいつの目を見た。一瞬だったがその目に光は無く、人殺しの目をしていた。
「…連れて行っても構わないが、理由だけ教えてくれるか。」
「もちろんいいよ。僕がそっちの軍に紛れるのは他でもない、帝国を変えるためさ。」
帝国を変える。この言葉に驚いた。自国に同じ考えの人間はおらずとも隣国に変革を望む人間がいることに。
「僕の生まれは帝国なんだ。君と同じように逃げてきてちょうど国境のところで公国の兵士に拾われた。だからこそ、今回のこの好機を逃すわけにはいかないんだ。」
そうか…お前も同じなのか。
こいつと一緒にいれば国の上層部の顔を拝めるかもしれない…うまくいけばもっと良いところまで…
「…少し疑念は残るが、おまえの気持ちはよく理解できる。案内してやるよ。ついて来い。」
俺は、自分が選んだ自由を放り出し、自国へ引き換えした。
「公国兵は最悪殺してしまっても構わない。顔見知りはいるけど…仕方ないことだよ。」
仕方のないこと。その言葉に覚悟を感じた。今まで俺は、他人が犠牲にならないよう己だけを犠牲に噛みつくことしか出来なかった。それが俺にとってできる精一杯で、成果を挙げれたというほどでもなかった。
「国という大きなものを変えるためには、少なからず犠牲は伴う。それを当然としない限り、良い結果には至らない。これだけは覚えておいてほしいんだ。えーっと…」
「ナギだ。」
「…ナギ、か。いい名前だね。」
そう言うとそいつは微笑んだ。
「僕の名前をまだ言ってなかったね。」
「僕の名前は…トウマ。よろしくね、ナギ。」
「…あぁ、よろしく。トウマ。」
握手を交わしたあとのトウマの顔は何故か悲しそうに見えた。
「…どうかしたか?」
トウマはハッとした様子でこちらを向いた。
「ごめんね。昔っからよくぼーっとしちゃってさ。」
「そうか。」
「…さてとっ、そろそろ帝国軍基地に行くとしようか。」
そう言ってトウマは立ち上がり手をのばす。
俺はその手に支えられながら重い腰をあげた。
「あぁ。」
また戻るのか。あの地獄に…
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