黄昏のソルジャー
色いろ@お休み中
第1章
第1話 未来のために
バンッ!!
音とともに重いものが倒れる音がした。辺りは暗く、道が続いているのかどうかも判別できない。
「俺は…おまえの願いを叶える。そのために生きる。」
自分はマッチに火を付け、地面に落とした。オレンジの火が自分を囲う。自分の手には拳銃が握られていた。
「そう、俺は、おまえの───のために──」
ジリリリリリッ!
「…ッ!」
ベルの音で目が覚めた。喉の奥に言葉が突っかかっている。頭では何も知らないとわかっているのに、自分の心が声に出さなければならないと訴えているのような気がした。
「おまえを…守りたかった」
守る?誰を?
時々夢に現れてくるあの光景、行ったこともなければ見たこともない場所…そして自分の手に握っていた拳銃。音とともに倒れた何か。あれはきっと人だ。だが自分は人なんて―
コンコン
「おーい。起きてるかー?」
聞き馴染のある声でハッとした。
「どうしたんだ。お前がここにくるなんてな。」
「お前なぁ…何回こんなホコリ臭いとこに入れられたら気が済むんだよ…いい加減上官の犬になっちまえよ。」
「上官の犬だと?冗談じゃねぇ。こんな軍隊、ない方が幾分かましだ。」
「でもこんな場所にそんなものつけられるくらいならなぁ…」
ジャラッ…と鎖で繋がれている足を見ながらそいつはぼやいた。
「そもそも、お前こそこんなとこに長居してていいのか?今度こそお前もここに入れられるぞ。リンヤ''隊長''」
「それだけは勘弁だな…てかお前に隊長って言われるとなんか気持ちわりぃよ…んじゃ俺は訓練でもやってくるぜー」
リンヤはそう言い残すといそいそと軽く手を降って帰っていった。
俺はこのブリスタン帝国で生まれ、育ってきた。幼少期はさほど不自由なく生活していたが、7歳の頃に両親が急死してからは軍に入って寮生活をしていた。
軍に入ってわかったことといえば、この国の裏の顔だ。このブリスタン帝国は「誰もが平等に暮らせる社会」「どこの国よりも平和で豊かな国」という言葉を掲げて政治を行っているが、実際はそうではない。ある一定の所得から下の国民は「国の犬」と称され、戦争が始まれば兵になり、その他は過酷な労働を強いられている。
その頃の俺は過酷な現実を知らなかった。知る由もなかった。
こんな国のどこがいいんだ。幼少期の自分の目に映っていたキラキラした帝国とは程遠く、今の自分の目に映るのはまともに食事も与えられない国民を犬として扱い、上層部の人間は優雅に暮らしている腐った社会だ。
俺のまわりの人間は優雅な暮らしをしている側の人間。
きっとこの社会に不満などないだろう。
だからこそ自分が変えなければならない。
そうして上層部の人間に歯向かっていると今の自分のように牢獄のような場所に放り込まれる。
そういえば今日は国のこれからが決まる大事な会議があるとか…滅多に顔を出さない国のトップも参加しているとかなんとか…まぁ今の俺には関係ない話だが。
-----何もすることもなく天井を眺めていると数時間が経っていたようだ…
ガチャッ!
「なんだ?また駄弁りに来たのか?」
「ちがうんだ!まずいぞ…!戦争が始まるかもしれない!」
その声色からただ事ではないことはしみじみ伝わってきた。
「どういうことだ。手短に頼む。」
寝ていた俺は体を起こして冷たい地面に座り込んだ。
「隣のサージテル公国との会議で何かトラブルがあったらしい!」
「サージテル…って一体何が原因で…」
「噂じゃ昔の腹いせとかなんとか…まあとにかく、軍曹のジジィがうちの軍にも連絡をよこしてきたんだ。」
(なるほど…。国家関係の問題か…面倒なことに…)
「うちの部隊じゃお前だけが頼りなんだ!頼む!」
今まで散々あーだこーだ下にみてきたくせに今更なにを―
いや、この状況ならもしかすると…
「…はぁ、わかった。俺は前線に行く。この鎖を切ってくれ。」
「あ、あぁ。わかった。えーっと鍵は…確かここに…」
リンヤは門番の休憩室に入って鍵を探し始めた。それにしてはだいぶ大きな音がたってるようだが…。
「あったーーっ!!」
ガシャンッ
鎖が切れる音とともに牢屋の入口が開き、リンヤが手を伸ばしてきた。
「立てるか?」
俺はその手を取り立ち上がる。久しぶりに足を使うからか、少しふらつきながら牢屋をあとにした。
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