第25話 ナーガ
「こっからどっちに行ったらいいんだ?」
セイレーンを倒しボスの部屋へと向かおうとするが、どの道が正しいのかわからず足が動かない。
さっきみたいに罠がないから正しいと思っても、本当は正しくないという可能性もある。
「はぁ。困ったぞ……」
どちらの道も死の匂いがプンプンして足が動かない。
どうするべきか悩む。
「……しかたない。こっちにするか」
これ以上悩めば魔物?が危険だと判断し、右の道へと進む。
どっちも危険なら大して変わらない。
そう思い、早足で進んでいく。
暫くするとまた扉が現れた。
今度はなんだ……?
警戒心マックスで扉を少し開け中を覗くが、少しの隙間からでは全体を確認することは不可能なので、少しずつ開けて大丈夫かと確認する。
半分を開けたところで、悪魔の彫像が見えた。
「ガーゴイルか!」
実は扉を勢いよく開け、ガーゴイルが動き出す前に氷の矢で攻撃をする。
実の攻撃は命中し、彫像は粉々になる。
だが最悪なことに実は見落としていた。
まだ2体ほど彫像が残っていることを。
「ふぅ。動き出す前に倒せてよかっ……た、ってしまった!!」
倒せて安堵した束の間、後ろからガーゴイルに攻撃されそうになり慌てて避けるが、そのとき腕の力が緩み魔物?を落としてしまう。
実は慌てて魔物?を助けなければと思い近寄ろうとするが、ガーゴイルの執拗な攻撃のせいでその場から動けなくなる。
なんとかして倒そうとするが、空中を飛び回るガーゴイルに当てるのは、つい最近氷の魔法を手に入れた実にとっては至難の業だ。
それでもなんとか当てようと策を巡らせ、少しずつ命中率があがると、一体のガーゴイルが実から魔物?へと攻撃対象を変える。
'クソッ!間に合わない……!'
走って近く実と空を飛んで近づくガーゴイルではどっちが先に近づけるかは一目瞭然。
このままでは魔物?が死ぬ。
そう思った実は魔物?を助けるために、自分に攻撃するガーゴイルを無視して、魔物?を守るよう周りに氷の針の山を作り近づけられないようにする。
ガーゴイルはあと少しで魔物?に触れられるというときに全身を氷の針で貫かれ、全身が砕けた。
「あと一体……」
気合いを入れ直して対処しようとしたそのとき、背中に強烈な激痛が走る。
何が起きたんだ?
そう思い後ろを振り返ると赤い水滴が飛んでいるのが目に入った。
すぐにそれが自身の血だと気づいた。
今、この空間で自分を傷つけることができるのはガーゴイルしかいない。
実は急いでガーゴイルがどこにいるか探す。
そのときスキルが自動発動したことを知らせるウィンドウが表示された。
ピロンッ!
[自己治癒能力を発動します]
[回復しました]
'そうだ!俺にはこれがあった!'
実は最初に手に入れたスキルを思い出し、恐れずにガーゴイルに立ち向かっていく。
氷の矢、氷の防御、あらゆる氷魔法を使って空を飛んでいるガーゴイルを倒す。
ピロンッ!
[ガーゴイル撃破!]
レベル7から9にレベルアップしました。
「9?8じゃなくて?いや、それよりも体力も魔力も回復している。これなら、なんとかなるかも」
魔力が底をつきそうになる一歩手前でガーゴイルを倒すことができたが、今の状態では絶対ボスは倒せないとわかっていたのでレベルアップしたことで体力も魔力を回復し、助かる可能性が上がったことに安堵する。
「よし。いくか」
実は魔物?を地面から拾い片手で抱える。
もう片方にはナイフをもつ。
いつ魔物が襲ってきても戦えるように。
※※※
「どうみてもこれがボスの部屋に続く扉だよな……」
実は今まで現れた扉とは比べられないほど、大きて煌びやかな光を放つ扉に若干顔を引き攣らせながら見上げる。
「……いくか」
実は覚悟を決め、ゆっくり扉を開ける。
開いた隙間からそーっと中に入るが、中にいた魔物を見るなり慌てて部屋から出る。
「無理だ!ぜっーたい無理だ!」
部屋の中いた魔物はA級ダンジョンのボスとして恐れられるナーガだった。
いくら実が強くなったからといってA級ハンターが束になってようやく勝てる相手。
どう頑張っても勝ち目はない。
臣下は諦めて逃げることにする。
自分一人だったら、強くなるために戦ったかもしれない。
だけど今は一人じゃない。
欲のために見殺しにはできない。
実はここから離れようとしたそのとき、扉が勝手に開いた。
「え……?冗談だろ?」
扉が開いたことでナーガに認識された。
バチッ。
目が合う。
こうなった以上腹を括って戦うしかない。
魔物?をナーガから見えないところに隠してから部屋の中へと入る。
実はナイフを構え、攻撃に備える。
3秒にも満たない短い時間だったが、実にはとても長く感じた。
その静寂を掻き消すようにナーガが口から攻撃を放つ。
ドゴォォーンッ!
さっきまで実がいた場所から数十メートル先まで地面が抉られる。
ナーガが口を開けた瞬間、地面を蹴って避けてなかったら今の攻撃で間違いなく死んでいた。
実はナーガとの実力の差を感じ、冷や汗が流れる。
'これはあのときとは比べられないくらい本当にやばいな……'
実は裏切られ崖に落とされる前の死の恐怖よりも、今の状況の方が怖くて仕方なかった。
だが、それでも戦うしかない。
ナーガに認識された以上逃げるのは無理だ。
背中を向けた瞬間殺される。
倒すしか生き延びる手段はない。
そこで実は勝算を少しでも上げるために、ナーガの魔力切れを待つことにした。
逃げて、逃げて、逃げまくった。
たまに攻撃できる瞬間もあったが、今の実の実力では氷魔法を形成している間に攻撃される。
攻撃は諦めて逃げに専念する。
結構長い時間高速で逃げていたが実は全く疲れていなかった。
レベル9までレベルアップしたことが関係しているのかもしれない。
そう思った実は自分に少し自信がつき、氷魔法でナーガを攻撃する。
レベル7のときより速く形成できた。
レベルが上がったからか、慣れたからなのか、どちらのお陰かはわからないが「これなら勝てるかもしれない」とそう思ってしまう。
早く魔物?を助けなければという焦りと、強くなったことで勝ちを確信してしまったことで氷魔法を何発を連発してしまう。
普段ならこんなミス絶対にしないが、強さに酔いしれてしまった。
そのせいで、ナーガの策略に嵌ったと知らずに実は魔力と体力を結構消耗してしまう。
'あと少しでナーガを倒せる!'
そう思って最大魔力でナーガを攻撃しようとしたそのとき、ナーガが一瞬で距離を詰めてきた。
あまりにも一瞬の出来事に実は何もできずに強力な一撃を喰らってしまう。
ドゴンッ!
実が壁にぶつかり物凄い音がする。
実は壁にぶつかり、腕と背骨以外ほぼ全て骨折した。
内臓を激しく損傷したせいで口から血が大量に出る。
このままでは戦えない、早く自己治癒能力を発動させてくれと思っていたそのとき、いつもの音がした。
実は希望に満ちた目でウィンドウを見たが、内容を確認した瞬間絶望する。
ピロンッ!
[緊急事態発生!]
現魔力を全て使うと怪我を治すことはできます。ですが、そうするとナーガを倒す術をなくしてしまいます。これ以上の魔力消費はオススメしません。
それでも自己治癒能力を発動しますか?
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