第24話 呪いの歌


どれだけ歩いただろうか。


未だに魔物と出会わない。


このダンジョンは絶対何かおかしい。


そう確信したそのとき、急に壁に扉が現れた。


絶対罠だとわかるのに、なぜかこの扉を開けて中に入らなければミッションにクリアできないと思った。


実は怖かったが意を決して扉を開け中に入る。


そうして実の視界に入ったのは、3歳くらいの人間の身長の魔物?が大量の鎖に囚われている光景だった。


「なっ……!」


実はその光景をみて考えるより先に体が動き、ナイフで鎖を壊そうとする。


捕まっているのがもしかしたら凶悪な魔物なのかもしれない。


一瞬そう思ったが、すぐにそれはないとその考えを消した。


ただの勘だが、実は自分の直感を信じることにした。


なんとか魔物?を助け出すことに成功したが、血だらけで意識がなかった。


実は一刻も早く助けなければとダンジョンから出ようとするが、すぐに動くのをやめる。


ハンターの掟を思い出したからだ。


魔物は絶対に倒さなければならない。


この小さい生き物が魔物だった場合、実は助けようとした罪で人間ではなく魔物と判断され殺されてしまう。


顔と身長だけ見れば人間の子供だが、頭に生えている悪魔のツノみたいなのを見れば人間ではないのは確実だ。


'どうしたらいいんだ……?'


実は悩む。


助けたいと気持ちはあるが、魔物だった場合殺さないといけない。


魔物ではないとこれまでの経験と知識が訴えてくるが、どうしても一歩踏み出せない。


どうしたものかと悩んでいると、ものすごい大きな音がした。


「急になに?いや、まじでなに?」


実は無意識に魔物?を守るように抱える。


「なんか、ものすごーく嫌な予感がするんだけど……」


そう言ったのと同時に、また大きな音がし、今度は地面が揺れはじめた。


「ちょっ!……まっ!……はぁ!?」


実は地面の揺れで膝をつくもなんとか耐えようと足に力を入れ踏ん張るが、少し離れたところの地面が崩れていくのが見え、慌てて立ち上がり転けそうになりながら必死に走る。


「まじで!なんなんだよ!このダンジョン!」


下に落ちたら今度こそ死ぬかもしれないと思い必死に走る。


どれくらいの時間を走ったか、ようやく地面の揺れがないところまできた。


「……死ぬかと思った」


近くに罠がないことを確認してから地面に座り込む。


息が整うと、魔物?は大丈夫かと確認する。


「はぁ……はぁ……」


さっきまでと違い魔物?はとても苦しそうだ。


このままでは死ぬかもしれない。


例え協会にバレたとしても助けたいと思った。


だが、いつもと違い今日は荷物を持ってきてない。


応急処置ができるものを何一つ持ってきてない。


助けたくても助けられない。


「クソッ!俺に力さえあれば……」


実は自分の弱さを恥じる。


ウィンドウのお陰で前よりは強くなったが、このダンジョンからでられるほど強くはない。


「大丈夫だ。君に何があったのかはわからないけど、必ず助けるから心配しないで」


実は魔物?抱え直し、早くミッションをクリアして家に帰ることに決めた。


ミッションのクリア条件が何かは知らないがボスさえ倒せば終わるはずだと考え、ボスがいる部屋を探す。


探しはじめて数十分経過した。


それらしい部屋は何個かあったがどれも罠だけで魔物すらいなかった。


さすがにイライラしてきた実は声の主に文句を言う言おうとした瞬間、足元が崩れた。


「え……?」


間抜けな声がでる。


「ぎゃあああーっ!」


理解したときには遅く既に足元の地面は全てなくなっていた。


重力に従い実は成す術なく下へと落ちていく。


ドンッ!


「イテッ!」


思いっきりお尻をぶつけ涙目になる。


「なんなんだよ!いったい!」


実はお尻をさすりながら立ち上がり、上を見上げる。


結構高いところから落ちたなと、さっきまでいた場所の穴が空いたところを見る。


「……また水か。でも今度は湖か?いや、池か?」


目線を上から下に下げると目の前が池だった。


「……またもや嫌な予感がする」


そう言った瞬間、とても美しい歌声が聴こえた。


実はすぐにセイレーンだと気づいた。


このままでは、その美しい歌声に惑わされ水の中に引き摺り込まれ殺されてしまう。


実は苦渋の選択の末、決断する。



実は罠を見抜く以外にも一つだけ得意なことがある。


それは歌声で魔物の攻撃をやめさせること。


スキルもないのにそんなすごい技があるなら毎回歌ってくれ、と最初はよく言われた。


だが、普段使わないのにはそれなりの理由がある。


一つ、あまりにも力の差があるものには通用しない。


魔力で耳をガードされたらお終いだからだ。


もう一つ、これが一番の理由。


実の歌は壊滅的すぎて耳が腐るなんてレベルではない。


5秒聴いただけで耳から血が吹き出るくらい危険なレベルだ。


歌と言うより呪いだ。


だから普段は使えない。


今日は一人だし問題ない。


ただ、意識は失っているが腕の中に魔物?がいる。


この子だけが心配だった。


でも、まぁセイレーンに喰われるよりはマシだろと思い歌い始める。


歌い始めて5秒経過すると……


セイレーンの耳から勢いよく血が吹き出し、狂ったように叫ぶ。


このままでは頭がおかしくなる。


早くここから離れなければ。


そう思ったセイレーン達は実を喰らうことを諦め、水の中へと入っていく。


実はそのことに気づかず最後まで歌う。


いつもは最後まで歌うことができないので、気分が良かった。


セイレーンはどうなったかと確認すると、さっきまでいたところにおらず、潜ったのだなと思った。


'なんか複雑なんだけど……'


最後まで気持ちよく歌えたのは嬉しいが、自分の歌でセイレーン達が消えたと思うとなんとも言えない気持ちになる。


喜ぶべきか、怒るべきか、そう悩んでいたそのときウィンドウが表示されるときの音が鳴った。



ピロンッ!



[セイレーン撃破!]


おめでとうございます!呪いの歌でセイレーンを撃破しました。


[報酬]


呪いの歌のレベルがアップしました。



セイレーン達は水の中にいても聴力がいいので実の歌声が聴こえた。


そのせいで上手く息ができずに溺死した。


そんなことも知らない実はウィンドウの内容に腹を立てた。


「……何が呪いの歌だーっ!俺はそんな歌!歌った覚えはないぞ!このクソヤロー!画面の向こうから俺を馬鹿にしてるのはわかってるんだぞ!」


実の歌を聞いた人は皆、口を揃えてこう言った。


「歌で魔物を倒せるなんてすごい」と。


だが、続けて言った言葉は実の心を酷く傷つけた。


「あ、でも次歌うときは俺がいないときで頼むね。まぁ、そんなことにはならないと思うけど。まだ、死にたくないからさ」


打ち上げでカラオケに行くとなったら、実は誘われないか歌うことは許されなかった。


呪いの歌と呼ばれ、魔物を倒せる歌声となれば、そんな扱いを受けても仕方ない。


みんなの役に立つんだから自分さえ我慢すればいい。


そう思っていたのに、声の主に馬鹿にされたと思うとどうしても我慢できずに、姿も見えない、どこにいるかもわからない相手に向かって叫ぶ。



「誰が馬鹿にしているだと……!」


声の主は指に力をいれ肘掛けを破壊する。


「馬鹿になどするか!!耳が破壊されるかと思ったわ!ふざけるな!このヤロー!文句を言いたいのはこっちだ!馬鹿者め!」


画面の向こう側で背を向けている実に向かって叫ぶ。


数分前。


セイレーンの場所まで誘導された実がどうするのか、このダンジョンにいる臣下がどうするのか気になってにやけながら眺めていたが、実が歌い始めてすぐ頭がおかしくなりそうになった。


慌てて通信を一旦きり、落ち着くまで椅子に座って頭を抱えた。


大量の汗が足元に落ちていくのを眺めながら、今のは一体なんだったんだと恐怖に包まれた。


ようやく平静さを取り戻し、セイレーンを倒した功績で報酬を与えたのに文句を言われ腹が立った。


こっちは耳が破壊されそうになり、気がおかしくなるほどの苦痛を味あわされたというのに!


むかつきすぎて何かしてやろうかと思ったが、実の足元で魂が抜けている臣下を見て「あれに比べたらマシか……」とそう思い、広い心で許すことにした。



その頃の臣下は、一番近いところで実の歌を聴いてしまったので耳へのダメージが大きい。


実が歌い始めてすぐに「これは呪いの歌だ」と気づき魔力で耳をガードするも間に合わず、今度はフリではなく本当に気を失ってしまう。

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