第26話 クエスト達成


実は焦る。


早く決めなければと。


ナーガがゆっくりと近づいてくるのが見える。


この状態じゃあ、例え魔力があったとしてもナーガに当たる可能性は限りなく低い。


ナーガは立ち止まってくれない限り確実に当てられる保証はない。


だが、魔力を失って自己治癒能力を使って体を回復させても魔力は回復しない。


魔力がなければどれだけナーガの攻撃を避けたとしても、先に体力の限界がくるのは自分だとわかっている。


どっちを選んでも大して変わらない。


それでも選ばなければならない。


'クソッ!一か八かだ!'


実は'いいえ'の方のボタンを押す。


ナーガの体は硬く今の実の攻撃では貫くことはできない。


だから口の中に氷の矢を放てば倒せるのではないかとその考えに賭けることにした。


ゆっくりと近づいてくる。


ナーガはニヤッと笑い槍を振り下ろそうとする。


実は「今だ」と思い氷の矢を放とうする。


だが、実の攻撃よりもナーガの攻撃の方が早い。


死ぬ。


実はそう直感した。


せめて相打ちで終わらしてやる!


魔物?を殺させないためにも全魔力を込める。


'駄目だ。間に合わない!'


実が氷の矢を放つ前に攻撃され死ぬ、そう覚悟したそのとき、ナーガの動きが止まった。


扉の方を見た後、何かに怯えるように後ずさっていく。


誰かいるのか?


そう思った実は扉を方を見るも誰もいない。


気のせいかとも思ったが、ナーガがこれほど怯えるとなる理由が何かあると思った。


だが、今の実にはそれはどうでも良かった。


こんな千載一遇のチャンスなどこの先絶対ない。


実はナーガの口にありったけの魔力をぶち込んだ氷の矢を放つ。


内からナーガの首を貫き吹き飛ばせるよう、今までと違い細く強力な矢として。


ボトッ!


ナーガは実よりも遥か強力な存在に恐れをなし、戦意が喪失していたので成す術なくやられ、氷の矢で首が吹き飛び地面に落ちた。


「やった……これで助かった」


実はナーガの首が吹き飛ぶのを見ると魔力ぎれと体力の限界で、そのまま意識を飛ばす。



ピロンッ!



[クエスト達成!]


迷宮ダンジョン攻略!



[報酬]


臣下を手に入れました。


瀕死のボス、ナーガを倒しました報酬をプラスされます。

レベル9から20にレベルアップします。


ナーガの武器 槍


ナーガの結晶 1個



実は気を失っているのでウィンドウの内容を確認できなかった。


10秒経つとウィンドウの画面が切り替わる。



ピロンッ!



[クエスト終了につき、転移される前の場所に戻ります。5秒後に転移魔法が発動します。]


5、4……1、0


画面に0が表示されると実を中心に魔法陣が発動し、そのまま実を家へと移動させる。


ドンッ!


実は台所の床に叩き落とされる。


意識を失っているせいか、この程度では目を覚まさなかった。



ピロンッ!



[自己治癒能力を発動します]


[回復しました]



実はレベルアップしたことで魔力が戻ったおかげで意識がなくてもスキルを発動させ状態を元に戻した。


シュッ。


「何故こんなところで寝ているのだ?」


傷だらけだった魔物?は傷一つない状態で実の前に現れる。


「全くしょうがないお方だな」


魔物?は呆れた顔をするが、瞳はとても優しい。


魔物?は小さい姿から本来の姿へと戻り、実を横抱きにしてベットまで運ぶ。


実をベットに寝かせると、呼び出しを受けた。


『ナズナ。俺と話すことがあるだろ?』


「……」


『おい!聞こえてるだろ!無視するな!本来ならそいつは報酬を受け取れなかった。わかってるだろ。なら、さっさとこい』


「……」


ナズナは何も言わなかったが声の主言っていることが正しいとわかっていたので、声の主がいるダンジョンまで転移魔法で移動する。


『そんな顔することないだろ?俺が何かしたか?』


不機嫌マックスのナズナに呆れて鼻で笑う。


「……用はなんだ?」


『何故あんなことをしたのか知りたくてな。何故あいつを助けたのだ?』


「彼は俺を助けてくれた。だから、その礼をしたまでだ」


『今までの人間も助けてくれていたはずだが?お前は彼らを嫌っていた。何故今回は違う?ベットにまで運ぶなど昔のお前ならあり得ないはずだ。そうだろ?誤魔化さずに答えろ』


「何故そこまで聞きたがる。らしくないな」


『質問を質問で返すな。俺が質問している』


声の主はナズナがなかなか答えようとしないのが面白くて揶揄ってしまう。


「……はぁ。わかった。言えばいいんだろ」


このまま黙っていたら実のところには帰れないと判断し、諦めて話すことにした。


「あの姿の俺を助けてくれたのは彼だけだ。同じ状況で王候補達を試したときは彼以外は全員無視をした。助けようとしたものなど誰一人いなかった。魔物の姿だから、その対応こそ正しいのかもしれんがな。だが、彼はそうせず助けてくれた」


必死で助けようとしてくれていたあのときの実を思い出し、つい笑みが溢れる。


「王候補達が俺を助けたのは俺が臣下として仕えることになったからだ。俺が死ねば、俺の持っているスキルは使えなくなるかな。助けたのは彼とは違い善意ではない。……クエストをクリアした以上、そこに俺の意志はいらないからな」


ナズナは実の前の候補達のことは主君として認めていなかった。


嫌々ながら仕えていただけ。


他の臣下達がどう思っていたかは知らないが。


『ナズナ。そんなにあの人間が気に入っていたのか。だから、ナーガを弱らせた上で実のレベルアップのために力を貸したのか』


ナズナの言葉を聞いてようやく納得する。


実を主君として認めたのは気づいていたが、ここまでは思わなかった。


だが、ナーガの件に関してはやり過ぎだ。


レベルアップに関しては声の主は干渉できないから、実自身に強くなってもらわなければならないとと思っていたのに、まさかの臣下が臣下になる前に手助けするとは思わず頭が痛くなる。


結果的に問題はなかったが、これでペナルティでも発生したら溜まったもんじゃない。


実のような人間を見つけることは難しい。


絶対に失いたくはない。


これは勘だが、実は間違いなく史上最強の王になる。


そう思うからこそ、臣下を手に入れるときのクエストでは変なことをして欲しくなかった。


このクエストのときだけは声の主は手助けができない。


だからこそ、勝手な真似をしたナズナを許せなかった。


それと同時に実を助けてくれたことに感謝した。


あのままでは確実に実は殺されていた。


正直あの場にいたら同じことをしていたと声の主は自分でも思っていたが、捻くれた性格をしているのでお礼を言うことができないどころか、小言をを言ってしまっていた。


「そうだ。俺は彼に助けてもらったときに、彼を主君として認めた。本当はクエストクリアするまで見守るつもりだったが、あの状況では仕方なかった。決まりを破ったことは悪いと思ってる。だが、俺はもし過去に戻ったとしても同じことをする」


『……』


長い沈黙が二人の間に流れる。


『わかった。もう帰っていい。これ以上聞くこともないしな』


聞きたかったことは聞けた。


もう用はないから帰れと言ったが、ナズナは動こうとしない。


あれだけ早く帰りたそうにしていたのに、急にどうしたんだ?と嫌な予感がする。


「なら、次は俺の質問に答えろ?」


『質問?』


一体何を聞きたいのだとうんざりする。


「さっき言った。何故そこまで聞きたがる、と。俺は答えた。今度はお前が答える番だ。キキョウ」


ナズナは真っ直ぐキキョウを見る。

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