第21話 レベル7
ミッションをクリアして一週間が経った。
ウィンドウも一週間前を最後に表示されなくなった。
検査も終わりハンターとしての活動をしようと協会の出す募集内容を確認したが、実が参加できるものは何一つなかった。
何もすることがないので、久しぶりに町を歩くことにした。
河原で1時間以上、ボーッと川を眺めていると嫌な音が聞こえた。
ピロンッ!
[クエスト発生!]
ゲートが発生しました。
ボスを倒しゲートを閉じてください。
10秒後に転送します。
よろしければ「はい」をダメでしたら「いいえ」を押してください。
はい/いいえ
「は?ちょっ、待って!武器……ない」
実は急いで「いいえ」のボタンを押す。
だがなぜか「いいえ」の画面を押すのに時間が止まらない。
画面もそのまま。
まさか……
実は嫌な予感がした。
この画面は「はい」しか押せないのかもしれない。
その予想は当たっていて、よく見ると「いいえ」の文字の方は薄くなっていて触っても反応しないようになっていた。
「まて、まて、まて、まてーっ!本当にまって!俺いま武器持ってない。そんな状態でゲートに入ったら死ぬんだけど!」
叫びながら「いいえ」の方を連打するも班のは全くなく、残り時間が3秒をきった。
「……クソったれー!いつかぜってぇーぶん殴ってやるからなー!」
実はここにはいない声の主に向かって怒りを叫ぶ。
叫び終わると同時に実はその場から姿を消しゲートへと転送される。
「……おい!ちょっと待て!」
斑目が叫ぶ。
「なんだ急に。負けを認めるか?」
斑目の慌てぶりを不審に思うも負けを認めたくなくてそう言う。
「そんなことはどうでもいい!それより花王ハンターはどこに行った?」
監視していた実が一瞬目を離した隙に消えた。
「は?何言ってんだ。そこにいただろうが……」
さっきまでいた場所に目を向けると実の姿はどこにもなかった。
「俺はこっちを探す!お前はあっちを探せ!」
斑目はそう言うと地面を蹴って走り出す。
若桜は何がどうなっているのか理解できなかった。
若桜達は朝霧の命を受けた日からずっと実を監視していた。
最初は気を引きしめて任務にあたっていたが、同じ日常を繰り返すだけの実の生活に少し油断した。
その油断のせいで実を見失い、どうしてそうなったのかも見逃してしまった。
早く見つけなければ!
そう思い周囲を探すがどこにも実の姿は見つからない。
喧嘩していたからといって、一瞬目を離した隙にその場から消えるなどあり得ない。
まるで神隠しにあったかと疑うくらい音もなく消えた。
ドンッ!
「イッテェー!」
実は高いところから地面に落ちたせいで強くお尻を打つ。
またかよ!
心の中で悪態をつく。
「……何なんだよ急に。てか、クエストって何だよ……嘘だろ、おい」
実はお尻をさすりながら立ち上がると、確認できるだけで100体以上のゴブリンが目に入り言葉を失う。
ゴブリン達は実を見るや否や不気味な笑みを浮かべ襲いかかる。
実は間一髪で最初の攻撃を避けるも、すぐに他のゴブリン達に攻撃されてしまう。
怪我を負うもすぐに自己治癒能力が発動され回復する。
ピロンッ!
[自己治癒能力を発動します]
[回復しました]
「まずいぞ……せめて武器があれば……」
実はゴブリンの攻撃から何とか逃げ洞窟に隠れる。
いくら自己治癒能力があるからといって、このままではいずれ殺される。
どうにかしなければと思うも武器がない以上、ゴブリン達を倒すのは無理だ。
'せめて、攻撃系のスキルがあれば……ん?あれ……?'
実は思い出した。
C級ハンターの氷魔法を手に入れたことを!
「……よし。これなら何とかなるかもしれない」
氷魔法が使えるか念の為確認すると、初めてなのに上手く氷の塊を作り出すことができた。
後は実が力を使い果たす前にゴブリン達を倒せるかにかかっている。
実は洞窟からゴブリン達の様子を伺う。
今確認できている数は13体。
もう少し少ない方が初めて攻撃魔法を使うには良かったが、文句を言っている暇はない。
洞窟を調べられるのも時間の問題。
実は腹を括り氷魔法をゴブリン達に使う。
氷の矢を大量に作りゴブリン達に向けて放つ。
ゴブリン達は反応することもできずにやられた。
「よしっ!」
実はガッツポーズをする。
生まれて初めてこんなに簡単にゴブリンを倒せた。
いつもは一体を倒すのに5分もかかるというのに。
C級レベルの魔法となるとこうも簡単に倒せるのかと思うと、少しだけ悲しくなる。
どれだけ頑張っても、あの頃の自分が強くなるのは無理だったのだと思い知らされて。
キィエエッ!
実がボーッとしているといつの間にかゴブリン達が集まっていた。
さっきの5倍以上の数がいるが、何故か負ける気がしなかった。
ゴブリン達の攻撃で怪我をするもすぐに治療される。
実は怪我を恐れずゴブリン達に立ち向かう。
氷の攻撃をする。
初めて使うのにどうすればいいか知っていたかのように自然に使える。
氷でゴブリンの攻撃を防いだり、地面を凍らせ動けなくしたあとに氷の矢を放ち倒したりした。
ゴブリンと戦い始めて30分くらいで全員倒した。
「あとはボスだけか……」
ゴブリンのボスとなれば何となく予想はつく。
ボスを倒さなければゲートは閉じない。
実はボスを探すため森の中に入る。
警戒を怠らず、いつ襲われてもいいように両手に冷気を集める。
どれくらい時間が経っただろうか。
このままでは先に精神がやられる。
そう思ったそのときだった!
物凄い勢いで何かが実に襲いかかる。
実は急いで氷の盾を作るが間に合わず、左横腹に何かがぶつかる。
ぶつかった、と認識したときには遅く実は何十メートルも先まで吹っ飛ばされた。
ドーンッ!
岩にぶつかる。
[自己治癒能力を発動します]
[回復しました]
すぐにスキルが発動されたお陰で痛みは消えたが、実には何が起きたかわからなかった。
気づいたときには攻撃されていた。
まさかこれほど強いとは予想していなかった。
「……オーク」
このゲートのボス、オークがもう目の前に現れる。
オークは金棒みたいな木の棒を振り上げ実に襲いかかる。
今度は姿が見えているので攻撃を交わすことができた。
次は自分の番だ!
そういうかのように実はオークに氷の矢を放つ。
だが、オークはその攻撃を木の棒で叩き落とす。
少しはオークの体に傷をつけるも致命傷とまではいかない。
お互いに同じ攻撃を何度も繰り返す。
だが、それも長くは続かない。
実の氷の矢の威力が落ちてきたからだ。
すぐに魔力がもう残り僅かしかないのだと気づく。
'……一か八かだがやるしかない!'
このままでは魔力切れで氷魔法が使えなくなる。
賭けになるがオークを倒せる方法はこれしかないので覚悟を決める。
実は叫びながらオークに突進する。
「うおおおーっ!」
オークは実が木の棒の当たる攻撃範囲以内に入ったと判断すると思いっきり振り殺そうとする。
横に振るとよんでいた実ははスライディングするように避けオークの股を潜り後ろを取る。
オークは慌てて後ろに木の棒を振る。
オークは振った後に顔を後ろに向けた。
何かにぶつかった感触はなかったので、まだ立っていないだけだろと思い急いで体を反転し攻撃に備える。
だが、後ろには実はいなかった。
消えた。
オークはそう思い一瞬の隙が生まれた。
実はそれを見逃さず、背中に手を置き氷魔法を凝縮し心臓を突き刺す。
「グハッ!」
オークが口から大量の血を吐く。
なぜそっちにいるだ?
オークはそんな顔をして実をみる。
答えは簡単だ。
実はオークが後ろに木の棒を振った瞬間に股の下をもう一度潜って攻撃を交わした。
慌てていたオークはそのことに気づかなかった。
ただそれだけのことだが、実を見失ったことで勝敗はついた。
「勝ったのか……?」
オークが地面に倒れる。
実はその光景が信じられず固まる。
ゴブリンを倒すのも一苦労だったのに今日はオークを倒した。
自分の頬を何度も叩き夢でないことを確認する。
それでも信じられずつねろうとしたとき、最も現実的ではないものが表示される。
ピロンッ!
[クエスト達成!]
おめでとうございます!
クエストを達成しました!
レベルアップします!
レベル7になりました!
[報酬]
ゴブリンの結晶 138個
オークの結晶 1個
オークの武器 木の金棒
「うわぁ……信じられねー」
ウィンドウに書かれてある内容が少し前までなら絶対に有り得なかった。
やっぱり夢だ。
そう思い思いっきりつねるも景色は変わらない。
「……夢じゃない」
ただ痛い思いをしただけになった。
実は頬をさすりながらレベルアップしたという文字を見て、どうレベルアップしたのか疑問に思う。
「レベル7ってどれくらいの強さなんだ?」
基準がわからず喜んでいいのか反応に困る。
そもそも最大値が100なのかそれ以上なのかがわからない以上判断できない。
実はウィンドウを凝視していると、急に内容が変わる。
ピロンッ!
[ボスを倒したのでゲートが閉じます。転移魔法をします。落下にご注意ください!]
「……は?」
読み終わったのと同時に地面に穴が空く。
抵抗する暇もなく実は穴に落ちていく。
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