第20話 報告


実は報酬を受け取ると早速スキルを使う。


すると実の体が黄金の光に覆われる。


上手くスキルが使われている証拠だ。


実は倉増のいる場所に大量の花を降らせる。


天につくまでの間、嫌なことを思い出さないように笑顔でいられるようにとスキルを発動し続けた。



どれくらい時間がたっただろうか。


太陽が顔を出し始めた頃。


力を使い果たした実はその場に倒れ気絶する。


実は気絶する前、最近よく耳にする音が聞こえた。


確認しなければ。


そう思うのに瞼が重く、目を開けられない。


指一本動かすことができないくらい体が重い。


'もう無理だ……'


実は後で確認すればいいと勝手に判断し、意識を飛ばす。




ピロンッ!


[クエスト発生!]


一週間後、ゲートが発生します。


そのゲートを一人で閉じてください。






「……ん……体が痛い」


起きあがろうとするも全身に激痛が走り動けない。


まるで金縛にあったかのように。


「……それにしても、どうやって家まで帰ってきたんだ?」


実がベットの上から起きあがろうと格闘しているとウィンドウが表示された。



ピロンッ!



[自己治癒能力を発動します]


[回復しました]



ウィンドウが表示された音を聞いた瞬間「またかっ!」と悲鳴に近い声を上げる。


「今回はミッションじゃないのか……」


実は内容を確認するとホッとし体の力が抜けていく。


「おおっ!体が楽になった。これはすごいな」


スキルを手に入れる前なら、この痛みに耐えながら過ごしていた。


'それにしても便利なスキルだな'


自己治癒能力に感心しながら、どこも痛みがないかを確認するように実は部屋の中を走り回る。


「……とりあえず風呂にでも入るか」


どうやって家に帰ってきたかは覚えていないが、服はそのままだし、どことなく臭うので風呂に入ってないのは明白だ。


時計を見ると短い針が2をさしていた。


「昼に風呂に入るのは初めてだな」


実は少し浮かれながら風呂に入る。


このときの実は忘れていた。


今日は協会に行かなければならないことを。


思い出したときは目を覚ましてから1時間後で、実は近所迷惑になる程の悲鳴を上げた。






「二人ともどうした?一体何があったのだ?」


若桜と斑目が報告しにきたのはいいが顔が真っ青で心配になる。


ハンター協会でも上位の二人がこんな顔するとなると何かあったのは間違いない。


朝霧は二人の言葉をまつ間、緊張して無意識に座っている椅子の取っ手を強く握りしめていた。


「それが、私自身にもよく理解できていなくて……」


若桜がどう説明するべきわからないと言うと隣にいた斑目もゆっくり頷きその言葉に同意する。


「構わん。見たことをありのまま話せばいい」


朝霧の言葉に二人は顔を見合わせお互いに頷くと見た出来事をありのまま話す。




「……それは真か?」


二人の話した内容が信じられず尋ねてしまう。


罰を下して欲しいと頼んだ一人の元に行ったのは理解できる。


「あと一人」その人物の元に行くのは予想していた。


何かしようとしたが、婚約破棄になったため罰は受けたと思い何もせずにその場を離れたのもわかる。


だが、そのあとの話がどうしても信じられない。


そんなお伽話みたいなことをするハンターがこの世にいるのか?


どうしてもそう思ってしまう。


二人が嘘をついいないことはわかる。


だが、そんなことを自分を含めた世界中のハンターは絶対にやらない。


そう確信がもてるから二人の話を信じることができなかった。


「はい。この話に嘘偽りは一つもございません。阿修羅の名に誓ってありません」


「私もです。阿修羅の名に誓います」


阿修羅。


それはハンター協会の一部のみ知っている朝霧の異名だ。


そしてその名を口に出し誓うということは己の命を賭けて真実であると証明する行為だ。


もし、それが嘘だった場合直ちに処刑される。


それほどの重い言葉のため嘘を吐く者など誰もいない。


そもそも、この異名を知っている者は全員朝霧を尊敬しているので嘘を吐くことなどあり得ない。


そのことを誰よりも知っているため朝霧は二人の話を信じることにした。


「……そうか。私もその瞬間を見たかったな……」




二人は倉増の霊を見た。


見えたのはほんの一瞬ですぐ消えたが、多分あれは思い残すことがなくなり成仏した瞬間だったのだろう。


そのあとすぐ実の体が黄金の光に包まれた。


二人は金縛りにあったみたいに動けなくなった。


それは太陽が顔を出すまで続いた。


実が倒れようやく体が動くようになり慌てて傍に駆け寄った。


実の容態を確認して、ただ眠っているだけだとわかったときは体の力が抜けその場に座り込んだ。


二人は実の家を協会に登録してある記録を見て家まで連れて帰りベットに寝かした。



「花王ハンターは今日は来れないだろうな。適当な理由を作って明日来てくれと連絡をしておいてくれ」


二人からの報告を聞き、実のことを考えそう指示を出す。


「わかりました。すぐに連絡します」


若桜がそう返事をすると朝霧はこう言った。


「私は部下達に明日になったことを伝えてきます」


「ああ。頼むよ」


報告も終わり話すこともなくなったので、二人は部屋から出ていく。


「死んだハンターの霊を成仏するハンターなど世界中探しても花王ハンターだけだろ」


奇妙なことをする実を面白いと思い、ついぷっと笑ってしまう。


「君は一体何者なんだ?君に何が起こっているんだ?」


ダンジョンから脱出して実に何かあったのは間違いない。


何か特別な力が与えられたのかもしれない。


何一つ疑問や問題が解消されたわけでもないのに、不思議と不安はなかった。


寧ろ、期待に近い感情が芽生えた。


近い将来実は間違いなく大物になる!


これは長年ハンターとして活躍していた経験とハンター協会として沢山の人と会った経験からくる確信だった。





「はぁー、さっぱりした」


タオルで髪を拭きながら冷蔵庫の中を確認する。


風呂に入っているときからお腹がずっと鳴ってうるさかった。


昨日の昼から何も食べていないのだ。


それも仕方ない。


「……って、何もねぇーじゃん。嘘だろ」


今すぐ腹に何かを入れたいのに冷蔵庫の中は空っぽ。


あるのはマヨネーズとポン酢と味噌だけ。


これでは何も作れない。


「はぁ……」


食材を買いにスーパーに行こうと冷蔵庫を閉め財布とスマホを持つ。


そのときチラッとスマホの画面にメールの表示がされていることに気づく。


誰からか確認しようとスマホを顔に近づけ名前を確認すると悲鳴が出る。


「しまった!今日、協会に行く約束してたんだ!」


今すぐ電話で謝ろうと画面を開こうとするが、慌ててしまい間違えてメールを開いてしまう。



[若桜です。すみませんが、至急案件が入り今日は検査ができなくなりました。こちらの都合で申し訳ありませんが、明日来てもらってもいいでしょうか]



「……明日……よかった」


実は力が抜けその場に座り込む。


やらかした。


そう思い急いで協会に行き謝罪をしようと考えていたが、若桜のメールを見て安堵する。


「……了解です。明日行きます……っと、これでよし」


メールは4時間前に送られてきていた。


明日返信が送られたことの謝罪をしよう、と心に決めスーパーへと向かう。



次の日、実は協会に朝早く訪れた。


若桜に会うと遅くなったことの謝罪をし、次からは気をつけると言った。


実の体は呪いを解くための希望なのだ。


本来なら職業のことを話すべきなのだろうが、なぜかわからないが言えば殺されるような気がした。


職業が関係しているならどけだけ協力しても無駄なのかもしれないが、もしかしたら何か見つかるかもしれないという希望を捨てきれず協力した。



その日、実は一日中協会で検査をし続けたせいで疲れたので家に着いた瞬間、玄関で寝てしまった。

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