第22話 斑目蓮


「ちょ、まて!まってくれー!」


急に足場がなくなり怖くなる。


視界も真っ暗になりどこに落とされるのかわからない。


あの日のダンジョンに比べたら怖くはないが、嫌なものは嫌だ。


心の中で声の主に向かって文句を言っていると急に視界が明るくなる。


眩しくて目を閉じ、ゆっくりと目を開けるとゲートから出ていた。


ただ無事に出てこれたのはいいのだが、物凄く嫌な予感がする。


足が地面についている感覚がない。


実はゆっくりと下を向く。


'嘘だろ……!'


自分が今どこにいるのかを知り絶望する。


実は深さ5メートルほどある川のけっこう上の方にいた。


だんだん重力に引っ張られ実の体は下に落ちていく。


このままでは実は川へと落ちる。


どうにかしてそれを回避したいが、魔力切れで魔法が使えない。


自己治癒能力は体の状態を回復することはできても魔力を回復することはできない。


それに気づいた実はここに落とした転移魔法にキレるのではなく声の主に向かって文句を言う。


「あのヤロー!絶対許さないからなー!」


最後まで言い終わらない内に下へと落ちていく。



ドボーンッ!



実は勢いよく川に落ちたた。


そのせいで口と鼻の中に水が入り苦しい。


急いで上に上がり顔を出す。


冷たい。早く上がろう。


実は川から出ようと泳ぎはじめるが急に体が上に引っ張られ川から出る。


そのまま上へと引っ張られ、橋のある高さまで上がる。


「何が起きたてるんだ?」


実は自分に何が起きているのかわからず思考が停止する。


実が固まっている間に橋に降ろされた。


「大丈夫ですか?花王ハンター」


実は名前を呼ばれ「え?」と間抜けな声を出しながら、上を向く。


そこにいたのは先日会った若桜と初めて会う若桜とよく似た格好をしている男がいた。


「どうして二人がここに?」


恥ずかしいところを見られて顔を赤くする。


実の問いに二人は何と答えるべきか悩み顔を見合わせる。


二人がここにいるのは実を監視しするためだったが、当の本人が消え探している最中だった。


3時間も経ち流石にまずいと思い始めた頃、物凄い音が聞こえここにきた。


二人は別々のところにいた音のお陰でこの橋で再開した。


「何だったんだ、今のは?」と二人は周囲を見渡すと下に実がいるのを見つける。


見つけたことで安堵し実が困っているというのに少しの間休んでいた。


すぐに我に返り実を助けようと若桜は橋から飛び降り川に飛び込もうとしたが、それより先に斑目が自身のスキルの力で実を助け出し、自分達のいるところまで連れてきた。


監視対象である実を助けるためとはいえ姿を現すのはしてはいけない行為。


もし、また二人一緒にいるところを見られでもしたら怪しまれる可能性がある。


本当のことを言うわけにもいかないので若桜は心の中で実に謝罪をしながら嘘を吐く。


「実は仕事を終え協会に帰る途中で物凄い大きな音が聞こえこちらに向かったのです。周囲を確認していると花王ハンターが川の中にいたので驚きました。花王ハンターはなぜ川の中にいたんですか?」


急に実が消えたことも聞きたかったが、それを聞けば監視していたことがバレてしまうので、川にいた理由を聞いて何があったのか知ろうとする。


「……あー、その、お恥ずかしい話なんですが、必要な物を買おうとリストを作ったんですが風に飛ばされてしまい取ろうと手を伸ばしたら、そのまま川に落ちてしまって……」


実は本当のことを言おうとしたが、いきなり表示されたウィンドウに誤魔化すよう指示を出され適当にそれぽっい話しを作る。


'何でこんな指示を?'


不審に思うもウィンドウが表示されるということは何かのミッションなのかと思い指示に従う。


「なるほど。大変な目に遭いましたね。そのままでは風邪をひくでしょう。家までお送りします」


普通ならあり得ない話しだと思うのに、実だとなぜかあり得ると思ってしまう。


だが急に消えた人間が、今度は急に現れた。


そのことふまえると実が嘘をついているのは間違いがないが、これ以上詮索しても無駄だと判断し家まで送ると言う。


「いえ、そんな気にしないでください。それにこの格好では車が濡れてしまいます。今日は天気も良くて暖かいので大丈夫ですよ」


実は両手を横に振りながら申し訳ないから大丈夫だと断る。


この間乗った車が高級だったのを思い出す。


そんな車を汚すなんて考えられない。


若桜なら大丈夫だろうが、他の協会の人からお金を要求でもされたら困る。


「私が大丈夫ではないんです。それに、私達はもう知り合いです。そんな人を放っておくなんてできません。花王ハンターは私がそんな薄情な人間に見えますか?」


若桜の質問の仕方に実はずるいと思う。


そんな言い方をされれば断ることなどできない。


「見えません」


「それは良かったです。では、行きましょうか」


「はい……」


実は諦めて二人の後についていく。


少し離れた場所に車が停まってあり、促されるように後部座席に座る。


「そういえば、斑目のことを紹介していませんでしたね」


車に乗ってすぐ若桜がそう言う。


「こちらは、ハンター協会隠密課課長の……」


「斑目蓮です。よろしくお願いします」


若桜が話しているのを遮り自分で名を名乗る。


「花王実です。こちらこそよろしくお願いします」


課長クラスのハンターと関わることなんてないと思うが、斑目がよろしくと言うので実も礼儀として言う。


実は課長クラスの二人と同じ空間にいれることが信じられなくて、無意識に頬をつねった。


'痛い'


夢じゃないことに喜ぶ。


圧倒的強者のオーラを放つ二人に同じハンターとして、男として、尊敬の念を抱く。


「花王ハンター。あれから体は大丈夫ですか?」


呪いの後遺症はないのかを尋ねる。


「はい。今のところは何ともないです」


むしろ絶好調でパワーアップしているとは言えず、誤魔化すように答える。


「そうですか。もし、何かあった場合にはすぐに連絡してください。時間帯など気にしなくていいので」


「わかりました。お気遣い感謝します」


若桜はパッと見怖いが、実は出会ってからずっと些細なことでも気遣ってもらっているので優しい人だなと思っている。


そんな優しい人に理由があるとはいえ、何度も嘘を吐く羽目になり心が苦しくなる。

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