第14話 倉増菜々子 2


『ありがとうございます。お陰で少しスッキリしました』


倉増は泣いたからか憎しみの感情が少し薄れたからか笑ってお礼を言うことができた。


「それならよかったです」


実は倉増の雰囲気がさっきより明るくなり、少し元気になったことに安心する。


倉増が落ち着いたので五十嵐達の一番大切なものは何か一緒に考えようと言おうとしたら、音が鳴りウィンドウが表示された。



ピロンッ!



[復讐達成条件:彼らの最も大切なものを奪え!]


達成人数:0/5人




'言われなくてもそうするつもりだ。出るのが遅い'


ここにはいない声の主に向かって心の中で文句を言う。


実が文句を言ったのが声の主に伝わったのかまたウィンドウが表示される。



ピロンッ!



[制限時間]


残り:28:57:23




内容を確認するや否や反射的に悲鳴があがる。


「嘘だろ!明日中に復讐しないといけないのか!」


'あのヤロー!絶対嫌がらせだな!'


倉増が近くにいるため文句を言えない。


声の主に向かって言っても自分に言われていると勘違いするかもしれない。


'あああっ!'と叫びたいのに我慢するしかない。


実はこのやるせない気持ちをどこにもぶつけることができず耐えるしかない。


『あの、すみません。私のせいで』


倉増は申し訳なくて謝る。


これはさすがに無理だ!


自分のせいでペナルティーを受けることになると思うと実の顔が見れない。


「いえ、大丈夫です。気にしないでください」


口ではそう言うもさすがにこれは無理だと実も思う。


今の時間は17時49分。


退院するまでは病院から抜け出せない。


退院できるのが早くて10時だとしても、そこから間違いなく協会に連れていかれこの間の話の続きをすることになる。


話が3時間で終わると仮定すると残りの時間は約10時間。


どう考えても全員に復讐するのは無理だ。


諦めようかな?


そう思いかけとき、あることに気づいた。


もし、このミッションに失敗したら倉増はどうなるんだ?


復讐に囚われ地縛霊にでもなるのか?


倉増がそうなったのを想像したら、ゾッと全身に悪寒が走った。


'まずい!もし本当にそうなら絶対にまずい!何としてでもミッションをクリアしなければ!'


実は倉増を地縛霊にさせないためどうすればいいか考える。


だが、どけだけ考えても何もいい案は浮かばなかった。





『花王さん。もういいです。さすがにこの時間で復讐をやり遂げるのは無理です。諦めましょう』


せっかく明るい表情になったのに、また暗くなる。


'まずい、まずい、まずい!何か、何か方法があるはずだ!'


倉増の雰囲気が悪霊みたいだんだんとなっていき怖くてしかたない。


大声で誰かに助けを求めたいのを我慢して考えていると、一つだけ方法を思い浮かんだ。


ただ、この方法はあまり良くはない。


だが、制限時間に復讐をやり遂げるとなるとこの方法しかない。


覚悟を決め倉増に伝えることにする。


この方法は倉増を悪者にして効果が発揮されるため、使うか使わないかは倉増に決めてもらうことにする。


「……この方法なら、もしかしたら彼らの大切な物を奪うことができるかもしれません。ただそのかわり……」


『構いません。この方法でいきましょう』


実は本当にいいのかと尋ねそうになるのを堪えこう言った。


「わかりました。あとは俺に任せてください」


実がそう言うと倉増は微笑みながら「はい」と返事をした。


「ただ、念のため駄目だったときようにもう一つ作戦を立てておきましょう。正直、二人の大切な物が何かはわかりますが、残りの三人はわかりません。彼らの印象を教えてもらえませんか?」


倉増は「一人じゃなくて二人?」と実の発言に疑問をもつも、すぐに五十嵐のことを知っていたんだったなと思い出す。


『正直、殺されるまでは全員優しくていい人だと思っていました。五十嵐達のチームは私達、下級ハンターの中では強いチームなので憧れている人達も結構います。私もその一人だったので……』


実は倉増の言葉を聞いて'ああ、やっぱりな'と思った。


五十嵐がいるチームだから周囲の印象は良いとわかっていた。


五十嵐のことを考えていると初めて会ったときのことを思い出し頭が痛くなる。


'最悪だ'


そう思っていると倉増に五十嵐のことを質問されもっと頭が痛くなる。


『そういえば、花王さんは五十嵐さんのことを知っているんですか?五十嵐さんの写真をみて叫んでましだけど』


「はい。知っています。五十嵐さんとは今回みたいな協会からの応募で何度か同じチームになりダンジョンに潜ったことがあるんです」


眉間の皺を伸ばしながら言う。


『あまり仲は良くなかったみたいですね。理由を聞いても?』


実の表情から嫌っているのは明白。


五十嵐は印象だけはいい。


本性を知っている者はごく一部。


倉増は殺されるまで気づかなかった。


それほど完璧に本性を隠していた。


五十嵐のことを嫌いだと言った人に会ったことはない。


それなのに、目の前の実は嫌いな態度を隠そうとせずにいる。


どうして五十嵐のことが嫌いなのか知りたくなった。


「理由は簡単です。嫌いだからです。ただそれだけです」


実はきっぱりと言い放つ。


『なぜそんなに嫌いなんですか?』


実の勢いにおされながら気づけば、また質問していた。


実はその質問におっさんのようなため息を吐いたあとにこう言った。


「それは、彼が他人を見下しているからです。彼はいつも笑顔ですが、考えていることは自分の利益になるかならないかだけです。利益になると判断した場合には優しく接しますが、そうでない者には自分の身代わりにします。危険なときはいつもその人達にやらせます。普通なら周囲にいる人達も止めますが、彼はそうならないようにするのが得意なんです」


何度か殺されそうになったときのことを思い出し殺意が湧く。


一旦落ち着こうと話を区切り深呼吸をする。


「初めて会ったときから胡散臭くて苦手でした。正直、彼は俺にとっては嫌な人なので嫌いですが、他の人には優しいみたいだったので、ただ俺とは馬が合わないと思ってたんですけど。もしかしたら、裏では倉増さんがされたことを何度かしてたのかもしれませんね」


実は五十嵐の本性を会った瞬間に見抜いていた。


危険なことは利益にならない者にやらせるが、ハンターである以上人を殺すことはないだろうと思っていた。


だから、嫌いな人間でも他の人には好かれているから自分とは合わないだけだと思っていたが、本当は本性を隠すために周囲に優しくしていたので知り失望する。


『そうかもしれません……もし、そうなら絶対に許せません!あんな奴らがハンターなんて!ああっ!私の馬鹿!何であんな奴らに憧れてたりしたんだ!』


倉増は壁に頭を打ちつける。


だが倉増は幽霊なので壁に当たることなくすり抜ける。


「倉増さん。そろそろ落ち着いてください」


これ以上見ていると笑いそうになるのでやめさせる。


『花王さん。本当にお願いします。絶対に彼らに報いを受けさせましょう。全ては花王さんの演技にかかっています。頼みますね』


倉増は実の手を取り両手で覆う。


「え、あ、もちろんです。任せてください」


演技なんてしたことない。


不安しかないが、倉増の圧のせいでそう言うしかなかった。




作戦が一応決まると実は話終わってすぐきた夕食を食べ、風呂に入ってからベッドに入る。


明日のことを考えると緊張して眠くならない。


このままじゃ駄目だと思い羊を数えたり、自分で子守唄を歌ったりするもどれも効果がない。


どうしたらいいんだ、と困り果てていると誰かに名を呼ばれた。


'誰だ?'


そう思って声に出して尋ねようとした瞬間、急に眠気が襲ってきてそのまま眠りにつく。


まるで魔法をかけられたみたいに。

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