第13話 倉増菜々子
「それにしても倉増菜々子って誰だ?……それにしても復讐を望むってよっぽどだろ。一体彼らに何をされたんだ?」
本当にダンジョンやゲートと関係なく、命の危険がないことに喜ぶも、物騒なミッション内容に嫌な気持ちになる。
せめて理由だけでも知りたいと思うのにウィンドウにはそのことが何も書かれていない。
どんな復讐が望みなのか。
それすら書かれていない。
'どうしろと?'
実が困り果ていると声の主が軽く咳払いしてからこう言った。
『詳しいことは彼女に聞け。それとこれから俺はお前がある程度のレベルになるまで話しかけることはできん。お前はウィンドウの指示に従え。いいな』
声の主はそう言うと一方的に話しを終わらす。
「は?ちょ、まて!」
今日何度目かわからない言葉を叫ぶ。
実が声の主に話しかけるも何の反応もない。
本当に声の主との通信が切れた。
「は?俺にどうしろと?てか、もっとマシな説明はできないのかよ!」
困惑からだんだん怒りに感情が変化する。
「もう、意味わかんねー!」
ベットの上に勢いよく座る。
声の主を信じるべきか迷う。
自分を殺そうとした相手でもあり、力を与えてくれた存在でもある。
もし、仮に今回は本当のことを言ったとしても隠し事が多すぎる。
声の主が答えなかったことは知られてはまずいこと。
そこまではわかるのに、何を隠しているかがわからない。
そのせいで信用していいのか悪いのか決断ができない。
「悩んでも仕方ないか。とりあえずこのミッションをこなせばわかる。それにしても、復讐って何をすればいいんだ。殺しとかやめてくれよ。少なくとも俺はこの人には勝てないぞ」
唯一知っている五十嵐は自分より強いB級ハンターだ。
スキルと職業を手にしたからと言って勝てる相手ではない。
『それは大丈夫です。殺しは要求しません。求めるのは別のことです』
「ん?」
実は声のした方に視線を向ける。
そこには髪の長い女性がいた。
髪で顔が隠れ、不気味なオーラを出していたため実はすぐに幽霊だと気づいた。
実は声にならない叫び声を上げながら、女性の幽霊から逃げようとベットの上で飛び跳ねる。
ドンッ!
着地のことを忘れ床にお尻から落ち、今度は別の叫び声が出る。
「ギャッ!」
すぐにスキルが発動されお尻の痛みは消える。
『大丈夫ですか?花王さん』
「……どうして俺の名を?あ、もしかして倉増さんですか?」
実はようやく幽霊の正体が倉増だと気づく。
さっき声の主が「彼女に話を聞け」と言っていたことを思い出す。
倉増は声の主によってここに連れてこられたのだろう。
「……ん?貴方が倉増さん!?」
あの日以降助けた女性をみていなかったのでどうなったのか気になっていた。
前回会ったときは顔がみえていたのであの日助けた女性だとわかったが、今日は顔がみえないし雰囲気も違うので悪霊と思い怖かった。
『はい。そうです。もう、私の顔を忘れましたか?』
「忘れたというより、顔がみえなくて誰かわかりません」
悪霊みたいな雰囲気のせい、というのは心の中にしまっておく。
幽霊とはいえ女性を傷つける趣味はない。
もちろん、男性でも同じように言わなかったが。
『あ、すみません』
倉増は髪を整える。
顔が見えるようになったが、悪霊みたいな雰囲気なままで怖いのは変わらない。
「あの、何かあったんですか?」
二週間前のときとの変わりように気になってしかたない。
『いえ、大したことではありません。ただ、私を殺した者の一人がプロポーズされたと知っただけです』
倉増は声の主から無理矢理教えてもらったときのことを思い出し、ハッと鼻で笑う。
人を殺したくせに、後悔もせず、結婚をする。
許せない。絶対に許すせない!
'私だって好きな人と結婚したかった!'
倉増にも恋人がいて交際して三年たっていた。
そろそろ結婚しようかとお互い何となくそう思っていたときに、生贄にさせられ死んだ。
人の人生を奪っておいて、何の罰も与えられず幸せに生きるなど許せない。
『花王さん。どうか、お願いです。彼らに私を殺した報いを受けさせたいのです。復讐を手伝ってください』
倉増は頭を下げて実に頼む。
'ミッションである以上やらない訳にはいかないし、それに気持ちがわからないわけでもない'
実は生きているが倉増は死んだ。
実を殺そうとした者は罰を今頃受けているだろう。
だが、倉増を殺した者達は罰を受けていない。
もし、自分が倉増の立場だったらと考えると到底彼らを許すことはできない。
「わかりました。その復讐俺にも手伝わせてください。一緒に頑張りましょう」
『ありがとうございます』
「それで、どんな復讐を望んでいるんですか?」
殺しは要求しないと言った。
なら、自分を殺した相手をどうする?
実は倉増が望む復讐が想像できない。
『私と同等、いやそれ以上の苦しみを与えたい。彼らの一番大切な物を奪いたいです』
倉増の目は憎しみに囚われていて何を言っても無駄だと実は感じた。
「わかりました。彼らの一番大切な物を奪いましょう」
『何も聞かないんですね。私がどうやって殺されたのか。なぜ彼らを憎むのか』
「誰にだって聞かれたくないことの一つや二つはあります。特に殺されそうになったときのことなんて思い出したくもないでしょう」
実自身がそうなので倉増に聞くのをやめた。
もちろん聞きたい気持ちはある。
何があったのか、どうして復讐したいのか。
もし同じ目に遭っていなければ、実はそんなことはするべきではないと言っていたかもしれない。
『優しいんですね。ほとんどの人は復讐なんてやめろって言うのに』
「俺は優しくないです。少し前の俺ならそう言ってたかもしれませんし」
復讐なんてするべきではない。
そんなことしても誰も幸せにならない。
子供でもわかることだ。
それでも人間はときに己の感情を優先させることがある。
実はいままさにそれだった。
『……今から話すのは独り言です。私が勝手に話すだけです。嫌なら聞かなくてもいいです』
「わかりました」
実は倉増がこれから何を話すのかを察する。
『ダンジョンに潜る一週間前に五十嵐達から俺達の仲間になって欲しいと誘われたんです。『君は強くて頼りになるから一緒に戦いたい』って。今まではフリーでやっていて仲間なんていなかったし、その方が気楽だからいいって誤魔化してたんです。でも、あのときそう言ってもらえて嬉しかったんです。認められた気がして。五十嵐達のチームは強いって有名だったし憧れている人達も大勢いましたから。少しだけ優越感もあったんです』
実はそこまで聞いて「まぁ、あの人は外面だけはいいからな」と騙されるのはしかたないと思った。
『だからその場で了承したんです。でも、それが間違いだったんです。彼らが私を仲間にした理由は何かあったとき私を盾にして逃げるためだったんです。馬鹿ですよね。あんな言葉に浮かれて仲間になるなんて。少し考えればおかしいって、うますぎる話だって気づけたのに。仲間ができるって喜んだせいでこんなことに……』
倉増は怒りや悔しさ、悲しみの感情が一気に押し寄せてきて自分でもなぜ泣いているのかわからなくなる。
はやく泣き止まないとと思えば思うほど涙が溢れ出して止まらない。
「倉増さん。貴方は何も悪くありません。悪いのは貴方の気持ちわ踏み躙った彼らです。もう、大丈夫です。俺が貴方の無念を必ず晴らすと約束します」
倉増は実のその言葉で張り詰めていた糸が切れたのか、子供のように大声を出して泣いた。
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