第15話 夢


「ここはどこだ?」


目を開けるとそこは真っ白な世界だった。


さっきまで病室で寝ようとしていたのに、どうしてここにいるんだと困惑する。


とりあえず、出口を探そうと歩き出す。


「本当にどこなんだ?てか、何で白なんだ?」


こういうとき黒なんじゃ?と疑問に思いながら歩き続ける。




『花王実』


誰かに名を呼ばれる。


後ろを振り向くとものすごい美形がそこにいた。


「えっと、どちら様ですか?」


実の知り合いにこんな美形はいない。


一回みたら絶対に忘れない顔だ。


『前に名乗ったんだが、もう忘れたか?』


'前に?会ったことあるのか?でも、絶対忘れたくても忘れられない顔だよな?'


知らない美形に会ったことあると言われ戸惑う。


「あー、すみません。俺達っていつ会いましたか?」


『お前がダンジョンの呪いから目覚める前に会った。だが、気に病む必要はない。どうせ、また忘れる。一応自己紹介はしてやろう。……だ。ダンジョンでお前達にゲームを仕掛けた者の声だ』


名前のところだけが聞こえなくてもう一度言ってくれと頼もうとしたが、その次に言われたことに気を取られ忘れてしまう。


「は?え?お前があのクソヤローか!?」


実は声の主の言葉に二週間前と同じこと言った。


声の主は全く同じことを同じ反応でいう実が面白く、つい笑ってしまう。


'何笑ってんだ?イケメンだからって許されると思うなよ'


ムカついて声の主を睨むがなぜか負けた気分になり虚しくなる。


『そうだ。俺がお前の言うクソヤローだ』


「お前が俺をここに連れてきてのか?」


『ああ』


「何のために?」


実は前回のときと全く同じことを尋ねる。


声の主は本当に何も覚えてないんだなとある意味関心する。


『この間の話の続きをするためだ』


「続き?俺達は何の話をしたんだ?」


実は記憶がないため続きと言われても困る。


『いずれ思い出す。気にするな』


声の主にそう言われるも、実からしたら気になってしかたない。


そういうところの配慮をできないのか、と文句を言いたいが実は話した内容を全て忘れているため文句を言える立場にないので黙って睨むことしかできない。


『それで話の続きだが、とりあえずこれを渡しておく』


実の親指サイズの白い宝石がついた指輪を渡す。


'……なんで?'


黙って受け取るも一目で高価なものだとわかる。


なにかスキルでも付与されているのかとじっくりと指輪を観察する。


「なぜこれを俺に?なんかスキルでもあるんか?」


実はみてもわからず声の主に答えを聞くことにする。


一体どんなスキルなのかと期待して目をする。


『ないぞ』


「やっぱりあるよ、な……ん?ない?今ないって言ったか?え?本当に?ないの?」


じゃあ、なんで指輪なんて渡すんだ?


何のスキルも付与されていない指輪なんて渡されても困る。


実は思っていることが全て顔にでる。


そんな実を声の主はまた面白くて笑ってしまう。


『いずれわかる。肌身離さず持ってろよ』


'あー、はいはい。またですか。また、いずれわかるですか'


何回目かわからない「いずれわかる」という言葉にうんざりする。


それでも、強くなるには声の主の言うことを聞かなければならない。


苛立ちを隠すように笑顔で「わかりました」と言う。


「話はこれだけですか。じゃあ、俺はそろそろ帰りますね」


どうやって帰るかなんてわからないが、自分の頬を叩いたら眠りから覚めるだろうと思い、痛みで無理矢理起きようとする。


『まて。もう一つある。シークレットミッションについてだ』


「シークレットミッション?シークレットって秘密だろ?言っていいのか?」


実は首を傾げ何をさせられるんだと身構える。


『問題ない。どうせここでの記憶はなくなる』


'え?なら何で言うんだ?'


実は声の主が何を考えているのか全く理解できず困惑する。


忘れることをわざわざ言う必要があるのか?


絶対にない!


そう思うのに声の主相手には何を言っても無駄だとわかっているので黙って話を聞く。




「……それがシークレットミッション?それ、俺がどうこうできるもんじゃなくね?」


声の主から聞かされた内容に驚く。


『だから、シークレットミッションなのだろ?クリアできればそれ相応のものが貰える。まぁ、クリアしなくても問題はないから気にしなくていい。ただ、お前はどうしたいか知りたかっただけだ』


お前はどうする?と言葉にはされなかったが聞かれているのはわかる。


実は迷うことなくきっぱりとこう答える。


「もちろん。叶える。ミッションなど関係なくするべきだ。俺が同じ状況だったらそうして貰えると嬉しい」


考える必要などない。


人として当然のこと。


声な主は実のその宣言に目を見開く。


そして、嬉しそうに微笑んだと思ったら大声で笑い出す。


実は声の主の姿に「とうとう狂ったか」と眉間に手を当て首を横に振る。




『そろそろお別れだ。花王実よ。次に会うときはお前が王になれるかどうかのときだ』


「……」


実は何も言わずただ黙って話を聞く。


『他の連中がどうかはわからないが、俺はお前が俺達の王になってくれるのを願っている。頑張れよ』


「あ、ああ」


いきなり声の主の態度が変わり実は恐怖を覚える。


本心なのはなんとなくわかるのだが、どうしても今までの態度から何か裏があるのではないかと疑ってしまう。


『あ、そうだ。お前が考えた作戦なかなかいいと思うぞ。時間がないなかクリアしようとするなら、その方法が一番有効だからな』


実は一瞬何を言われているのかわからず呆けた顔をするが、すぐに倉増の復讐を成し遂げるための作戦のことを言われているのだと気づく。


「聞いてたのか!?」


『ああ、当然だ。お前と俺は一応繋がっているからな。俺の声は俺がお前に聞かそうとしなければ届かないが、お前の声はお前が何をしようとも届くようになっているからな』


しれっと会話を盗み聞いてることを言う。


'冗談だろ……俺のプライバシーはないのか?'


実はこの瞬間声の主相手に人権を求めるのを諦めた。


何を言っても無駄だと。


もう好きにしてくれ。


「……そうか。それは退屈しなそうだな」


実は自分の顔がひきつっているのを感じるが表情管理する気力すらなかった。


『ああ。おかげさまでな』


実とは対照的に嬉しそうに笑う。


『そろそろ時間だな。今度こそお別れだ。どうか、お前はそのままでいてくれ。信じてるぞ』


「え?」


それはどういう意味だ?


実がその言葉の意味を理解しようと頭の中で考えをまとめているとき、声の主が別れの言葉を言う。


『またな』


手を挙げて微笑む。


「まて!今の言葉どういう意味だ!」


実がそう言うよりも早く目の前が一気に輝きだす。


その輝きに耐えきれず目を閉じ、少しでも眩しさを和らげようと両手で顔を隠す。





「……眩しい」


目を開けると、部屋は暗く眩しい要素などどこにもなかった。


窓の外をみると、まだ空は暗く太陽もでていない。


'……夢か?'


夢の内容は何一つ覚えていない。


だが、なんとなく夢の中で目が眩むほどの光にあてられて目を覚ました気がした。


右手に違和感を感じ確認すると人差し指に知らない指輪がついていた。


「……?」


実は指輪を外そうとするが接着剤でくっつけたのかと疑うくらい少しもも動かなたった。


「……散歩でもするか」


これ以上どんなに頑張っても指輪を外すことはできない。


諦め二度寝しようかと思うも、完全に目が覚め無理だ。


ベッドの上で時間が過ぎるのを待つよりも歩いた方がいい。


実は着替えて看護師達に見つからないよう病院から抜け出す。


近くに海があったのを思い出しそこに向かう。


 


実はこの日のことを一生忘れないと思った。


新しい門出に相応しかった。


水平線から顔出す太陽の美しさは神秘的で言葉を失った。


太陽の光が海に伝わっていき、少しずつ海に黄金の花が咲いたみたいで美しい光景だった。

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