遠く、近い君へ【第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト 二十首部門】

元寛京輔

遠く、近い君へ

花の名を指先で解くその前に「あなた綺麗ね」と笑った、君


「本当だ」相槌混じる回答に続く花の名確かめる、貴方


「シロップは赤いほどいい、じょうろからたっぷり注げたなら最高」


参道のひしめきの中の右手の中の骨ばった方位磁針


水晶体を抜けた光をあの日の花火と呼べる共通項


鳴らしたいからんころんと帰りたくないからんころんは同じ音


3月の切符で雪のない場所へ向かうと決めた晩夏の月夜


推したい背中は引き止めたい背中で行き場のない腕ぶら下げる


米を研ぐ音がただ西日の1人から電灯の1人を埋める


忘れたい蛋白質のアルバムに酸素を送る肺は優しい


銀杏を踏んで臭いねと笑って同じフローラルを思い出す


気が付けば解けて踊る靴紐に確かに残る結び目の癖


白菜の芯だけを盛る取皿を両手で受けて次は紅組


ストーブの火がつくまでの時間を大切に震える日曜日


枕の轍が版画のようにずっと君を置いていけばいいのに


招き猫の鈴のおとは朗らかにちらつく雪へ挨拶をする


道すがら同じかいろの温かさお腹に貯めて触れぬ手の平


唇で国境を引く傘の中、ここでわかれて手を振りましょう


「いってらっしゃい」自転に乗って1500km/sキロでゆく君へ「またね」


もう来ないあの日の花火をまた見よう指を切らない願いを込めて

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