第1話 馬鹿の自己否定ほどくだらねえもんはねえ
名前は、桐原 彩斗(きりはら あやと)
26歳、血液型A型、職業フリーター。性格、とにかく目立たない。一言で言えば陰キャ。台風の目が嫌いで、すみっこ暮らしが大好き。一人で芸術を嗜んでいたい。主人公よりも悪役に感情移入するタイプだし、とにかく俺は他人とは違う。だから、いずれは、、俺だって。
「桐原くん?どうしたの?」
「いや、、なんでもない」
中学の頃の自己紹介から全く進歩してないことに気づいて俺は頭を抱えた。
1話目からメタは良くないが、もう少し、上手く自己紹介くらいやれるだろ。はぁ。
「なんで俺なんかがYouTuber?」
「向いてると思うけどなぁ?」
「む、向いてる?」
俺が?なるべく人生で目立たないように生きてきたこの俺が??
「うんっ。幼馴染、舐めないでよね」
呆れ顔?したり顔?でそう言う彼女の名前は、織部 実癒 (おりべ みゆ)
俺と同い年の26歳、血液型は、知らない。体重も、もちろんスリーサイズも。身長は見るからに女子の平均より下だ。平均身長の俺が見下ろしてしまうくらい。でも、いつも俺と面と向かい合ってるというか、逆に見下ろされてるというか、とにかく性格は俺よりもしっかりしている。俺がまだ人と対等に話せていた小学校の頃も、虐められていた中学の頃もずっと頼りになる存在だった。心の支えだった。大学はたまたま同じだったが、話す機会はたまに顔を合わせた時くらい。ほとんど無かった。
だから、俺の事なんてもう忘れていると思ってたのに。
「俺の事なんか勘違いしてる?向いてないよYouTuberなんて」
「そっっか。まあそれなら、それで。私には関係ないし」
急に突き放すように言う実癒。
「え……」
「じゃあね、また会えたらどこかで」
「ちょっ、どうしたんだ急にっ……」
訳が分からなかったが、俺は大変なことをしてしまったのかもしれない。
実癒はもう、どこにもいなくなっていた。
俺は女神を怒らせてしまったかもしれない。
心がつっかえた。心に穴が空いたのか、それともおできが出来たのか。
どちらにせよ、俺はそのつっかえを取るために、YouTubeの配信を始めた。
配信内容は、ゲーム実況。
俺の一番好きなパズルゲームにした。思考回路が書きなぐられる思考性と、一気に消える爽快感。シンプルイズザベストなのに奥が深いゲーム性が、大好きだった。
自分の好きなゲームをして、お金が貰える。
こんな夢のある話はほかにない。
確かにYouTuber、いいかもしれない。
実癒の言う通りだった。
やってみれば、意外と楽しい。ワクワクする。向いてるかもしれない。
自分が、何者かになれるかもしれない。
そう思えた時、あの時の光景の続き、晴天の光が差し込んだ後、果てしなく続く線路の先の終着点まで見通すことが出来た。
再生回数56回。
夢は、夢だから楽しい。馬鹿みたいな夢のような話を好きなように想像して、理想を描けるから夢なのだ。
現実は夢じゃない。そんな夢のような話、決して実現しない。
俺みたいな存在に夢が転がり込んでくるほど、現実は甘くなくて、神様は優しくないのだ。
線路の先はもう灰色の、濁った霧で見えなくなっていた。
俺は自己嫌悪する。自己否定する。
俺が俺じゃなくなれば、俺はなんで、いつも、どうして、こんなことも。
俺は、他人とは違う。だからいずれは、俺だって、輝ける主人公になれるはずだって、そう思ってた。
でも、違った。脇役で生まれた人間は生涯脇役にしかなれない。
他人とは違う?笑わせるな。他人と変わらない脇役だ。もし、違ったとしても、大抵の人間が出来ることを一切出来ない才能を持っている事だろう。
じゃあ俺はどうすればいいんだよ…………
誰か、教えてくれよ。
テレビに映ったロードショーのピエロの脇役は、悪役へと豹変した。彼は悪役になることで悲劇の主人公へと昇格したのだ。
そうか。
俺は、何も出来ない才能がある。だから、この世をこんなに恨める。
その恨みを使え、活かせ、利用しろ。
恨みを晴らす悪役に、悲劇の主人公になってやれ。
俺の憂さ晴らしとも取れる恨み晴らしは、始動した。
俺は、霧の中で見えない線路のレールをぶっ壊していた。
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