「少なくとも俺は」
二階に戻って部屋着に着替えて、昼食を食べた。
祖母に今日のことを話しつつ、食卓の下でメモの内容をまとめていた。
昼食を食べた後、祖母の家事の手伝いをしてから自分の部屋に戻った。
ラインで空から通知が来た。
「二本先取ね!」
「部屋建てとくから!」
と立て続けに来て、急いでswitchを起動した。蒸し暑い部屋の中、俺は袖をまくった。
スプラトゥーンはよく高校の友達とやるのだが、今回はやる気を出してガチ武器を持って行った。ヒト速重視のギアのクーゲルシュライバー。アプデで弱体化されたけどまだ強い。
一戦目は負けてしまったものの、相手の武器がローラーなのがわかったので、普通にビーコンで立ち回りつつ距離を取って撃っていたら二回勝った。
二回目で勝ってイカちゃんが踊っている間、スマホが振動した。
通知を開くと「武器が悪かった!もっかい!」と来たので、仕方ないと思い、もう一回プレイした。
次は黒ZAPを持ってきたらしく、対戦すると意外と強く、最初は勝てたものの、次の二回で負けてしまった。なぜか弾が当たらなかった。悔しい。
だが、ここでもう一戦しようと申し込むのはプライドが許さない。
勝利のプライドと自分の大人さを保とうとするプライドで板挟みになる。そんなことで悩んでいると、またラインが飛んでくる。
「リグマ行こ!」
確かに、これならストレスも晴らせそうだ。
「OK!」
そう返信すると通話がかかってきた。緑色の受話ボタンをタップすると
「よし、キャリーしますか」
といきなり豪語してきた。
「いやいや、さっきは武器相性で負けただけだから」
「もっかいやる?」
勝って上機嫌なのか喜びが通話越しで伝わってくる。
気にくわないので話題を逸らそうとする。
「てか、なんでさっき通話掛けなかったの?」
「え~、勝って叫んじゃうからな?」
これ以上悔しがってもしょうがない。
そのあとは普通に数時間リーグマッチをしていた。勝率はかなり高くて、野良よりもよかった。
あとやはり、通話しながらだとかなり戦いやすかった。顔が見えない分、どちらかというと、男友達みたいな感覚だった。
スプラトゥーンを楽しんだのち、ふと高校の課題を思い出したので、理由を喋って通話を抜けた。
リュックから高校の課題を引っ張り出して、必要そうなワークを引っ張り出す。
蒸し暑い中で高校の課題をしたくなかったが、それを理由にしたらずっとさぼりそうなので、ページを開いた。
そのあとは夕飯まで課題をこなしていた。期末テストがやばかったのでここで挽回しないといけない。
夕飯を食べた後は、ネットで類似しそうなものを調べたりしたものの、あんまり収穫は得られなかった。石碑や看板を写真で見ても、やはりこれ以上わかることはない。
すると祖母が部屋に入ってきた。
「タカヒロ、明日はどこかいくの?」
「いや、情報も得れたし、明日はいかないかな」
「じゃあ明日はたんと働いてもらうからね」
「わかったって」
「あと、四条ちゃんには感謝しなさいよ?」
「はいはい」
そのあと、そのまま風呂に入った後に寝ようとした。鈴虫の鳴き声が響く中、布団に入ると神社にいくまでの会話を頭の中で反芻していた。
空と一緒に神社を調べたあの日から約一週間ぐらい、経った。大体は空と通話しながらスプラをしたりとか、家の手伝いとかをしていた。今日、俺は起きた後、家中の掃除をした。祖母は一階を担当して、俺は二階だった。
マスクをして濡れ雑巾と掃除機を駆使して、リビングや自分の部屋、祖母の部屋、トイレなどを猛烈に拭いたり吸ったりを続けた。
午前中は掃除で終わった。汗だくになりながら、木と雑巾の匂いがする手を洗面台で洗う。
昼食を食べて、今度は物置の掃除だった。恐る恐る敷地の隅にあるプレハブみたいな物置を開けると、意外と普通だった。壊れた古い木目調のエアコンと、錆びすぎて塗装されていたかすらわからない自転車、後は先が割れている箒や若干新しめの脚立などだった。
あとは、水垢のついたすこし大き目の水槽もあった。
まあ、そんなもんか。という感じだった。というかほぼでかいゴミ箱みたいなもんだ。
「ばあちゃんこのでかいゴミたちどうする!」
一階にいる祖母に叫ぶ。すると叫び返してきた。
「めんどくさいから放置しときな!」
「りょうかーい!」
結局扉を閉めて、二階に戻った。
その日の午後は結局昨日みたいに課題をして、明日図書館で調べたいことを書いて終わった。布団に入って、寝ようとしたら、ラインの通知が流れてきた。
「お前返信よこさないけど元気か?」
田中だ。中学から腐れ縁で、仲いいけど最初に呼び始めたのが苗字のせいで苗字しか覚えてない。同じ高校に進学して今でも仲良くしてる、
中学のとき、席替えでブスな女子の隣で鬱になりかけたときに助けてもらったことがある。
「元気元気、そっちは?」
「クラスのやつらと仲良くボーリングしてるぞ」
とボーリングのスタンプが流れてくる。
「よかったやん」
「逆にお前写真送ってきたけど、何してんの?」
「田舎でご老人の話聞いてる」
「おもろ」
「だろ?あと可愛い子と神社行ったりした」
「は?許せねえ」
「仲間だと思ってたのに」
嘘は言ってない。
「会って一週間ぐらいしか経ってないのにそんな関係になるわけないだろ」
「確かに、どれぐらい可愛い?」
「すごい可愛い。めちゃくちゃタイプ」
「マジ?脈ありなん?」
返信をすぐ送ろうと、キーボードを開いて、打とうとして考えた。
確かに、少なくとも俺は空のことを、可愛いし、優しいし、そりも合うから関わっていたいと思ってる。
でも、優しくて可愛いから、もっといい男とだって付き合えるんだろうし、なんならもう彼氏だって八王子にいるかもしれない。ただ、ここは田舎で同じ年代の人間が俺みたいなのしかいないから、それで関わってるんだと思ってる。
「いや、多分ないかな」
「マジか、またなんかあったら教えろよ」
「おけ」
そう返事して、スマホの電源を消して瞼を閉じた。
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