第14話【さくら視点】1908年の日記後編

その後も私は日記を読みすすめた。

オリンピックはまだ4回目。赤旗事件みたいな、歴史の授業でしか習わなかったような出来事。日記には、私には想像もつかないような過去の暮らしが書かれていた。


そうして、夢中で日記を読みすすめていたら、気づけば最後のページだった。薄いノート1冊に収まるような、短い半年間の記録の最後。そこにはこう書かれていた。


―2008年4月4日、私は戻ってきた。私戻って来てしまった。美織は最後に言ったんだ。「どれだけ探しても、これ以外にやり方は見つからなかった」って。


―そう言って、美織は背中を押してくれたんだ。


―背中を押された瞬間、私は光に包まれ、次の瞬間、戻ってきたとき、こちらでは時間が進んでいないようだった。私たちの半年が、まるで夢だったかのように。でも、これは夢じゃない。だって、その時私は一人だったから。でも、もうどうにもできなかった。でも、まだ何かできることがあるかもしれない。この時代への帰り方に、何か美織を救うヒントがあるかもしれない。だから、私がこの時代へ戻って来た方法を、ここに記しておくことにする。


私は続きを読もうとした。


「さくら!入らないでと言ったじゃないか!」

入り口からお父さんの声が聞こえた。私は夢中になって、お父さんが戻ってくるかもしれないと言う事を完全に失念していた。


「ご、ごめん!ちょっと電話の子機を使いたくて、、、」

私は机を隠すようにお父さんの方を向いて取り繕った。

あのノートは絶対私に見られたくなかったはずだと思う。今までどれだけお母さんのことを聞いても、遠くにいるんだ、忙しいんだってはぐらかされて。

この日記に書いてあったことは、一つも聞いたことなんてない。


「すぐどけるから!」

そう言って私は自分の背後に手を伸ばし、こっそり日記をもとの位置に戻す。


「もう入らないでくれよ?」


「うん。ごめん。じゃあ」

私は部屋を出て扉を閉めた。

お父さんは、私に嘘をついていなかった。

「美織を救うヒントになるかもしれない」

日記に書かれたその言葉は、きっと、まだ100年前の時代に取り残されているだけで、死別した訳ではないとか、そういう事だと思う。


「まあ、いつかきっと会えるよ」

そうやって桜木くんが言っていたけど。

たぶん、もうお母さんに会うことは叶わないのだと知った。


「あれ、まだ準備してなかったの?もう出るけど」

お父さんの部屋の扉にもたれかかっていたら、部屋から出てきた桜木くんがこっちに来た。


「あっ、そういえば」

私からお出かけについて行きたいって言ったんだった。まだ確認も取れてない。


「ごめん、やっぱり今日はいいや」


「そう。じゃあ行ってくる」

そう言って桜木くんは階段を降りていった。

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