第15話四季神翔子と二回目のお出かけ

「ごめん、お待たせ」

9時50分。

俺が集合時間の10分前に集合場所である駅前広場を訪れると、既に四季神さんの姿があった。


「あ、桜木さん!」

四季神さんは俺を見つけると、歩いてこちらに寄ってきた。


「まだ集合時間の10分も前なんですから。気にしないでください」


「そう言ってもらえると気が楽だよ」


「それじゃあ、少し早いですけど行きましょうか」


「今日は最初から行先決まってるんだな」

前の時はお昼しか決まってなかったが、今回は午前の内から行先が決まっているようだった。


「ぜ、前回の失敗から学んだんですっ!!」

四季神さんは頬をぷくっと膨らまして見せた。


「ごめん、それじゃあついていくよ」


「はい!今日はよろしくお願いします。じゃあ、行きましょう!」

四季神さんはそう言って歩き始めた。俺も半歩後をついていく。


● ● ● ●


やってきたのは桜晴神社だった。それほど大きな規模ではなく、福咲が丘出身か福咲が丘の街に住んでいないかぎり、名前すら知らないだろう。それでも、俺にとっては、俺の人生の中で一番記憶に残る場所と言っても過言ではないほどの場所だ。

120段の石段を登りきると、四季神さんは少し歩くペースを上げて、この街が一望できるところへ向かった。


「初めてここで出会ってからもう一か月ですね」

今日は5月4日。俺がこの時代にきてからちょうど一か月になる。

過去へ帰るヒントとかは、まだ全然見つけることはできていないけど、今日、四季神さんと出かけているように、俺はこの時代では人に恵まれ、居心地のいい生活を送っている。


「あの時はほんとにびっくりしました。学校帰りにさくらちゃんとここに来たら、目の前が急に強く光って、光が収まったと思ったらさっきまで誰もいなかったところに急に人が立ってたんです」


「そんな風に見えてたんだな」

そりゃ四季神さんもフリーズするわ。


「そういえば、学校帰りだったって言ったよね?でも、翌日が始業式だったってことはあの日はまだ春休みだったってことだよね?二人ともなんで学校行ってたの?」


「前に言った通り、私、今年度から風紀委員長なんです。それで、あの日は学園の入学式で、各委員会の委員長は出席することになってて。それで行ってたんです。さくらちゃんは、私の手伝いをしに来てくれて」


「そういうことか」


「そういうことです。さて、じゃあ桜木さん、もうそろそろ行きましょうか」

四季神さんはそう言って歩き出した。


「もう行くのか。ここにはこの話をしに来たの?」


「いえ、違います。”あれ”をしに来ました」

そう言って四季神さんが指を指した先には、小さな池と、そのそばに「こいのえさ 100円」と書かれた札が立っており、さらにその横には小さな屋根付きの台があり、鯉の餌と集金箱が設置されていた。


● ● ● ●


俺たちは鯉の餌を買い、池の横に立つと、そんな俺たちを見た鯉たちがわらわらとこちらに寄ってきた。


「まだ餌を開いてもないのに寄ってきました!すごいです!」

そんな様子に、四季神さんはとても感動している。

俺はえさを開け、試しに端っこにいた赤白のまだら模様の鯉に向かって餌を投げた。

が、周囲にいた鯉が一斉に動き、赤白の子は外に追いやられて、結局、別の鯉がえさを食べてしまった。

アニメとかで見るイメージだとこう、、、もうちょと可愛げがあるのだが、実際こうしてみると結構グロいな。


「みんな一生懸命で可愛いです!!」

しかし、四季神さんには、俺がグロいと評したそれに違った評価を示したようだった。


「かわいいか?これ」

俺がそう言うと、四季神さんは興奮気味に言った。


「そんなことないです!みんな一生懸命で可愛いです!」


「まあ、一生懸命ではあるんだろうけど、、、」

と、俺たちがそんな話をしていると、いつの間にか俺たちの周りに集まってきていた鳩の一羽が四季神さんが持つ餌目掛けて勢いよく飛んできた。


「きゃっ!!」

四季神さんはとっさに身構え、一歩後ろに下がったが、足を滑らせ、そのまま池の方に倒れそうになった。


「四季神さん!!」

俺はとっさに手を伸ばし、自分のいる方に引っ張った。俺たちはそのままバランスを崩し、地面に倒れこんだ。


「四季神さん大丈夫?けがは、、、って!近っ!」

四季神さんは俺に覆いかぶさるような状態になっていた。

思い切り密着するような状態で、いやでも四季神さんのぬくもりを感じてしまう。


「ちょっと四季神さん、一回離れて!」

そう言って四季神さんの顔を覗くと、四季神さんは目を見開いて、顔を真っ赤にして「う~っ!!」っとよくわからない唸り声?をあげていた。


「し、四季神さん?」

再度俺が声を掛けると、四季神さんは改めて自分の状況を理解したようで、ガバッと急いで立ち上がった。


「ご、ごめんなさい!また、助けていただきましたね!その、桜木さんは平気ですか?」


「ああ、平気だよ。四季神も、けがはない?」


「私は大丈夫です」


「ならよかった」


「え、えさも全部池の中に落としちゃいましたし、移動しましょうかっ」

四季神さんは、まだ少し赤い顔を隠すように後ろを向いて言う。


「やっぱり桜木さんは、、、」


「俺がどうかした?」


「いえ!何でもないです!次、行きましょうか」

四季神さんは慌てた様子で話を打ち切ってしまった。


「そうだな」

俺はそう言って、四季神さんの隣に立った。


「あの!」

歩き始めて少しして、階段に差し掛かったあたりで四季神さんが声をあげた。


「どうした?」

俺がそう聞くと、四季神さんは意を決したように言った。


「桜木さんのこと、これからは翼くんって呼んでもいいですか?」


「す、好きなように呼んでくれていいよ?」


「ありがとうございます!翼くん!」

四季神さんはそう言ってまぶしい笑顔みせた。


「あ、ああ」

俺はそんな彼女を見て、一瞬ドキリとした。

それは、まだ何かよくわからなかったけれど、漫画やアニメで感じるのとは何か違う、とても不思議な感情だった。

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