第13話1908年の日記
「んん、、、6時3分か、、、」
今日はせっかく休みなのに早く目が覚めてしまった。
2度寝する気分にもなれなかったので、大地さんに朝のコーヒーでも淹れて貰おうと一階に降りる。
ゴールデンウィーク最終日。休店日の店内は昨日までの賑やかさが嘘みたいな静かさだった。
「おはようございます。大地さん」
「おはよう、桜木君」
予想通り、大地さんは休みだというのに今日も1階に降りてきてコーヒーを淹れていた。
大地さんはこの時間、必ずと言っていいほど1階でカウンターに腰掛けてコーヒーを飲んでいる。これはここで働き始めてから知った彼のルーティンの一つだ。
「後で俺にもコーヒー淹れてもらえませんか?」
「ああ。構わないよ」
そう言うと大地さんはカップに残っていたコーヒーを飲み切ると、キッチンに入ってコーヒーを作り始めた。
「桜木君が自分から飲みたいなんて珍しいね」
「今日はせっかく休みなんで、もう少し寝ていようかとも思ったんですけどね。なんだか早く目が覚めてしまって。昨日まで忙しかったせいか、まだちょっと頭がぼんやりしてるんですよ」
「ははは、なるほどね。本当にお疲れ様。はい、珈琲」
「ありがとうございます」
俺は渡されたコーヒーを一口。
「やっぱり美味しいですね」
「はは、そうだろう?」
大地さんはそう言って笑いながらコーヒーを飲む。
「あれ、大地さん、また作ったんですか?」
「せっかく淹れるならもう一杯飲もうかと思ってね」
「大地さん、コーヒー好きですね」
「それはそうだろう。好きで喫茶店やってるんだから」
大地さんは笑いながら言う。
「それもそうですね」
俺はそう言って豆菓子を口に放り込んだ。
● ● ● ●
「さて、、、っと、どうしようか」
しばらく大地さんと会話を続けたあと、俺は部屋に戻ってきた。
今日は1日休み。せっかくなら、昨日の疲れを回復する為にも、部屋でゆっくりしたいものだ。そう思って、本棚から最近買った漫画を手に取った。この時代の漫画は、まだAIの技術が未熟で、物語から作画まで、全て人の手によって書かれたのもが多く、それぞれの漫画家によって作風や作画に個性があって面白い。
そして、俺が漫画を開こうとすると、誰かが扉をノックした。
「桜木くん、翔子から電話来てるよ」
ドアを開くと、さくらさんが固定電話の子機を持って佇んでいた。
「四季神さんから?わざわざ電話なんて珍しいね」
「いやいや。桜木くんスマホ持ってないんだから、連絡しようと思ったら電話するしかないじゃん」
そういえばそうだった。
「とにかく!ほら、電話出て」
さくらさんはそう言うと子機をこちらに投げてきた。
「おわっ!ちょ、投げるな!」
俺は慌てて電話を受け取る。
「もしもし」
「もしもし?桜木さんですか?」
受話器越しに四季神さんの声が聞こえてくる。
「そうだけど、、、どうしたの?四季神さん?」
「突然すいません!!その、もしよかったら、この後、また二人でお出かけしませんか?」
「え、今から?」
「今から、、、というわけではありませんが、前みたいに10時に駅前という感じで、、、どうでしょうか?」
「うーん、、、」
どうしようか。今日はゆっくりしようと思っていたんだけど、、、
俺は時計を確認する。時間は7時27分。集合時間は大体2時間半後だ。あまり悠長に考えている暇はない。
「分かった。行くよ」
俺がそう答えると、四季神さんは機嫌のよさそうな声色で言った。
「本当ですか!!ありがとうございます!桜木さん!」
そう言うと彼女は「じゃあ、準備します!」と言ってすぐに電話を切ってしまった。
「で、翔子なんて言ってたの?」
俺が電話を終えると、さくらさんが俺の手から子機を取り上げて聞いてきた。
「この後一緒にお出かけしませんか、だってさ」
「ええ?桜木くん、この前も翔子と出かけてなかったっけ?」
「そうだな」
「なんか翔子に気に入られてるね。桜木くん」
「前にまた出かけようって約束しただけだよ」
「そう、、、まあ、ちょうどよかった。今日、もし翔子に聞いて、いいって言われたら、そのお出かけ付いていってもいいかな?ちょっと欲しいものがあって」
「別に俺は構わないが、、、」
「じゃあ決まりで。先に集合時間と場所聞いといていい?」
「集合は10時に駅前広場」
「わかった」
そう言うと、さくらさんは部屋を出て行った。
ゴールデンウィーク最終日、俺は四季神さんとさくらさんと出かけることになった。
● ● ● ●
―――乙木さくら―――
桜木くんの部屋から出てきた私は、子機を元の場所に戻すためにお父さんの部屋に入った。親機はリビングにあるけど、桜木くんを呼びに行ってる間に切れちゃったら嫌だし、、、と思って、入らないようにって言われてるけど、こっそりお父さんの部屋に入って子機を拝借してきていたのだ。
「ん?なにこれ」
机の上にあるポッケトに子機を片付けると、本立てに置かれた一冊のノートが目に入った。そのノートは、そんなにボロボロでも、汚くもなかったけど、どこか古めかしさを感じた。少なくとも、今時こんな見た目のノートはどこでも見たことが無い。
私は気になってノートを開いた。どうやらそれは、日記帳のようだった。
―1908年4月4日。良く分からないがここは100年前の日本らしい。さくらをキッズルームに預けて買い物をしていたら、美織と一緒に来てしまったようだ。さくらが心配だ。早く元の時代に戻りたい。少しでもそのヒントにつながるように、今日からの出来事はこのノートに綴っていこうと思う―
さくら、というのは私のことだろう。美織というのはお母さんの名前だ。まだ会ったことは無いけど、名前くらいはお父さんから聞いたことがある。
「でも、1908年って、、、」
今から116年も前のことだ。そんな時代、二人ともまだ生まれてもないはずだ。きっと、今までの私が見ても、お父さんの悪ふざけにしか見えなかったと思う。でも、ついこの前、この話が真実足りえるかもしれないと思わせる"出来事"があった。
私はノートのページを一枚めくった。
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