第6話新人スタッフがやってきた!

「私は先にお店戻ってるから、桜木くんは翔子を家に送ってあげて」

街を案内してもらった後、さくらさんは夕暮れ時の駅前広場に戻ってきた俺たちにそう言った。そして俺はその命を受けて翔子さんを家まで送り届けているところだ。


「今日はありがとう。楽しかったよ」


「そ、そうですか。それは良かったです」

四季神さんは緊張からか、やや硬い笑みを浮かべた。


「...」

ちょっとだけ気まずい。なにか話題はないものか。

と、そんなことを考えていると、対向からものすごい速さの車が突っ込んできた!


「危ない!!」

俺はとっさに彼女の手を引いた。勢いよく手を引いたせいで彼女はバランスを崩して、俺に寄りかかるような態勢になってしまった。さっきの車はそのまま去って行った。住宅街の細い道で出す速度じゃないだろあれ。


「大丈夫だった?!」


「その、、、はい。大丈夫でした。桜木さんのおかげですね」

彼女は儚く笑って見せた。そして、今の自分の態勢を確認した次の瞬間、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「あ、あの、ずっとこの状態はさすがに恥ずかしいです、、、」


「あ!ご、ごめん!!」

俺はとっさに手を離した。


「そ、その、ありがとうございました」


「いや、別に大したことはしてないよ。四季神さんが無事でよかった」

そのあとは、俺に対する緊張が少し解けたのか、のこりの帰り道は今日のお出かけのこと、100年後のこと、この時代のこと。いろんな話ができた。個人的には、某キノコとタケノコのお菓子の論争が、こんな時代から続いていたのが意外だった。


● ● ● ●


数日後の朝。

いつものように俺が開店準備を始めようと、自分の部屋で着替えをしていたところ、していたところ、大地さんが部屋にやってきた。


「おはよう。桜木君、ちょっといいかな?」


「はい。大丈夫ですよ」


「それはよかった。実は今日から新しいバイトの子が来てくれるんだけど、朝の内にその子の紹介をしておきたくってね。もう来てくれてるんだ。さくらにももう声はかけてある」


「わかりました。ただ、着替えだけ待ってもらっていいですか?」


「そうして着替えを終えた俺は、リビングで待っていたさくらさんと大地さんと共に1階の店舗部分に移動した」


● ● ● ●


「おまたせ。こっちが住み込みの桜木翼君。こっちがうちの娘の乙木さくら。二人とも君の先輩になるから、仲良くしてやってほしい」


「「ええええええええええええええーーーーーーーー!!!!!」」

俺とさくらさんはその姿を見て驚愕した。


「お、お久しぶりですね、、、お二人とも、、、」

向こうも困惑しているようで、前に会った時の笑顔を絶やさない少女という印象とはつながらないようななんとも気まずそうな表情を浮かべている。身長は四季神さんとさくらさんの間ぐらいで、淡いピンクの髪を両サイドで束ねてツインテールにしている少女だ。胸元の名札には「常陽」と書かれている。


「あれ、その様子だと二人の知り合いなの?」

俺たちの様子を見て、大地さんがそんなことを聞いてきた。


「まあ、多少は、、、でも、名前とか知ってる訳じゃないし、、、」

さくらさんが言うと、大地さんは不思議そうにしながらも、「それなら」と続ける。


「彼女は常陽美里じょうよう みさとさん。年齢は二人より上だけど、一応ここでは2人が先輩ってことになるからちゃんと面倒を見てほしい」

そんなこと言われても、普通に俺なんかより接客の経験豊富だろ!!!

俺は心の中でそう思った。なにせ彼女はこの前四季神さんとさくらさんと3人で出かけた時に入ってコンカフェで働いていた「★みさと★」さんで間違いない。そして彼女は、興奮気味にマシンガントークを繰り出す四季神さんに対して笑顔を絶やすことなく常に最善と思われる返答をしていた。ずっと俺たちのテーブルに居てくれたので、俺とさくらさんもお話ししてもらったのだが、その時に聞いた話だと勤務歴4年目で4年連続店舗人気ランキングナンバー1だと言っていた。先輩、後輩の定義としては大地さんの解釈で正しいと思うが、さすがにこれは後輩がビックすぎるぜ、、、


「あ、改めて。俺は桜木翼。これからよろしく」

まあ、決まったことは仕方がない。これからのことはこれから考えればいい。もっとも、こんな偶然は些細な事でしかない。なにせ俺は、100年後の未来から急にこの時代まで飛ばされてきたのだから。俺のほうがよっぽど異常である。


「わたしは乙木さくら。分からないことあったら何でも聞いてね」

さくらさんも似たようなことを思ったのか、概ねいつもの調子を取り戻していた。


こうして俺の働く喫茶店に新たな仲間が加わったのだった、、、

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