第7話タイムリープの"本当の"問題点
「そういえば、コンカフェは辞めちゃった、、、んですか?」
その日の昼。俺はいつものように一旦店を閉めて昼食を取っている時に、俺の仕事場の後輩にして、飲食店バイト業界大先輩の常陽さんにそう尋ねた。
「はい。もう辞めました」
「お店での人気も高かったみたいですけど、ほんとに良かったんですか?」
俺がそう聞くと、さっきまでの笑顔からは程遠い、虚ろな目をしてどんより俯いてしまった。
「ええ、、、それはもう。ずっとやめたかったんで」
「そ、そうだったんですね、、、失礼しましたー、、、」
って気まず!!こっからどう声をかけりゃいいんだろうか、、、
「こ、コンカフェって結構大変だったんですか?」
「ああ?」
めっちゃコミュニケーションミスったー!!!すごい形相でこちらを睨んでいる。え?普段はこんなんなの?俺がコンカフェで見たのは幻想だったの?
俺はこれからのバイト生活を思ってすごく不安な気持ちになった。もうコンカフェの話題には触れないでおこう。
● ● ● ●
「今日学校で、前の休みに、風紀委員長の四季神さんが男の人と一緒に楽しそうに歩いてたって噂がとんでもなく隅々にまで広まってたんだけど、桜木くん、まさかとは思うけど四季神さんに何か変な事してないよね?」
営業終了後。夕食を終え部屋に戻ってゆっくりしていたところ、さくらさんが入ってきて、そんなことを言った。
「別になんにもないよ。さくらさんに言われて、送って帰ってただけだよ」
「ふうーん」
事実を語ったつもりだが、さくらさんはどうにも納得いっていないようだった。
「実は、聞いた話はそれだけじゃないんだよね〜」
「何を聞いたか知らんけど、俺は何も、、、」
「何でも、二人で抱き合ってたそうじゃない!!!それで?「何にもなかった〜」なんて、よく言えたねっ!」
そう言ってさくらさんは俺の頭を両手でぐりぐりして来た。
「ちょっと待て!そんな事してない!!車が来てて危なかったから手を引いたら、四季神さんがバランスを崩してもたれ掛かるようになってしまっただけだ!!!」
「言い訳はよしなさいっ!!」
「だからいいわけじゃない!!」
なおもぐりぐりを辞めないさくらさんに対抗して、俺もさくらさんに一発ぐりぐりをお見舞いしてやろうという所で困ったような顔の大地さんが部屋に入ってきた。
「二人とも、仲が良いのは良いけど、、、もっと静かにお願いね」
「ちっ違っ!!誤解だよ!誤解だってばお父さーーん!」
「ちょっ、さくらさん急にっ、うおっ!ぐえっ」
さくらさんは顔を真っ赤にして即座にぐりぐりしていた両手を離し、俺を壁側に突き飛ばして泣きそうな顔でお父さんを睨みつけている。
さくらさん、とりあえず唐突に人を突き飛ばすのはやめようね。結構痛かったぞ。
● ● ● ●
「そ、それはそれとして、どういうことなの桜木くん!!」
「まだ何かあるのか、、、今度は一体なんだ」
大地さんが「ま、そういうことだからよろしくね?」とだけ残して部屋を出て行ったあと。
まだ何か思うところがあるらしいさくらさんがつっかかってきた。
「その時聞いた話に、どうやらその四季神さんのお相手は未来人らしいーとか、未来予知能力を持ってるーみたいな話になってて、そのことを問い詰められてた四季神さん、ものすごく大変そうにしてたんだけど、一体どんな話してたわけ?」
「いやいや、別に大した話では、、、四季神さんは俺が未来から来たって知ってるんだから、多少は話すだろ」
「でも、今回みたいに周りに聞かれたら、桜木くんだって困るんじゃないの?」
「そ、それは確かにそうかもな、、、」
俺はさくらさんの意見を否定することができなかった。よく考えたら、この時代にはまだ、俺たちの時代で当たり前になっているものでも存在しなかったり、逆に俺たちの時代ではもう存在しないものだってある。この時代では普及しているスマートフォンだって、俺のいた時代では古ぼけた、性能の低いもので、それこそ、歴史博物館に展示されたり、歴史の教科書くらいでしか見ることは無いものなのだ。
俺はさくらさんの意見を聞いて思った。
”もし、この時代に無くてしかるべき技術の話や、未来に起きる災害を、この時代の人間にうっかり広めてしまうようなことがあればどうなるのか?”と。
この世界は、俺のいた100年後と技術力や科学の進歩は大きく違っているが、文化や社会の仕組みは100年後と大差がない。多少、通信の面や移動の面で不便に感じるだけだった。だから、俺は今までこんなタイムリープものの中で最も初歩的ともいえる様な問題に、一切の疑問を抱くことが無かったのだ。
俺はいつか元の時代に帰りたいと思っている。でももしその時、この時代が、俺のいた時代の「正解」と外れていたら?もし、俺の知っている歴史と「ずれて」しまったら?俺は元の時代に帰れるのだろうか。
俺は死んでいないだろうか?生まれているだろうか?
例えば、だ。
ここに、今まさに結婚式の最中の男女がいるとする。聞くにこの男女の出会いは、男が分かれ道を「右に曲がった」所から始まったそうだ。ならもし、男が分かれ道を「左に曲がっていたら」?この男女は出会うことすら無かったかも知れない。もしそうなれば、そのあとに生まれてきたかもしれない子供や、その子が生み出したかもしれない「何か」まで失うこととなる。つまり、だ。
俺が元の世界に帰るためには、すでに俺の事情を知っている3人以外、誰にも俺の秘密を知られるわけにはいかない。
俺はそのことに気づくと、その緊張からか背中にひやりと冷気を感じた。
「ちょっと!黙ってないで何とか言いなさいよ!!」
、、、と思ったら、俺が長いこと黙り込んでいることにしびれを切らしたさくらさんが俺の背中に金属製の定規を当てているだけだった。紛らわしい。ほんっっっとに紛らわしいからすぐにやめていただきたい。
でも、、、
ほんとにそのことは気をつけておかないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます