10 沈むように眠る
夢を見ることもなく、重力を感じることもなく、ただ下へ下へ、底に辿り着いたことすらわからないくらい静かに沈んでいく。
沈んでいった先の底は、ほんのり灯りがついていて、真っ暗闇よりは暖かみのある薄暗がりの、兎に角、底はふかふかでひんやりとした中にわずかばかりの温もりを丸めた身体で抱きしめながら、良き夢も悪し夢も見ることなく、穏やかにこんこんと眠りたい。
仕事の理不尽から、実家からの理不尽から、生きながらに逃げ込む先は、薄暗がりの洞窟で、滲み出た水で濡れたごつごつの地面で眠りにつく。
到底、安らかに眠れるわけもなく、悪夢を見ては、自分が叫んだ声で飛び起き、見ていたはずの悪夢は叫び声とともに、洞窟の尖った岩肌にぶつかって消える。
理不尽だと叫ぶ気力はあれど、闘う気力はない。
優しく揺らめく炎を灯したランタンを手にして、いつか悪夢の洞窟から抜け出せる日は来るのだろうか。そもそも、わたしにそんな気力が溢れ出てくることがあるのだろうか。
通りすがりの誰かが手を差し延べるだなんて幸運に期待するだけ無駄だと、幾度も味わった悪夢の洞窟の奥深く、薄暗がりのなか、わたしは今日も濡れた地面をぺたぺたと手探りでランタンを探している。
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