第8話 厳格な審査
墓守をしているわたしの先輩もまた不死族である。体のほとんどが
そんな先輩は、現在わたしが墓守をしている墓場の片隅にある墓に眠ってわたしの仕事を見守ってくれている。必要以上に接触はせず、有事が起った際に助言をしてくれる。
本来なら先輩はわたしに今働いている墓場を任せ、引退して墓場で眠りにつくのだが、先輩の希望で引退はしないでいる。
「そりゃあ、お前が墓守をきちんと出来ているかちゃんと見届けないとな。でないと以前の様に虫取り網で一生懸命幽霊を捕まえようとする姿を見る羽目になるからなぁ。」
それは言わないでほしい。事実ではあるが、過去の失敗を掘り下げられると心に来るものがある。
「それよりもお前、ちゃんと墓の手入れは出来ているのか?ドジって墓を壊したりしてねぇだろうな?」
「しっしてないですよぉ!」
必死に訴えるわたしだったが、先輩はそんなわたしの心を読み取っていた。やはり先輩はすごかった。
「いや、目線を思いっきり逸らされれば誰だって気付くだろ。」
「…はい、すみません。」
結局先輩にはわたしが墓の手入れで
「十分にやらかしてるだろ!ちゃんと墓の持ち主と親族の方々には謝罪したのか!?」
「しました!」
少し怒られたが、相手はどこか諦めの様な、複雑な表情をしていたのを覚えていた。
「墓参りに来る奴らにまで、お前のドジが認知されてんのかよ。」
先輩は呆れた表情でわたしに不審な目線を送って来た。
「いや、一度した失敗はもうやりません!今日、それを証明します!」
わたしは墓守として、先輩に認められるために早速新しく立って墓石の手入れをする様を見せる事にした。先輩はまだ訝しげな表情でしたが、折角先輩に指導されて就いた仕事だからしっかりとやらなくてはいけない。
そういう事で先輩を連れて目的の墓へとやってきた。新しく立ってから一度も手入れをしておらず、雨が降ったりして泥が付いてしまっていた。
「泥汚れか。こっちはどうにかなるが、こっちの水垢は細かい場所だから気を付けねぇとな。」
「はい、大丈夫です!ちゃんと道具を用意しました。」
言いながら、墓へと向かう途中で物置によって持って来た手入れ用の道具を先輩に見せた。水を張る桶に墓石を磨くための道具、毛の柔らかい
もちろんこれらを用意するのは基本中の基本、どれかが欠けていては意味が無いのは重々分かっていた。しかし、それでもいつもどれかを忘れて、欠けてしまう事があるため、持って来ただけでも自分を褒めたくなる。先輩はそうはいかないが。
「よし。それじゃあ最初から最後までお前一人でやれ。きちんと出来たか、俺が最後に見てやる。」
「はい!こうしてもらうのも、最初の頃以来ですね。」
「あぁ。本来ならもう見てやる事など無い筈だったんだがな。」
「…それに関しては申し訳ありません。」
先輩に言われてしまい、わたしは改めて掃除を完遂させようと意気込み、掃除を開始した。
やる事は単純、上から順に水を掛けて汚れを擦り落とし、最後に乾いた綺麗な布で水気を拭き取る。墓石の中には細かな装飾が施されているものがあり、その時には繊細な作業が要求される。
今回の墓石は他と比べて簡素な作りをしている為、難しい作業は無い。だからといって手を抜くわけもなく、わたしは汚れが残っていないか入念に墓を磨きながら見て回り、墓石の周辺も雑草が生えていないか確認もした。
「どうでしょうか!?」
わたしは自分なりに全て出来たと思い、先輩に最後の確認をしてもらった。そうして先輩も入念に墓石やその周囲を見ていき、ワタシの元へと戻って来た。
「…うん、今回は問題が無い様だな。合格だ。」
先輩の言葉を聞いて、わたしはうれしさから拳を握って肘を自分の背後に向かって突いた。
「これくらいではしゃぐな!全く、その様子では、他にも何かやらかしているだろうな。」
していない!と否定しても信用してもらえず、わたしはへこたれそうになった。まだまだ墓守としては半人前だと、自覚せざるおえなかった。
しかし、今回の墓石の手入れは認められたので、次回も精進していこうと誓った。そう思った矢先の事だった。
「あのぉ…うちの墓に、これが置いてあったのですが。」
そう言って墓参りに来たヒトが持って来たのは、わたしが墓の手入れに使った布きれだった。それを見てわたしは、掃除をし終えた後に布きれを墓石に置き忘れていた事を思い出した。
墓石の物を置き忘れるのは墓石やその持ち主、関係者に対して大変失礼な行為である。
そしてその失礼な行為をしてしまった事を当然先輩に咎められ、『半人前以下』の烙印を押されてしまった。また墓穴を掘ってしまった。
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