第7話 大変な幽霊狩り

 この世界に居る不死族と呼ばれる種族。それは命を持たぬシ体が生きているかの様に動く腐食屍体ゾンビと、肉体を失い意識だけとなった幽霊の二つに分けられる。本当は他にもいるけど、不死族と言えば大体この二つがあげられるから今はこの二つだけ覚えていれば良い。

 墓場はシ体を弔う場所出る事から、屍体が多く居るが、幽霊も墓場に居る。幽霊は存在が希薄であり、日に当たると姿が消えてしまう為、昼間の日が出ている内は見る事すら出来ない。

 結局屍体が動き出す夜の時間と同じく、幽霊たちが見せるようになる。そこまでは良いのだが、その幽霊の中には厄介な者もいる。

 幽霊は体が透けている。それは見た目だけでなく、物体としても透けており、壁や実体のあるものを通り抜ける事が出来る。それを利用して幽霊はよくいたずらをしている。

 不死族である以前の記憶がないのもあってか、幽霊は皆いたずらをする事が多い。日陰であれば薄っすらと姿が見えるのを使って死角から通行人を驚かしたりして他者に迷惑を掛けていた。

 そして墓守として許せないのが、墓場から抜け出す事だった。屍体の方々も喧嘩をしたりと騒ぎを起こす事はあれど、墓場から抜け出す事はしない。そこが屍体と幽霊との違いで、幽霊が自分の墓場から離れるだけなら良いが、墓場の地基地内を出ようとするのを防ぐ為、墓守としての仕事に掛かるとする。

 用意するのは特殊な作りをした大き目の網、これだけだ。幽霊除けの魔法が掛かった札だったり柵なのがあるが、それだと接触時した幽霊に損傷ダメージが入ってしまうとの事。シぬ事の無い不死族でも痛みを与えるのは申し訳ないので、損傷を与える策は行わない事にしている。

 しかしこの網を使っての脱走を行った幽霊の捕獲が大変である。


「待ちなさーい!あっこら!そっちは住宅街です!」


 全く持って申し訳ないが、わたしの動きでは幽霊の俊敏な動きについて行けず、なかなか網に幽霊をおさめる事が出来ず、未だに幽霊を追いかけている状態だった。


「おうおう!ドうしたぁ?もう墓場ノ仕切りはすぐそこだゾぉ?」

「分かってるなら仕切りに近寄らないでください!」


 わたしに向かって挑発をしてくる幽霊に怒りを込めて制止を掛けるが、全く聞き入れずにわたしから逃げていた。しかしそのまま真っ直ぐ仕切りに向かう事なく回り道をして逃げている辺り、脱走するためにわたしから逃げているのではなく、私をからかうために逃げ回っているのだと、数十分程追いかけ回している間に気づいた。

 幽霊はわたしから逃れようと木をすり抜け、余所の墓石をすり抜けて行く。わたしは実体があるためすり抜けるなんて出来るわけなく、遠回りをしなくてはいけず木や障害物を迂回したり、時折石などに足をつまずかせて転びそうになったり、実際に転んだりしてなかなか追いつけない。

 やっと網を振るえる距離まで近づいてもかすりもしない。疲労はたまらないけど心が疲れてくじけそうになった時、来訪者がやってきた。


「なんだなんだ?気になって近くまで寄ってみたら、そのへっぴり腰はなんだぁ?」

「あっ先輩!」


 振り返った先には、わたしに墓守としての指導をしてくれた不死族の先輩がいました。先輩は頭の大半を包帯を巻いており、包帯の隙間から覗く目は眼光が鋭く、ヒトからはよく怯えられていたが、わたしにして見れば背筋が伸びる頼もしい目つきだ。

 穴だらけの簡素な服を着ており、足など肌蹴ており整った身形とは程遠い見た目をしていた。服の中身は細く、乾燥屍体ミイラそのものだが、先輩の動きは屍体とは思えない、はきはきとした動きをしている。


「ほらっ網を寄越せ!少し手本を見せてやる。」

「あっはい!」


 先輩に言われ、わたしは大人しく先輩に網を手渡した。手渡して網を持った瞬間、先輩が何かに気づき動きが止まった。


「…おい、お前。」

「えっ?はい。」


 網を持ったまま、先輩はわたしのほうへとゆっくり振り返り、静かな雰囲気のままにわたしと向き合いわたしの肩に網を持っている手とは逆の手を置いた。


「お前がさっきから振るっていたこの網、幽霊を捕らえるための霊接触製の網ではなく、ただの虫取り網ではないか!」


 徐々に言葉尻に向かって声を大きく荒げていき怒りを露わにした先輩にわたしは慌てふためいた。


「すっすみません!まちがえて持ってきていました!」

「全く!お前のそのドジっぷりは相変わらずだな。様子を見て来て正解だ。」


 先輩の言葉に何も言い返せず、わたしは下げた頭を上げる事が出来ないまま網を取りに物置へと向かい走った。

 そして本来の網を見つけ、幽霊捕獲を再開した。


「まぁ網があっても、捕まえられなきゃ意味無いがな。」

「ほれほレー捕まエらるものなら捕まえテみなさーい。」

「うえーんっ。」


 結局やってきた先輩に世話になったまま、墓場に夜明けがきたのだった。くやしい。

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