第3話 奇怪な泥棒

 墓でも犯罪は起きる。墓石を壊す者に荒らす者。目的は怨恨だったりただの悪ふざけのつもりだったりと厄介この上ないが、中にはこの魔法の存在する世界特有のものもある。


「何故シ体を掘り出して、勝手に持って行こうとしたのですか?」


 墓守であるわたしは、今目の前で座り俯いている女性を問いただしていた。

 この女性は墓荒らしであり、俗にいう『シ体泥棒』だ。夜の時間、ヒトが眠りに着いた時間帯を狙っての事だったが、夜は逆に墓守や不死族の皆が活動を始める時間のため、意味は無かった。

 女性が掘り返して置いただろう土がついた棺が女性の横に鎮座され、それに女性はちらりと目を配りながらもわたしからの質問への返事を返した。


「…実は、どうしても欲しいものがあって。」


 座り込んだまま黙っていた女性がやっと口を開くと、シ体を持ち出そうとした理由をポツリポツリと話し始めた。曰く、何か『欲しいもの』の為に葉かを掘り起こしたのだと言う。


「うん?その欲しいものが持ち出そうとした『シ体』ですか?」

「あっ違うの!…その、シ体の…が欲しかった。」


 肝心な箇所が声の小ささで聞き取れなかったので再度確認をした。


「だから…シ体に生える『きのこ』が欲しかったの!」


 わたしが散々聞いて来る事に苛立ったのか、女性は声を荒げて言い放った。わたしは女性の言った言葉を頭の中で反復した。


「…それは、シカバネダケの事ですよね?」

「そう。丁度この墓の土の感じがシカバネダケが自生する条件に合ってたから。」


 シカバネダケは文字通りにシ体に自生するきのこだ。とはいうものの、女性の言う通り自生する条件が厳しく、土の状態にい棺の中のシ体の状態。それらが合って初めてきのこは生えて来る。

 大体は土の状態を見れば棺の中もどうなっているか予想出来ると女性は主張し、墓守であるわたしに今回の事を見逃して欲しいの願い出た。


「見逃すなんてとんでもない!そもそもあなた、こちらの墓の親族の方に話を通したのですか?」

「…『理由がどうあれ、ヒトの家の墓を暴くなどありえない。』と言われました。」


 つまりは断られたという事らしい。既に断られた後ならそこで諦めてほしかったが、女性の方はそうはいかないらしい。


「もう他の墓場では見つけられなかった!お願い!もうここしか頼りが無いの!きちんと棺は元の場所に戻すし、傷だってつけないから!」

「そうは言われましても。」


 女性は尚も粘り、わたしが対応に困っていると、わたし達の間に入って来る様にして声を掛ける者がいた。それは件の棺の中から聞こえた声だった。

 がたがたと音を立てた後にゆっくりと棺の蓋が開き、そこから出て来た手が蓋を押し開けて中で眠っていた屍体が姿を見せた。中のシ体も不死族だったらしく、棺の中の屍体は女性に向かって口を開いた。


「…あんだ、私の棺に用があるんだろう?今自分が言っだ事を守るだっだら用を済まぜでじまいなざい。」

「えっ!良いの!?」


 女性自身、屍体の方から願いを聞いてくれるとは思ってもいなかったらしく、目を見開き驚きを見せた。わたしは屍体に本当に良いのかと尋ねた。


「良いんだ。ごんな状態になっでも誰がに頼られるのは悪い気がしないがらなぁ。じがじ、彼女の望むものがはたして、本当にごの棺の中にあるがどうが」

「いえ、思いっきりあります。おじさんの頭の上にきのこが生えてます。」


 こうして棺の中の屍体からの許可が下り、女性の目的であるきのこを手にする事が出来、女性は目的を達した事で大人しく変える事となった。


「ありがとう御座いました!今回はご迷惑もお掛けしてしまい、本当に申しわけありませんでした。」

「いやいや、あんなに必死になっで頼む位だ。余程大事な事があっで、ぞのぎのごが欲じがっだんだろう。望が叶いぞうで良がっだよ。」


 棺の方はわたしが元通りに戻す事となり、女性には夜道を気を付けて帰ってもらう事とした。


「それにしても、一体そのきのこで何をするつもりなのですか?」

「あぁ。ちょっとした薬作りですよ。私、ずっと前から好きなヒトが居て、どうしてもそのヒトに思いを伝えられないでいたんです。

 そうしたら、そのヒトが見覚えの無いヒトと仲良さそうにして、あまつさえ手まで繋いで…もし進展がある様なら、あのヒト達を…して、私も…ふふっ。」


 女性は小さく、こちらにも聞こえるかどうかの声量で呟いた。


「あっすみません!ただの独り言なんで。では、私はこれで!」


 お詫びなどは後程と言い残し、女性は帰路へと着いた。そんな女性の後姿を見送り、わたしと棺の主は黙ったまま茫然としていた。

 わたしはもしかしたら、墓石を増やす算段に手を貸してしまったのかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る