第22話 河越夜戦の敗北コンビ vs 今川氏真


 ここから氏真視点に戻る。


 敗北者と言われて、仮面の男たちから殺気が漏れ出た。

 俺のカマかけはどうやら当たりのようで、こいつらも俺と同じく、戦国の世で滅亡や凋落を味わったやつららしい。


 ま、そもそも、戦国の世で勝者と呼ばれる人間は少ない。


 最後まで生き残って天下をとったやつが勝者、と定義してしまえば、それこそ弟弟子の家康アイツしかいなくなっちゃうしな。

 魔王と呼ばれた織田信長公ですら、野望の途中で殺されてしまったから、そういう意味では敗者となってしまうのだろう。


 さて、目の前の二人だ。

 仮面で顔を隠しているが、黒い炎をまとった刀を構えた。

 八双に構えて、俺をじっと見ている。




「覚悟しろ、氏真ぇっ!!」




 一人の男が刀を振るい、黒い炎の壁を放ってきた。

 どうやら闇魔力で作った炎らしく、魔王メルゴスと同じ効果だろう。




「そら」




 だが、俺も魔力を得ている。

 左文字に闇魔力をまとい、黒い斬撃を放つ。


 俺が放った斬撃は黒い炎壁を斬り裂き、二人の間を割るように通過した。




「うおっ!?」


「くっ!」




 仮面の二人は飛び退くが、そのせいで両者の間に距離ができた。


 うん、まずは右のヤツからサクッと始末するか。

 体格は優れているが、構えや足さばきがなんか微妙なんだよ、お前。


 俺は瞬歩を使い、右のヤツに接近し、斬りかかる。


 


「ぬううっ!?」




 体格の良いソイツはなんとか刀で応戦して、俺の攻勢を防ぐ。

 しかし、速度も威力も、こっちが上だ。

 二撃、三撃の時点で、この男の防御が追い付かなくなる。




「ほい、隙あり」




 防御に集中したことで、誘い、に引っかかる。

 右から斬りかかると見せて、逆から斬りかかることで、左腕を斬り落とす。




「ぐぁああああっ!!」




 左腕を落とされ、仮面の男がうめく。




「おのれ、よくも上杉殿をっ!!」




 仲間の片腕を切断され、左側にいた男が斬りかかる。

 ていうか、上杉殿って言ったぞ、コイツ。


 左側にいた仮面男は刀を突きこみ、俺に向かって黒い炎をまっすぐ飛ばしてきた。

 まあまあ悪くない突きだが、俺はそれもかわして、ひとまず距離をとった。


 


「……あんたら、もしかして」




 俺は記憶を呼び起こし、彼らの正体を探った。

 上杉殿と言えば何人か心当たりがあるが、公方くぼうに関連するとなると……


 


「俺の義父殿(北条氏康)に、河越かわごえの戦でボロ負けしたお二人じゃないか?」




 俺がそう言うと、仮面の男たちの空気が変わった。

 どうやら触れてはいけないことに、俺は降れてしまったらしい。

 

 殺気はさらに膨れ上がったが、それよりも怒りや恥辱のせいで、ワナワナと体を震わせている。


 図星、といったところか。




「貴様……よくも、よくも……」




 俺に腕を斬られた方は、腕の断面をおさえながら睨んでくる。

 

 そしてもう片方の男は、仮面を外して、俺に素顔を見せた。

 あ、コイツは一回見たことあるな。やっぱり俺の予想通り、義父殿に負けて落ちぶれた、最後の古河こが公方くぼうと呼ばれる男だ。


 たしか名前は、足利あしかが晴氏はるうじだったか。




「久しいな、氏真……おぬしの義父に大敗したが、おぬしの実父(今川義元)にも煮え湯を飲まされたゆえ……その顔を見れば、今でも当時の怒りを思い出すぞ……!」




 晴氏は静かに怒りをたぎらせ、俺を睨みつける。


 あー、たしか河越夜戦で負けたのも、当時の北条包囲網に参加していた俺の親父が、義父殿(北条氏康)と勝手に和睦したせいだったか。

 当時、俺がガキの頃だったから縁組同盟なんてずっと先だし、親父も氏康殿もめっちゃ仲悪かったんだよな。


 けど、二人とも、お互いの強さはどっかで認め合っていた。

 なので氏康殿は俺の親父と戦って消耗するよりも、さっさと領土割譲して話をつけて、ザコの群れ(足利晴氏と上杉朝定の軍)を河越で蹴散らしたんだ。


 晴氏と朝定からすれば、氏康殿も憎いが、さっさと自分の目的を果たして包囲網から抜けた俺の親父も憎いだろうなあ。

 アイツが抜けなければ俺たちは勝てていた!!とか思ってそうだ。




「うぬぅぅ……ならば、話が早い!! 義元と氏康から受けた苦しみ、キサマにそっくりそのまま返して、冥土にいる二人の下へと送ってやるぞおっ!!」



 

 腕を斬られた男も仮面を外し、血走った目で吼え猛る。


 あ、やっぱり、俺が腕を斬った男は、扇谷おうぎがや上杉うえすぎ家の最後の当主、上杉うえすぎ朝定ともさだか。

 朝定は河越の戦で討ち死にしたらしいから、仮面をとってもとらなくても、どうせ顔は知らんが。




「足利晴氏、上杉朝定、あんたら二人もまた、ドン・パウロ(一条兼定)と同じく、この世の中をめちゃくちゃにしたいってのか? 同じ国の人間が転移していたことにはもう驚かないが、あんまり悪さするもんじゃねえぞ」




 俺がそう言うと、上杉朝定が怒鳴る。




「おのれ、小僧が生意気な口を利くでないわ!! 戦乱で揉まれて散った扇谷上杉家の惣領である我に比べれば、貴様は親の七光りで生き延びた臆病者ではないか!!」


「一条兼定ごときを倒して、良い気になるなよ。あやつは小間使いに過ぎぬ! 我らはあやつのような庶流の公家とは違う。ましてや貴様のような、かつての敵に尻尾を振って生き延びた軟弱者でもないわ!!」



 

 まあ、たしかに俺はあんたらと違って、勇ましく戦ったとは言わねえよ。家康に頼って尻尾を振ったと言われても仕方ねえさ。


 戦国の世は弱肉強食の世界だ。


 あんたも、晴氏も、そして俺も、戦に負けて落ちぶれた。

 けど、往生際悪く、他人の足を引っ張る生き方をするのはどうなんだ??

 



「恥っずいなあ」




 俺が吐き捨てると、晴氏も朝定も、目を丸くした。




「目も当てられねえよ。敗けたおっさんたちが別の土地でヤンチャして粋がるとか、こっちが見てて恥ずいわ」




 挑発じゃなくて、割とマジにそう思ってる。

 俺もこの二人のことを言える立場じゃないが、世の中を荒らして他人様に迷惑をかけないようにしている。


 だが、この二人は違う。


 少女二人を人質にして、俺をおびき寄せた。

 ドン・パウロとグルになって、世の中も乱している。

 こいつらを好き勝手にさせれば、絶対に良くないことが起きるだろう。




「ほれ、おっさんども、早くかかってこい。俺の親父と義父に負けた『高貴で勇ましい武家』がどの程度なのか、俺が試してやるからよ」




 俺が指で、来い来い、と挑発すると、二人の目の色が変わる。




「戦から逃げた臆病者の青二歳ごときが……図に乗るなあっ!!」




 先に動いたのは上杉朝定だ。

 片腕から血があふれているというのに、もう片腕でめちゃくちゃに刃を振り回してくる。


 どうやらドン・パウロと同じく、すでに人間の体ではないらしい。

 よくわからんが、これも『公方様』の力によるものか?

 こいつら一味は怪物のような肉体を得るということか?



 

「殺してやるぞ、氏真ぇえっ!!」




 晴氏も横から回り込んで、俺に斬りかかってくる。

 

 朝定は力で攻め、晴氏は技巧で追い詰める。

 それなりに息が合っていて、攻撃後の隙を消すようにして、お互いを補い合って攻撃してくる。




「どうした、どうしたあぁっ!! 大口を叩いていたわりには、その程度かっ?」


「鹿島新当流を学んだ俊才と聞いたが、所詮は坊ちゃん剣術か? 我らのように本物の戦を知っていなければ、ママゴト剣術など物の役にも立たんわ!!」




 俺が防戦一方になっているのを見て、朝定も晴氏も、嬉々として攻めかかる。

 二人の黒い炎の刀が、次々と俺に襲いかかってくるが……どうやら二人は熱中しすぎて、俺の刀が黒い炎の魔力を吸収していることに気づいていない。


 俺の闇魔力は、相手の魔力と波長を合わせることで、魔力を吸収できる。

 夜叉ノ拳と同様に運用することで、可能だ。




「そい」




 頃合いなので、俺は二人の刀を同時にさばいて、




「ほいっと」




 同時に二人の胴を、真っ二つにした。

 もちろん、黒い炎のお返し付きで。




「がっ……!?」


「馬鹿な、キサマ、我らの太刀筋を……!」




 いや、とっくに見切ったよ。

 その刀の魔力を吸い取り放題だったから、だんだん可哀想になってきたくらいだ。



「ドン・パウロは普通に斬っても死ななかったからな。とりあえず切り口も焼いてみた。あんたらの黒い炎を使わせてもらったよ」




 俺は左文字を納め、二人を見下ろす。


 上半身と下半身が分かれた二人は、俺に対して、恨み骨髄といった目を向けてくる。うん、やっぱり彼らは死んでも変わらんよな。


 

 

「……あんたら二人も、まあまあ暗愚だよ。あんまり人のこと、とやかく言うもんじゃないし。来世ではそういうところ、気をつけた方が良いよ、ほんと」









 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第2章、第22話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 久しぶりの戦闘シーン、氏真の圧倒的な強さが見れて良かった!!


 ザコ武将たちの粋がりが、ある意味面白かった!!


 次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

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 鈴ノ村より

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