第18話 決着!! 今川氏真 vs 蒼竜学級



「いやー、スマンスマン。さすがに壊すのはマズイよな」




 氏真はからからと笑う。


 オーバーヘッドシュートで闇の球を蹴りこみ、柱を叩き折ったことで、生徒たちはあぜんとしていた。

 脚で魔力を操作するだけでも難しいのに、石の柱を叩き折るほどの威力を生み出すなど、常識外れである。


 そして、あの闇の球がもしも、人体に撃ち込まれていたら。

 間違いなく人体など粉々になっていたことだろう。




「なあ、これで本当に訓練になるのか? 言っちゃ悪いが、俺の場合、脚で魔力を操作する方が得意かもしれないぞ」




 氏真は頭をかいた。




「な、な……」




 生徒たちは言葉を失っていた。

 できるはずがないと思っていたことを、こんなにも容易くやられてしまうと、まったく次の手が思いつかない。


 氏真は次の言葉を待ったが、蒼竜学級の生徒たちは、ばつが悪そうに顔をうつむかせた。


 沈黙が広がったところで、氏真が口を開いた。




「あのさ、昨日から気になってたんだが、もういい加減に白黒はっきりつけないか? 俺も君らも、取り繕って過ごすのは面倒くさいだろう」


「な、何が言いたい!!」


「まだわからんのか。どちらが上かハッキリ決めようじゃないか、と言ってるんだ」




 氏真は生徒たちを見渡した。




「要は、俺のことが気に食わないんだろう。だったらこの場で決着をつけよう。その方が話が早い」


「お、お前、俺たちに攻撃するつもりか」


「いや、君たちだって似たようなことをしていたじゃないか。それに、まどろっこしい真似をしてに意味がないことはわかっただろう? もし怖いなら、刀も使わないし、全員でかかってきてもらっても構わんぞ」




 刀は使わないし、全員でかかってきても良い。

 その言葉に、生徒たちは耳を疑った。


 蒼竜学級の生徒は合計40人。全員が熟練の魔術師であり、冒険者で言えばC級程度の実力者ばかりだ。

 対する氏真は一人きりで、闇魔力も覚えたて。こと魔術戦においては、絶望的な戦力差のはずだ。


 しかし、生徒たちは踏ん切りがつかない。

 こっちが有利すぎる条件だと頭ではわかっているはずなのに、もしかしたら勝てないかもしれないという恐怖と不安が頭をよぎる。


 そんな煮え切らない生徒たちに対し、氏真は手まねきして、歯を見せる。




「かかってこい、ハナタレ坊主とションベン娘ども。お前らの親の代わりに、俺がケツを引っ叩いてやる」


「なっ……!!?」




 この挑発を受けて、彼ら彼女らは憤る。

 蒼竜学級の生徒たちは先祖代々、生まれた時から魔術師として活躍している。

 資源の少ない北国ブルフィンにとって、優秀な魔術師は誇れる資源なのだ。


 ゆえにエリート意識が強い。彼ら少年少女はすでに実力派の魔術師だが、それ以上にプライドが高かった。


 そのプライドを、真っ向から逆撫でされたのだ。


 昨日のマグダネル教授が倒された時のように、

 今のオーバーヘッドシュートを蹴り込んだ時のように、

 間接的にプライドを傷つけられたのではない。


 これ以上ないほどの直接的な挑発を受けて、プライドを傷つけられたのだ。

 

 ここで退けば、生徒たちにとって明日はない。

 一時入校の氏真との勝負を避けたとなれば、純血正統派としての、魔術師としての、権威はすべて失われる。

 昨日のような突発的な逃走と違って、挑発を受けた上での逃走は、魔術師としての未来を失うということだ。




「ふざけやがって! お前、ただじゃ済まさないからな!」


「なめるのもたいがいにしなさいよ! あんたみたいな所詮よそ者の野良魔術師なんかが、私たちに勝てると思ってるの?」


「後悔させてやるからな!! 覚悟し……」




 その瞬間、氏真から闇魔力の火柱が噴き出る。


 魔力の強さは、魔術師としての熟練度で決まる。

 氏真は魔術師としてまだまだ未発達であり、普通なら弱い魔力しか有しない。


 しかし、氏真の闇魔力は特別だ。

 彼の闇魔力は、闘気から派生したものである。

 ゆえに通常の魔力と違い、武人としての闘気が無限に噴き出る限り、闇魔力もまた無尽蔵に噴き出すのだ。




「ふんっ!!」




 氏真が腕を振るう。

 闇魔力がほとばしるが、生徒たちには何も起こらなかった。




 「な、なんだ? ただのこけおどし、か……」




 ある生徒がそう言った直後、屋外演習場の周囲を黒い炎が包んだ。

 高々と伸びた黒炎の壁が、演習場を囲み、炎の牢獄と化した。




「……は?」




 生徒たちが、目を見開く。


 


「わかるよな」




 氏真は全身に闇の魔力をまとい、構える。


 


「俺も、お前たちも、逃げられない。決着がつくまで、存分にやり合おう」




 その言葉を聞いた瞬間、生徒たちの表情が凍りつく。

 誰も逃げられない黒炎の壁が発生したことで、どちらかが立てなくなるまで、あるいは死ぬまで、最後まで戦う勝負に引っ張り出された。


 彼らはみな、優秀な魔術師の卵ばかり。

 しかし彼らは戦場を知らない。殺し合いを知らない。


 彼らはまだ、少年少女なのだ。




「じゃあ、やるか」




 氏真が、動いた。


 誰かが悲鳴を上げたが、


 その直後、ある少年の腹に、氏真の膝が打ち込まれていた。

 



「げ、ぼっ!?」


「はーい、おやすみ」




 少年は嘔吐して、崩れ落ちる。

 

 一瞬にして移動し、仲間を一発で倒した氏真を見て、彼らが抱く恐怖はふくれあがる。

 

 だが、そのようなこと、氏真が気にするはずもない。




「裏・飛鳥井流、八鶴の脚!!」


「がはぁっ!?」




 氏真は素早く移動し、別の少年に回し蹴りを浴びせた。

 少し手加減していたが、その威力は絶大だ。今度は複数人の生徒を巻き込んで、少年は吹き飛んだ。




「うぁあああ!! 強炎弾エルファイア!!」


赤熱連刃ボイル・ブレイズ!!」


「喰らえ、炎嵐ファイア・ストーム!!」




 蒼竜学級の生徒たちが、氏真に対して炎魔術を撃ちこんだ。

 燃える弾丸が、焼けただれた刃が、炎の竜巻が一斉に襲いかかる。




「これはめんどいな……裏・禅定拳法、三の型」




 氏真は魔力を高め、両手のひらを胸の前で合わせる。


 パンッという乾いた音が鳴った瞬間、氏真の背中から、


 真っ黒な闇の腕が四本、生えてきた。




「修羅ノ拳」




 新たに増えた腕と、元々の腕。

 合計六つの拳に闇魔力をまとい、拳打の嵐で、炎魔術をすべて跳ね返す。




「えっ……」


「さて、こっからは、ちょっと強くいくぞ」




 氏真の目が、ギラリと光った。


 魔力で腕を生やすなど、普通はあり得ない。

 ずっと同じ出力で、なおかつ繊細に魔力を操作するとなると、熟練の魔術師ですら難しいことだ。




「うっしゃああああっ!!」




 氏真が吼えて、生徒たちに襲いかかる。

 六本の腕が、全方位の生徒を殴り、突き、打ち倒し、存分に痛めつける。


 生徒たちも魔術を撃ちこむが、氏真には当たらない。

 そもそも、ほとんど避けられる。

 よしんば当たりそうだったとしても、闇魔力で作った腕に弾き飛ばされる。




「ひぃっ! もう、やめ」


「逃げろ! 殺される!!」


「ばか、逃げるってどこに!?」




 生徒たちに恐怖が広がる。

 破れかぶれに様々な魔術を撃ちこんでも、氏真には傷一つつけられない。


 氏真は刀を抜かず、素手で魔力を操作するだけで戦っている。


 しかし彼は六本の闇の腕を扱い、縦横無尽に暴れ回る。

 演習場のどこへ逃げても意味はない。

 誰もが氏真に追われ、追いつかれ、一撃で叩きのめされる。




「ゆ、許してくれぇええーー!!」


「ひいいい、嫌、いやぁああ!!」


「助けてくれぇっ、死にたく……!!」



 

 魔術師のエリートを輩出する、蒼竜学級。

 そんな彼らが、戦国の世にて生まれた暗愚の手によって、『戦場』というものを体に教えこまれていく。






 そして、三十分後。


「炎、氷、水、雷、風、土……魔術とは本当に多彩だな。うん、色んな魔術を見れたのは良い経験だったな。風と炎を組み合わせても、風と雷を混ぜても良い。みんな俺を殺す気で魔術を撃ってきたし、結果、悪くない訓練だった」


 氏真にとって、この時間はただの訓練だった。


 四方八方から様々な魔術が襲いかかってくる経験は、今後、魔界の門を壊す旅でも有効になってくるだろう。




「んじゃ、お疲れさん、みんな。俺は先に上がっているぜ」




 氏真は屋外演習場から去っていった。


 屋外演習場には40人の蒼竜学級の生徒全員が転がっていた。

 氏真にとっては訓練の一環であったが、彼ら蒼竜学級の生徒たちにとっては、完膚なきまで、文句などつけようのない、蹂躙だった。








「これだけ派手にやっとけば、カミラも動きやすいだろ」


 氏真は学院の校舎を見上げ、笑った。











 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第2章、第18話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 完膚なきまでに生徒たちを叩きのめして、スッキリした!!


 氏真の拳も蹴り技も、カッコいい!!


 次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

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 鈴ノ村より

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