第13話 学院の噂の四人組(うち三人は妻)
俺、お春、カミラ、ルルの四人が魔術学院に転入してから二時間後。
ある女子生徒二人組が、中庭に面する廊下を歩きながら話していた。
「ねえ、聞いた? 今日転入してきた四人組のこと」
「うん、なんか、すごく変わった人たちが現れたんでしょ? しかも魔力不能者もいるって……」
「いや、それもそうなんだけど、あのハル・レ・ウォンドラス皇女殿下がいたのよ」
「え? 噓でしょ、だってその人は帝国でも指折りの女魔術師だって有名だし、というか皇女様でしょ? そんな国の要人が、私たちと同じ生徒になんて」
「ほんとだってば! 私、前に家族でウォンドラス帝国に旅行した際に、魔術研究発表会を取り仕切っているハル殿下を見たもん!」
その女子生徒たちは廊下から中庭に出てきた。
俺とお春は、その中庭のベンチに座っていた。
「俺たちのこと、気になるか?」
「えっ!?」
俺が声をかけると、女子生徒二人はびっくりして振り返った。
「ふふっ、そんなに驚かなくても良いじゃない」
お春は微笑み、女子生徒たちの緊張を和らげようとした。
しかし、彼女らの笑顔はこわばっていた。
「は、ハル皇女殿下、その、ご機嫌はいかが、でしょうか?」
「あら、そんな堅苦しい挨拶しなくて良いわよ。ここでは私も一生徒に過ぎないんだから、気楽に接してちょうだい」
それからお春は、軽く頭を下げた。
「ハル・レ・ウォンドラスよ。噂には聞いていると思うけど、一週間、この学院でお世話になる転入生だから、よろしくね」
「同じく転入生の、今川氏真だ。よろしくな」
「あ、あの、私はダリアと言います!こちらこそよろしくお願いします!」
「私は、アンナです! 私たちはどっちも緑亀の学級の一年です!」
ダリアとアンナは緊張した様子で頭を下げた。
「ダリアとアンナね。私たちは蒼竜の学級に在籍しているけど、学内で会ったら、また挨拶させてもらうわ」
「は、はい!! 光栄です!!」
それから二人の視線が、俺の方に移る。
嫌悪感はないが、稀代の大魔術師兼、帝国の皇女であるお春と一緒に座っている、この俺の存在が不思議なのだろう。
「ち、ちなみに、その、ウジザネさんとは、どういうご関係で……」
「ああ、私の夫よ」
「「……へっ!?」」
女子生徒たちが目を丸くする。
「えと、あの、だ、だだ旦那様、ですか? 皇女殿下の?」
「そうよ。私の最愛の人なの」
お春は俺にしなだれかかり、艶美に微笑む。
そんなお春と俺を見て、女子生徒たちは、俺たちが夫婦であると確信したようだ。
「……失礼ですが、質問してもよろしいですか?」
女子生徒ダリアが、尋ねてきた。
「構わないわよ」
「その、旦那様は、魔力が一切ないように見受けられます。なのに、この魔術学院に入学して、何かを学ぼうとしている……なにか、深いわけでも?」
「まあ、それは気になるわよね」
お春は説明することにした。
「隠してもしょうがないから教えるけど、今、世界各地で魔界の門が出現しているのよ。この件が始まってから一週間くらいしか経ってないから、まだ各国も情報が揃わず、それぞれでなんとか対応しているけどね」
「魔界の門、ですか!? でも、このブルフィン国では、まだそんな情報は」
「ブルフィン国では、北エルフの里に魔界の門が出現したわ。それは私たちが壊しておいたから、しばらくこの国は安全だと思う。問題は、他の国なのよ」
魔界の門と聞いて、ダリアたちはあぜんとしていた。
自分たちの知らぬ場所で、国難と呼べる事態が起こり、それを目の前の二人が解決したと聞けば、すぐには受け止めきれないのだろう。
「で、その魔界の門は私の魔力で壊したけど、正直ここからがしんどいのよ。世界各地の魔界の門を壊すためには、夫にも魔力を得てほしいところでね。私の見立てでは、夫は闇の魔力の素養があるし」
闇の魔力と聞いて、二人とも一気に後ずさる。
厳密に言うと、俺から距離を取った。ちょっと傷つくな……。
「や、やや、闇の魔力、ですか?!」
「人間がそんな魔力、扱って良いんですか? なんかヤバい怪物に変身したり、凶悪な魔術師になったりしませんか?」
恐れる二人に対し、お春は呑気にあくびした。
「んー、なんとかなるわよ、うちの旦那だし」
「おい、なんか俺に適当過ぎないか、お春」
「心配しても仕方ないでしょ。だらだらしてたら、各国の戦力が疲弊して、魔物たちに小国が滅ぼされて……そこで戦争が起きたりして……収拾がつかなくなるから」
なるほど、今は各国が独力で耐えてるから問題ないが、いずれジリ貧になる。
そうなれば人間の国どうしで戦争が起きたりして、世界中がめちゃくちゃになる。
魔物たちに国が滅ぼされるケースもあれば、同じ人間どうしで争って、足を引っ張り合うケースもある。
「あと、私の実家であるウォンドラス帝国も抑え込みたいのよ。帝国の軍事推進派が動けば、魔物の攻撃で弱った小国を侵略しかねない。他人様の国に迷惑かける実家とか、恥ずかしくて申し訳ないからね」
お春はベンチから立ち上がり、女子生徒二人の肩に手を置いた。
「心配ないわ。あなたたちが平穏に魔術を学べる環境は奪わせない。一人の魔術師として、帝国の皇女として、この件は私を信じて任せなさい」
一般的な女性よりも長身なお春が、女子生徒に微笑みかければ。
同性であっても、魅力的な大人物に映るに違いない。
案の定、その女子生徒たちは頬を染め、こくこくとうなずいた。
「わ、わりました。本当にその、ウジザネさんに、魔力が発現するのかどうかは疑問ですが……私たちは信じて、応援したいと思います!」
「わ、私もです! 魔界の門は危険ですし、それを解決しようと行動しているハル殿下やウジザネさんは、とても素敵な方々です!」
「ふふ、ありがとうね」
うわー、さすが大国の皇女殿下だ。
ある意味、俺よりはるかにカリスマ性を発揮してやがる。
と、そこで。
学院の購買にスイーツを買いに行っていたカミラとルルが、帰ってきた。
「ただいま戻りました、ウジザネさん、ハル殿!!」
「ついでに、二人の分も買ってきた。カミラお姉ちゃんのセンス、面白い」
ルルはイチゴ味のソフトクリーム、カミラはバニラ味のソフトクリームだ。
ちなみにソフトクリームとは、牛の乳から作られているらしい。
「はい、お二人はグリーンティー味です。極東国シバの茶葉の味がするらしいので、お二人の故郷の味に近いのではないかと!」
「おう、ありがとうな。どれどれ……」
緑色のソフトクリームを受け取って食べてみると、たしかに抹茶に近い味がした。
「へえ、これは美味しいわね!」
お春も満足そうに食べている。
「あ、あの、この方たちは?」
女子生徒たちは、合流したカミラとルルを交互に見る。
「あ、申し遅れました、カミラ・リュディガーと申します。ルークス王国出身の冒険者兼、ウジザネさんの側室です」
「同じく、側室候補のルル・アラドリエル。よろしく、可愛いお姉ちゃんたち」
側室、と宣言した二人を見て、ダリアとアンナは言葉を失っていた。
そしてダリアたちの視線が、俺の方を向いた。
わ、わあ、俺のことを、とんでもない存在を見るような目で見てる……
そして何気に、ルルが側室候補って宣言してたぞ、おい。
滅茶苦茶、外堀を埋められている感がする。
「あ、ああっと、カミラもルルも、実技授業の準備しに行こうか。お春、演習場ってどっちだったっけ? 案内してくれないか?」
「ふふ……そうね、そろそろみんなで行きましょうか」
お春は俺がこの場から離れたがっているのを察してくれた。
それで、俺たちはそそくさとその場から離れた。
正確に言うと、ダリアとアンナから離れた。
「ど、どういう人なんだろう、ウジザネさんって……今は魔力がないのに、闇属性の魔力を得ようとしていて……しかも、なぜか奥さんが三人もいて……」
「一人目は妖艶な魅力あふれる皇女殿下、二人目は金髪碧眼の凛とした美女剣士、三人目は北エルフの幼い姫君……ね、年齢のストライクゾーンも、幅広いのかしら?」
「わからないわ……相当ヤバい人なのか、大物なのか……」
……という話し声が、背中から聞こえた。
なんか、めちゃくちゃ失礼なこと言われてるな。
悪意はないが、理解しがたくてドン引きされているとか、ひどすぎる……
なお、その日から、俺たちのことについての噂がさらに広まった。
特に俺は、「三人の妻をはべらせている絶倫男」とか「魔力がない代わりに精力は有り余っている魔力不能者」とか……まあ、色んな呼び名がつけられた。解せぬ。
さて、俺たちがダリアとアンナの二人と会ったその日の午後、
早速、転入一日目の午後の実技授業。
「この魔術学院は由緒正しき場所であり、元から魔術が使える者がさらに選抜されて入る、聖域なのだ」
丸々と太った魔術教授が、俺に対して杖を構えた。
「君の実力は私が測る。もし本当に魔力が使えないのなら、退学を申し渡そう」
と、いきなり実戦が始まった。
俺たち以外の蒼竜学級の生徒は敵視しているため、助け舟は当然なく。
ちなみに、左文字は使っちゃダメらしい。
最初から難易度、おかしくないか?
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
第2章、第13話を読んでいただき、ありがとうございます!!
氏真が色んな意味で噂されているのが面白い!!
ここから氏真が闇魔力を得るのかどうか、すごく気になる!!
早速の模擬戦、どんな展開か楽しみ!!
次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!
と、思ってくださいましたら、
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また気軽にコメント等を送ってください!!皆さまの激励の言葉が、鈴ノ村のメンタルの燃料になっていきます!!(°▽°)
皆様の温かい応援が、私にとって、とてつもないエネルギーになります!!
今後ともよろしくお願いします!!
鈴ノ村より
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