第10話 ハルさんの極大火炎魔術、炸裂


 


 お春とカミラが打ち解けて、カミラが俺の側室になると決まったところで。


 俺とお春とカミラの三人は、魔界の門を破壊しに向かった。

 

 ちなみに俺とカミラは馬に乗っているが、ハルは風魔術で飛行して移動している。




「私の最大火力の魔術をぶつければ、魔界の門を壊せるけど、かなりの準備を要するわ。それまで氏真様あなたとカミラには、私のそばに魔物が近づかないように守ってほしいのよ」




 向かっている途中で、お春はそう言った。




「本当に、お一人で魔界の門を壊せるのですか?」




 カミラは尋ねた。

 魔界の門を壊すというのは、並大抵のことではない。

 それを知っているからこそ、お春の凄さを受け入れがたいのだろう。




「間違いなくできるわ。ただし、魔力を集中させている時の私は無防備だから、二人が魔物から守ってくれないと、私だって死ぬ可能性がある」




 お春はそこで、意地悪そうな笑みを浮かべた。




「それとも、あなたからすれば、邪魔な正室がいなくなる好機かしら?」


「そんなことありません!! 私だって誇りがありますし、ハル殿とともにウジザネさんをお支えしたいと心に決めています! あまり見くびらないでください!!」




 カミラはきっぱりと否定した。




「ふふっ、そんなことわかってるわよ。真面目で可愛いわね、まったく」


「ちょっ、いたたっ、やめてください!」




 馬と並走するように飛んでいるお春は、カミラのもとに近づき、カミラの頭をわしゃわしゃと撫でまわした。

 おい、あまり乱暴に撫でるなよ、カミラが馬を制御できなくなったら事故るぞ。






 それから俺たちは、魔界の門があった場所に到着した。


 あれから少し時間が経ったせいか、魔物たちが増えている。もちろん最初の頃のような数ではないが、やはり継続的に魔物が湧くらしい。




「お春、どうやって魔界の門を壊すんだ?」


「魔界の門に向かって、巨大な火炎をまっすぐ発射して壊すわ。一番適している発射場所は、魔界の門の正面の二十歩分(20メートル)ってところかしら」


「一番魔物たちが殺到する、逃げも隠れもできない危険な場所ですね。どれくらいの時間、ハル殿を守れば良いんですか?」


「百秒ってところかしら。それくらいの時間、魔力を集中させれば、問題なく魔界の門を焼き払えるわ」




 焼き払うと聞いて、カミラが心配そうな顔をした。




「森が火事になることは、ないんですよね?」




 カミラは北エルフ族の姫君ルルと仲が良い。

 森が焼ければ、ルルが悲しむと考えているのだ。




「大丈夫よ。ちゃんと範囲を絞って門を焼くから、森に被害は出ない」


「それなら良かったです」


「じゃあ、さっそく行きましょうか」




 お春は空を飛び、魔界の門の真上まで移動した。


 次に俺たちが、魔物たちがうごめく広場に飛び出す。

 お春が最もいい位置に立つために、俺たちが場所を空けなければならない。


 要は、お春が魔術を発射する場所を蹴散らして、それから近づけなければ良いってだけだ。

 それなら片っ端から斬りまくるのみ。簡単な仕事だ。




「鹿島新当流、乱ノ太刀っ!!」




 左文字を抜き、乱れ舞って斬りまくる。

 終わりなき舞いを、魔物の血しぶきが彩る。




風烈長剣ウィンドソード十文字クロスッ!!」




 カミラも剣に風をまとい、まず縦一列を叩き斬ってから、横一文字に薙ぎ払った。

 集団殲滅力なら、カミラは俺にも負けていない。




「素晴らしいわ。あの人の剣術、久しぶりに見たけど……やっぱり、あの人の剣は天下を揺るがすほどの剛剣ね。あの人を見くびらなかった大名は数えるほどしかいなかったけど、彼らの目利きは間違いなかったのね」




 次にお春はカミラに目を向けた。




「カミラも、予想以上にやるわね。あの風魔術も、磨けばもっと強くなりそう」




 それからお春は、俺たちが空けた場所に降り立つ。




「戦場を彩れ、焔よ、くゆれ、渦巻け、収束し、我が手に集まれ」



 

 お春が、魔力を集中させ始めた。

 

 ここから百秒だ。あとはお春を守り切るのみ。


 

 お春が魔力の集中を開始したことで、魔物たちが殺到する。

 これは阻止しなければマズい、と本能で判断したのだろう。




 「させるかよ」




 俺はさらに速度を上げて、魔物たちを撫で斬りにしていく。

 俺の妻に触れようなんざ、百年早いんだよ。


 ここは、さらに畳み掛けさせてもらうぜ。

 万に一つも、いや、億に一つも、お春に触れられると思うなよ。




「鹿島新当流、秘伝ーーー百篝ももかがり




 俺は呼吸を整え、お春の全方位を駆け巡りながら、左文字を振るう。

 何度も、何度も、稲光が連続で爆ぜるがのごとく、周囲を八つ裂きにする。



 これぞ、乱ノ太刀を超えた大技、『百篝ももかがり』だ。


 鹿島新当流の秘伝は、雷神タケミカヅチになぞらえた技が連なる。

 最速かつ最強の自然現象、それが『雷』である。


 鹿島で伝わる剣技を究めれば、いずれ人は、雷神へと至るのだ。




「さすがね。身内びいきかもしれないけど無双の剣豪だと思うわ、旦那様」


「はっ、買いかぶり過ぎだぞ、奥方」




 俺とお春は笑った。


 これでお春の全方位から群がった魔物たちが、かなり減った。

 まだまだ魔物たちが押し寄せてくるが、包囲は緩んだ。


 しかし、ここで、魔界の門から、増援が出てきた。

 現れたのは5人の首なし騎士デュラハンで、全員が黒い大剣をかついでいる。




「面倒なのが来た。しゃあねえな」




 俺は魔界の門に近づき、デュラハンたちを先手必勝で制そうとした。




「ウジザネさん、私に任せてください」




 そこでカミラが前に出た。




「ハル殿のそばを、ウジザネさんが固めてください」


「だが、相手はデュラハンたちだぞ。大丈夫か」


「大丈夫です。私も、ハル殿に負けないように戦いたいのです」




 そしてカミラは、風の剣を構えた。

 彼女の魔力は消耗しているはずだが、風の剣の強さは変わっていない。


 

 自分で言うのもなんだが、カミラは俺の側室になれるとなってから、雰囲気が変わった。

 今までよりも格段に、魔力と闘気が充実している。

 喜びと同時に覚悟が決まり、なんていうか、武人としての段階が上がったのだ。


 恋する乙女は無敵、という俗説もあながち間違いではないのかもしれない。




「行きます!! 風烈長剣、十文字ッ!」




 デュラハンたちに向かって、カミラは風の大剣を縦一文字に振り下ろす。


 5人のデュラハンのうち、4人は左右に飛んでかわした。


 だが、1人だけカミラを侮っていたのだろう。

 その1人は黒い大剣を構え、風の大剣を受け止めようとした。


 その侮りが、仇となった。

 カミラの渾身の大上段斬りは、彼女にとって格上であるデュラハンの体を、真っ二つに叩き斬った。




「まだです!! はぁああああっ!!」




 カミラの魔術は、まだ終わらない。

 続いて横一文字に薙ぎ払い、左右に逃げたデュラハンたちのうち、二人のデュラハンの胴を斬り裂いた。


 大技により、自分より強いデュラハンを3体も斬った。

 とてつもない躍進だが、ここでカミラは片膝をついてしまった。剣にまとわりついていた風もなくなり、剣は地面に刺さった。


 カミラが片膝をついたのを見て、残った2体のデュラハンたちが襲いかかる。



 

「よし、後は俺が……」


「待って、あなた」




 お春が俺のことを止めた。




「彼女の風魔力はしぼんでいないわ。信じましょう」




 お春は、そう言った。


 次の瞬間、地面に突き刺さったカミラの剣が、風魔力を帯びた。

 魔力をあまり感じない俺でも、ここまで来れば、ビリビリとした強い力の動きを感じ取った。




「ーーー嵐の剣ストーム・ソードッ!!」




 これまでにないほど、凄まじい風が吹く。

 そして、風が爆ぜ、竜巻を起こした。


 カミラの周囲に発生した竜巻が、彼女の左右から迫ったデュラハンを、ズタズタに切り裂いて吹き飛ばした。


 今まで俺が見てきたカミラの技の中で、最高の威力だった。

 全方位に向かって無数の風の刃を放つ竜巻、これがカミラの奥の手だったのだ。


 そして彼女は見事に、5体のデュラハンを全滅させた。

 意外なのは、彼女の活躍を最後まで信じていたのは、俺ではなくお春だったということだ。

 

 少し心配だったが、今後もこの女性二人で仲良くやってくれそうだ。




「あ、もう百秒経ったわよ」


「は、はいっ……う、ぐ」




 カミラは魔界の門の目の前にいるため、お春の魔術を撃つ邪魔になる。

 だが、渾身の風魔術を連発したせいで、すぐには動けない。




「よっと」




 まあ、俺が助けるんですけどね。


 俺はカミラを横からかっさらって抱き上げて、その場から瞬時に離れた。

 そして、すぐさま二人でお春のもとに戻ってきた。




「う、ウジザネさん……っ!」


「よくやったな、カミラ。すごい活躍だったぞ」


「えへへ、ありがとうございます!」




 カミラはそう言って、俺の首に抱きついてきた。




「まったく、存外に抜け目ない子ね」




 助けられたついでに抱きついたカミラを見て、お春はやれやれと首を振った。

 



「行くわよーーー極大火炎魔術、烈日れつじつ




 お春が両手のひらを前方に向けて、魔術を放った。


 とてつもない熱を含んだ炎が、光が、一直線に魔界の門にぶつけられた。

 あらゆるものを飲みこみそうな闇の穴に、まさに灼熱の太陽のごとき熱光線が放射される。


 そして。


 許容量を、一瞬にして超えたのだろう。

 あらゆる魔を吐き出し続けた魔界の門は、お春が放った熱光線を飲みこみきれず、派手に爆裂した。


 









  ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第2章、第10話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 旦那と妻たちの初戦闘シーン、すごく良かった!!


 3人が絆を育む描写がすごく良い!!


 次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

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 今後ともよろしくお願いします!!





 鈴ノ村より

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