第5話 戦場を彩れ、流鏑馬の絶技



「魔界の門? カミラ、どういうことだ?」




 初耳だった。聞くからにヤバそうなんだが。




「強力な魔物や闇の一族たちが住む世界……それを魔界と呼ぶのですが、その魔界とこの世界をつなぐ『門』が、数十年に一度、偶発的に発生するんです」


「なるほど。じゃあ、魔物がうじゃうじゃ出るからマズいってわけだな」


「そうです。しかも大規模の魔界の門となると、それこそ数えきれないほどの魔物がずっと現れてきてしまいます……!!」




 俺は北エルフ王のルドレス殿に提案した。




「ルドレス殿、俺とカミラも協力します」




 俺の言葉に合わせて、カミラもうなずく。




「……深く感謝いたす。そして、客人であるお二人に助けてもらうことになり、まことに申し訳ない。その代わりに、この城に保管している武器や物資は遠慮なく使ってくれ」




 ルドレス殿は苦々しい顔をしていた。


 本来なら北エルフ族の王として、自分の領域は自分で守らねばならない。

 だが、それ以上に。

 魔界の門が発生したということは、未曽有の大災害なのだろう。


 いや、災害ならまだマシだ。

 災害なら、その期間さえ乗り切れば、あとは復興まで努力するだけだ。


 しかし、魔物が継続的に出てくるということは、現在進行形で被害が拡大しまくるってことだ。

 自国に、いきなり敵軍が現れるようなものだから。





「私も行く。みんなを、里を、守りたい」




 そこで、ルルが名乗りでた。




「おいおい、そりゃダメだぞ、ルル」


「ルルよ、控えていなさい」




 俺とルドレス殿が、即座にルルを咎めた。


 自分の生まれ育った場所と同じ種族の仲間を守るために、自分も戦いたい。

 その気持ちは大いにわかるが、魔物が現れ続ける戦場は危険すぎるし、そもそもルルは北エルフ族の姫だ。王族が死んだら、それこそ国が立ち回らなくなる。




「でも、ウジザネと、カミラお姉ちゃんに何かあったら……」




 ルルは食い下がろうとしたが、そこでカミラが、ルルの目の前に膝をついた。

 二人の目線が、同じ高さになる。




「ルルちゃん、約束しよう」


「やく、そく?」


「うん、約束。あなたと私は友達で、恋のライバル。ウジザネさんを射止めるために競い合う、大切なライバル。だから、ちゃんと生きて帰ってくるから」


「本当?」


「本当よ……むしろ、ここでウジザネさんと一緒に戦って、絆を深めて、一歩リードしちゃうんだから!!」


「えっ、それは……ズルい、ズルい!! そんなあざとい吊り橋効果、お姉ちゃんのひきょうもの!! ズルっこ!! ムッツリスケベ!!」


「ちょ、ちょっと、ムッツリはダメ!!」




 ルルが頬をふくらませて、カミラが顔を赤らめて笑う。


 そんな二人を見て、俺は苦笑いした。

 俺のことを二人が取り合うのはもう慣れたもんだが、こうしてみると本当の姉妹みたいだな。




「ほれ、行くぞ」


「あっ、と……はい!!」




 俺が歩きだすと、カミラも立ち上がり、二人でルルに手を振った。


 さて、魔界の門だかなんだか知らんが、大事な友達の故郷を守るためだ。

 魔物だろうがなんだろうが、容赦しねえぜ。

 ここに魔王殺しがいたという不運、嫌と言うほど叩きこんでやる。








 俺とカミラはエルフ族の城の監視塔に移動して、戦況を把握することにした。

 エルフ族の里は広大な森林で、起伏に富み、なおかつ領土も広い。

 闇雲に加勢しても、森に迷って役に立てなくなりそうなので、地形を見るべきだ。




「うーむ、里の北西に魔界の門があるが、それよりも南西側の居住区がヤバいな。魔物と言えど、統制が取れてて、エルフが大勢いる場所に回り込んでやがる。まるで軍隊だ」


「ウジザネさん、もしかしたら、魔族がいるかもしれません」


「魔族って? 魔物と違うのか」


「はい、魔族は青い皮膚をした人間のような種族で、人間と同じように知能があり、言葉を話せます。単純な力であればほとんどの魔物の方が上ですが、魔族は魔術に長け、魔物を使役する術も使えるので、とても厄介なんです」




 魔物を使役する、人間のような種族か。

 今回の場合、魔物を統率して動かしているのは、当然ながら魔族の仕業だろう。


 


「なら、魔族を見つけたら優先的にぶっ殺そう。将をつぶせば魔物たちの動きも鈍るはずだろうし」


「ええ、急いで南西に行きますか」


「おう。グズグズしていたら、魔物の軍勢に里が包囲されてしまうから……よし、良いことを思いついたぞ」


「え?」


「後で教える。まずは出撃だ」




 俺はカミラとともに監視塔を下りると、エルフの城の武器庫から大量の矢をもらい、城の馬房に預けていた自分の馬に乗った。

 矢は矢筒に入る分だけ入れて、あとは馬の積み荷に乗せる。




「あの、ウジザネさん、なんで矢だけこんなに? しかも、馬に乗って……」


「最短最速で敵の軍勢を削るためだ。カミラ、お前さんも馬に乗って共に来い」


「あ、は、はいっ!」




 カミラは少し戸惑っていたが、彼女もすぐに馬に乗った。




「じゃ、行くぞ。なるべく頑張ってついてこい」


「わ、わかりました!!」




 カミラが馬に乗り終わったのを確認してから、俺は馬に合図を入れて、一気に加速させた。




「は、はやっ……」




 後ろでカミラの声が聞こえたが、とりあえず気にしないことにした。

 カミラも馬術に長けているから、そんなに引き離されないはずだ。多分。




「かなり激しくやり合っているな」




 エルフ族の里は、すべて森林だ。

 森林の中に多くの住居があり、自然とともに暮らしている。


 だが今は、その美しい緑の森林が、邪悪な魔物によって荒らされている。

 狼のような魔物、骸骨のような魔物、蛇のような魔物が、エルフ族に襲いかかり、彼ら彼女らを無惨に食い荒らしている。


 エルフ族も弓と魔術で応戦し、故郷を守ろうと奮戦している。

 少しばかり人間に対して高慢だが、彼らは誇り高くて勇敢だ。エルフ戦士の中で逃げる者はおらず、大人の女エルフは子どもたちを守りながら避難している。




「ふーむ、いけ好かないやつらだと思ったが、なかなかどうして……」




 俺はエルフ族に対する評価を改めた。


 打ち解けることは難しそうな奴らだが、少なくとも軟弱な卑怯者ではない。

 ともに戦場で戦う者としてなら、信用できる。




「あ、いたいた……そらよっと!」




 俺は馬を操りながら、和弓を構え、矢を放つ。


 すでに標的は、捕捉済みだ。

 

 矢はエルフ族の頭上を越え、木々の間をすり抜ける。

 一部のエルフ族も、魔物たちも、今の矢はなんだと驚いた。


 だが、矢の狙いは彼らではない。




「グアッ!?……ナゼ、ワタシノ場所、ガ」




 俺の放った矢は、青い皮膚のの頭蓋を射抜いた。


 魔族は少しカタコトな言葉を口にしながら、力尽きた。

 どうやら俺に射殺されたことに驚いているらしいが、魔物たちの奥でコソコソしてるだけだから、バレバレなんだよ。


 で、今の魔族が死んだことで、魔物たちの動きが鈍くなり、中には無謀な突進をしてくる魔物も現れてきた。

 もちろん考えなしに突進してくる魔物なら、エルフ族でも簡単に討ち取れる。

 あと、魔物どうしで喧嘩を始めたり、死体を共食いし始めた。どうやら魔族がいなければ、別種類の魔物はいがみ合うらしい。




「なんだ、一体……いきなりこいつら、同士討ちを!」


「まさか、今の一本の矢で、魔族を!?」


「あ、こ、こいつ……さっきの、魔王殺し……」


「この男が魔王殺しなのか!?」


「って、魔王殺しは剣士じゃなかったのかよ!? なんなんだ、今の射撃能力は!」




 エルフ族の若い戦士たちは、俺が弓矢で魔族を仕留めたことに驚いていた。


 そんな驚くことかね。つうか、俺は剣士じゃなくて、元武士だ。

 武士なら、馬術も、弓術も、あらゆる武術にも精通していて当たり前だ。俺の場合、それをガキの頃から叩きこまれたからな。




「よし、まずは一匹。次、行くか」




 俺は驚くエルフたちを尻目に、馬を駆って、森の中を縫い進んでいく。




「はい、見っけ」




 俺は馬上で矢をつがえ、放つ。




「ゲギャァッ!? オ、ノレェ……!!」




 またも魔族を仕留めた。

 いきなり現れた俺に首を射抜かれて、魔族はジタバタともだえてから死んだ。




「アイツダッ、アイツヲ、オイカケロッ!!」


「マテ!! ムヤミニ、オイカケルナッ!!」




 魔族たちはてんやわんやの騒ぎだが、俺には関係ない。



 この戦場では、俺は異質な駒だ。

 自分で言うと悲しくなるが、弓と魔術で応戦しているエルフ族の戦線に混じって刀で戦えば、ただただ邪魔なだけ。



 となれば、何が一番効率的か。


 それはエルフ族の邪魔にならぬよう、馬に乗って戦場の外側を駆け回り、目に入る敵たちを矢で仕留める戦法だ。

 つまり『流鏑馬やぶさめ』を用いた戦法、というわけだ。これなら戦場の広範囲を動き回り、削りたい敵だけを優先的に削れる。



 あとは移動速度と連射速度で、射殺しまくるだけ。

 森の中を疾くと駆け、矢継ぎ早に矢を放ち、一匹、二匹、三匹……と撃ち殺す。

 ええい、数えることすら面倒だ。目に映る魔物と魔族は、矢の餌食とするのみ。



 なお、エルフ族を助けたい、という感情で頑張っているわけではない。


 まずはルルの故郷を守り、ルルを悲しませたくない。

 だから戦う。殺しまくる。

 そしてカミラの手本となりたい、武を示して育てたい。

 だから見せつける。己の武のすべてを。



 駆けては矢を放ち、また駆けては放つ。

 とにかく死体の山を築き上げる。最速最短で、この森にいる魔物と魔族を狩り尽くすために。


 


「ハ、ハヤイッ!!? オイツケ……グギャアッ!」




 馬を操りながら矢を放つことで、魔物も魔族も追いつけない。

 森の中であろうと、鍛え抜いた流鏑馬の技量は変わらない。

 むしろ獣型の魔物も追いつけず、気づいた時には俺の矢の餌食となる。




「魔術ダ!! 魔術ヲ、イッセイニ放ツンダ!!」



 

 ある魔族が周りの魔族に声をかけて、俺に魔術を撃ってきた。

 黒い魔力の弾丸が俺に襲いかかるが、俺は馬を操り、それをかわしながら、反撃の矢を撃ちまくる。




「バ、バカナッ……ガァッ!?」


「ゼンブ、回避シタ、ダトッ……!!?」




 驚く魔族たち。

 その魔族たちの眉間に、俺は問答無用で矢をぶち込んだ。




「ヒッ……ヒィイイイイイーーッ!!??」




 逃がさねえよ。他人様の領土に攻めこんだんだ。その程度で済ますか。

 がら空きの後頭部なんざ、もう、ただの的でしかないんだからな。







 ーーー魔族たちは、恐怖していた。



 ほんの数分前まで、こっちが優勢だった。

 圧倒的な兵力差で圧し潰して、北エルフ族を蹂躙し、この美しい森を闇で塗りつぶし、焼き尽くせると思っていた。


 実際、そうだった。エルフ族は弓と魔術に長けているため、圧倒的物量で攻めこんでしまえば、あとは近接戦に持ち込める。

 エルフ族は近接戦が不得意。近づかれてしまえば、魔物のエサになるだけだ。



 ーーーだが、こんなの聞いていない。



 一人の男が馬に乗って現れた瞬間、悪夢が始まった。


 その男は人間だが、弓の腕はエルフ族をはるかに超えていた。

 さらに、馬を風のごとく操りながら、矢継ぎ早に矢を放つのだ。

 

 そして、当然のように、百発百中。一矢一殺。

 

 魔物たちで囲い込もうとしても、もちろん即座に離脱される。

 自分たちの手で魔術を放って殺そうとしても、それも全て避けられて、逆に魔術の出どころから自分たちの居場所が見つかり、瞬く間に射殺される。

 


 ーーーなんだこれ、なんなんだ。



 こんなの、勝負になっていない。

 殺されているという表現よりも、処理されているという表現の方が。


 もはや、魔物たちにも恐怖が伝播している。

 血も涙もない獣たちが、恐れ始めている。


 逃げようとしても、無駄だった。

 背を向けた直後、後ろに退いた直後、誰かの頭蓋が矢に貫かれているのだから。


 黒い長髪の、細身の男。

 長い弓を馬上にて自由自在に操り、絶死の矢を放つ、修羅。 



 こいつの方が、ずっとーーー悪魔だ。



 







 

 そして、30分後。

 魔族の頭数が減り、統制を失い、混乱した魔物たちはエルフ族に狩られる。


 形勢逆転ってやつだ。カミラも風魔術でけっこう魔物を倒していたし、エルフ族も奮起して逆襲していたから、戦場の流れが一度変われば、あとはこんなもんだ。


 それと、俺が城から持ってきた矢も尽きた。

 久しぶりに流鏑馬をやってみたが、ほぼ外すことはなかったな……今日は調子が良くて安心したぜ。ぶっつけ本番でこれなら上出来だろ。








 ーーーあ、でも、6本も外したから、もし随波斎殿がいたら『なまり過ぎじゃ。千本やり直せい』って言われただろうなあ。










 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第2章、第5話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 氏真の戦闘シーンが良かった!!アクション描写が良き!!


 氏真の流鏑馬、痺れたぞ!! どんどん無双を見せろ!!


 次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

 と、思ってくださいましたら、


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 また気軽にコメント等を送ってください!!皆さまの激励の言葉が、鈴ノ村のメンタルの燃料になっていきます!!(°▽°)


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 今後ともよろしくお願いします!!





 鈴ノ村より

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